IS バニシングトルーパー 046
胸部の大型ビームキャノン「メガ・スマッシャー」、頭部に内蔵されている火炎放射器、両腕に取り付いている大型クローにあるメガ粒子砲、そして背部から大量に飛び出すホーミングミサイルなど、意外と多彩な射撃武装を持っている。
おまけに中に隠れているパイロットがどういう神経か、外部スピーカーで一々暑苦しい叫びを上げてくる。
「さっさと機体を渡せ!!」
「大声出すな! このタコ星人が!」
ヒュッケバインガンナーのバーニアを吹かしてガルガウの攻撃をかわしつつ、クリスはグラビトンライフルで反撃する。
体の具合が悪いだけに、その頭を刺激する叫びを聞いて苛々する。
神経が太いのか衰弱だったのか、腕の中にいる銀髪少女は未だに意識回復の兆しを見せない。
これだけ騒がしいのに。
「誰がハゲだ!! 我が名はヴィガジ! 貴様ら野蛮種族を管理する監査官(インスペクター)の先兵である!!」
気にしていることを突かれたか、ガルガウのパイロットは激怒した口調で絶叫する。
腕の大型クローでグラビトンライフルのブルバーストを防御した衝撃で震えながら、ガルガウは背中のハッチを開放する。
そこから大量の黄色球状ホーミングミサイルが飛び出し、ヒュッケバインガンナーを追尾する。
それに対して、クリスは機体を上昇させながらグラビトンライフルの銃口を後方に向けてトリガーを絞り、そのホーミングミサイルを漏れずに光球に変えていく。
「空間戦闘できる機動兵器は、下等生物である貴様らには過ぎたもの!!」
ガルガウの胸部にあるメガ・スマッシャーが輝き、ヴィガジと名乗った男の声と共に極太の熱線が空を疾走する。
「だから、取り上げねばならんのだ!」
射線上にあった雲が一瞬で消滅され、エネルギー波は標的のヒュッケバインガンナーへ向かっていく。
ヒュッケバインガンナーを急降下させ、クリスは砲撃を容易く回避して、舌打する。
「分かりやすい自己主張だな。だが……」
しかし相手の正体が分かったら、遠慮する必要もなくなった。
そもそも偉そうに叫んでいるが、状況から考えれば、このヴィガジって男はメキボスにいい様に使われているとしか思えない。
自分の力には絶対的な自信があるだろうけど、この俺と出遭ったのが運の尽きだ。
ゲストなど、「本当の敵」が来る前に、一人残さず凶鳥の生贄となってもらう。
「……消えてもらう!」
ガルガウから遠く離れた後ヒュッケバインガンナーをUターンさせ、クリスは決然とした表情でガルガウへ真っ直ぐに突き進む。
手加減できる状況じゃないし、する気もない。
悪いが、一気に沈めてやる!
「リープ・ミサイル!!」
AMガンナーの両サイドにあるコンテナが開かれ、そこから大量のミサイルが発射され、ガルガウへ飛んでいく。
ヒュッケバインMK-III本体のマルチトレースミサイルより大きい弾頭だが、それでも巨大なガルガウの前では、小さな羽虫の群れのように見える。
当然、それだけであのミニゴジラを破壊できるとは思っていない。
ミサイルを撃ち終わった次の瞬間にクリスはスロットルを限界まで押し上げ、ヒュッケバインガンナーの最大推力を搾り出す。
「ガンナー、フルブースト!」
加速中のガンナーから落ちないようにゼオラの肩を強く抱き寄せ、クリスは一度精神集中しるように瞼を閉じ、それを開いた。
前方にある標的を見据えた蒼い瞳に、澄んだ闘気に満ちた冷酷な光が湛える。
「T-LINKフルコンタクト、エネルギー充填開始!」
クリスの念じるままに、ヒュッケバインMK-IIIの動力炉が激しく吼えだす。そこから生じた莫大なエネルギーがコネクタを通じて、AMガンナーに供給されていく。
ヒュッケバインガンナーが前方に突き出している四門のG・インパクトキャノンが同時にチャージし始め、砲口の奥に禍々しい黒い輝きを膨張していく。
「ふん、馬鹿め!!」
満天から降って来るミサイルの雨に避けもせず、ヴィガジは両腕のメガ粒子砲で迎撃し、空中に光球の列を作り出す。
中から漏れた一部のミサイルがガルガウに直撃してダメージを与えたが、それは極めて軽いものだった。
機体の大型化には被弾率と運用コストの上昇などデメリットが伴うが、それ以上に出力と装甲も大幅に強化できるメリットがある。
爆発の黒煙を振り払い、ヴィガジはガルガウのメガ・スマッシャーの砲口を展開して、真正面から向かってくるヒュッケバインMK-IIIに照準を合わせる。
「貴様の命ごと、その機体は貰い受けるぞ!」
「ターゲットロック、チャージ完了!」
冷静に呟くクリスの視野に映るガルガウの胸部から、一点集中で発射された砲火が圧倒的な光量と大きさを伴って襲い掛かってくる。
直線加速中のヒュッケバインガンナーは、もう回避できないように見える。
しかしそもそも、回避する必要はない。
カッと目を見開くと、クリスはゼオラの後頭部を手で庇いながら、ヒュッケバインガンナーに最強武装の攻撃命令を下した。
「フルインパクトキャノン、デッドエンドシュート!!」
刹那、ヒュッケバインガンナーの砲口から暗闇が膨れ上がった。
直径十メートルになんなんとする重力の柱が、四門のG・インパクトキャノン砲口から一斉に迸り出て、迫り来るメガ・スマッシャーの光とその先にあるガルガウごと飲み込む。
トロニウムエンジンが生み出す膨大なエネルギーを利用して、四門の重力衝撃砲で一斉に重力波を発射して射線上の全てを押し潰すという、ヒュッケバインガンナーの必殺技「フルインパクトキャノン」である。
その威力は凄まじく、発射中の反動を相殺するためにバーニアを吹かしても、ヒュッケバインガンナーは徐々に後退していく。
「う、うわああああああっ!!」
重力衝撃砲の直撃を浴びて、ヴィガジは苦しげな絶叫を上げる。
自慢のガルガウの防御力は、もはや意味を成さない。
圧倒的な破壊力を持つヒュッケバインの重力波はガルガウの外部装甲が剥ぎ取り、衝撃が内部まで暴れまわる。
数瞬ののち、光と熱が内部から膨れ上がるように飛び出して、攻撃を耐えなくなったガルガウはついに大爆発を起こし、崩壊した。
盛大な爆炎と爆風が辺りを包み、空中に飛び散る残骸が更に爆煙を広げていく。
破片が腕の中の少女に当らないように防御壁のG・テリトリーを展開してつつ、クリスはヒュッケバインガンナーを爆心地から離脱させる。
「おのれ! この屈辱、忘れんぞ!!」
突如、暑苦しい男の叫びが空に響き渡り、クリスはビックリして視線を声の元へ向ける。
ガルガウの爆炎から、大きな鏃のようなものが飛び出した。
ロケットのように噴射炎を引いて、その物体は上昇していき、空の向こうへ消えていく。
「脱出ポット!?」
その物体が消えて行った方向を眺めながら、クリスは目を丸くして口をポカンと開いた。
まさか脱出機能があるだなんて思わなかった。
おそなく本体はその中枢部分だけで、ガルガウはあくまで一緒での運用を前提としたパッケージなのだろう。
あの野郎、次に出てきたら確実に破壊してやる。
作品名:IS バニシングトルーパー 046 作家名:こもも