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IS  バニシングトルーパー 047

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 あの嫉妬するとすぐに暴力を振るうシャルが、そんなことを言うなんて。
 
 「だから、好きにしていいって。見逃してあげるから」
 顔をそっぽに向けて、シャルは小声で呟く。
 本当は嫌だけど、セシリアには借りがあるから、今夜くらいは見逃す。
 あとにクリスを染め直すけどね。

 「はぁ……律儀だなお前は。でも!!」
 「きゃっ!!」
 シャルの心境を察したか、クリスはセシリアの体を引っ張り寄せて、二人をまとめてギュッと抱き締めた。
 少女二人の華奢な体の柔らかい感触を腕の中で一遍に味わい、その温かさに生きることを実感する。
 
 「心配かけてすまない。ありがとう、二人とも」
 「ハーレムなんて、認めないからな」
 「わたくしとしては、それでも構いませんが」
 腕の中でシャルは文句を言いつつ抱き返し、セシリアはぱあっと笑顔を咲かせた。
 今の彼がちゃんと元気いっぱいで抱き締めてくれるのなら、他のことはどうでもよくなった気がする。
 

 「これから危ないことをもうやめてよね」
 「本当ですわ。心臓が止まるのかと思いましたわよ」
 「……今から独り言を言うけど、適当に聞き流してくれ」
 二人を抱き締める腕にさらに力を篭めて、クリスは薄い笑みを浮べ、決心したような目で口を開いた。
 自己満足だろうけど、やはりこの二人には聞かせてやりたいと思った。 

 「俺は、重傷した体を欠番にされたバルシェムのパーツによって、ISに適格できるように修復された人間だ。役目はゲートを開き、アストラナガンの起動キーを呼び寄せることと……いや、今はこれだけだ」
 「……バルシェムって何?」
 「意味がよくわかりませんが……」
 困惑な表情をして、シャルとセシリアは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
 当たり前の反応だ。彼女たちが知り様のないことばかりだから。
 でも分からなくていい。どうせ何も変わらない。
 
 「そう簡単には死なないってことだ。ともかく、もう嫌な思いもさせないことだけは約束するよ。お前達は俺が守るし、心配ももうかけない。……ところで、俺と一緒にいたあの子はどうした?」
 ふと捕獲したゼオラのことを思い出して、クリスは二人に問いかけた。
 すると、二人は露骨に嫌そうな表情を浮べて、ギラリと双瞳を険しく光らせる。
 なんでそういう嬉しいセリフの後に別の女のことを聞くかな。
 わざとか? わざとなのか? 自分でも臭いと思ったからわざとやったのか?

 「あら、わたくし達がいますのに、まだ足りませんの?」
 「いや、違うって。ただ、俺達と近い歳だし、事情があるんじゃないかなって。情報を提供してくれるかもしれないし」
 「本当に? む、むねが大きいからじゃなくて?」
 「俺を何だと思ってんだ!!」
 確かにゼオラって子の胸は大きい。
 シャルを超え、セシリアや箒すら超越し、千冬と互角のレベルであった!
 だがあえて言わせて貰おう、脚フェチであると!
 そして胸を押し付けてくるのをやめるんだ、二人とも。
 嬉しいけど、傷口が痛む。

 「……あの子なら別の部屋に寝かせてあるよ。一応監視付きだけど」
 「そう。分かった」
 重傷したわけでもないから、明日になったら目が覚めるだろう。
 IS学園の保護下に置かれるか、別の所に移送されるか。処置が問題だな。
 しかし約束した以上、放っておくのはポリシーに反する。
 それにあの子の面影はなぜか、どこか見たことあるような気がする。何とか話がしたい。
 ブライアンとのコネを少し使わせてもらおうか。

 「そういえばお前達、お風呂はまだだったな。いって来いよ。俺は食べ物を少し漁ってくる」
 気になっていたことを片付けた後、空腹感が一気に襲ってきた。
 部屋から出ようと、クリスが布団から立ち上がると、すぐにシャルとセシリアに止められた。

 「クリスはここで待てて。食べ物は私が持ってくるから」
 「では、わたくしはお湯を貰ってきます。クリスの体を、拭いて差し上げますわよ」
 クリスを布団の中に戻した後、シャルとセシリアは立ち上がる。
 そりゃお風呂には入りたいけど、まずはクリスのことを優先したい。

 「うわっ、何この至れり尽くせり具合。堕落しそうだな」
 出て行こうとする二人に微笑みかけて、クリスは半分冗談のつもりでそう言う。
 こっちの体の具合を心配してくれるのはありがたいけど、やはり美少女二人をはべらせるのはちょっと申し訳ない気がする。
 しかしシャルとセシリアにとって、こういう遠慮こそ不要。
 好きな男のために何かをしてあげる。それが二人にとって一番嬉しいことなのだろう。

 「あれっ、これって……」
 部屋の引き戸を開いたシャルは何かを発見したのか、小さな驚き声を上げて体をしゃがみ、床に置かれている何かに目を向ける。
 その視線の先にあるのは、二つの皿だった。
 一つ大きい皿の上にはおいしそうな食物が無造作に山盛りされていて、もう一つ小さい皿の上には、いかにも料理下手な人間が作ったような、形が崩れたおにぎり二つだけが乗せられている。

 「……誰かがここに来てたのかな?」
 不思議そうな表情で首を傾げて、シャルは二つの皿を持ち上げて、クリスに見せたのだった。




 *




 一方この頃の旅館の大広間では、賑やかで明るい雰囲気に満ちていた。
 海上戦闘で疲れ果てた学生たちが完全に夕食の時間を寝過ごしてしまったため、今は遅めの食事を取っている。
 とは言え、とっくに食事を済ませた教導隊の二人と、かなりの人数の一般生徒までこの場に居て、ジュースを持って談笑している。
 今日は篠ノ之箒の誕生日であるから、この集まりは彼女の誕生日パーティーという名目の宴である。

 「しかし、シャルロット達は本当に呼ばなくていいのか?」
 「ああ、ダメ男の面倒を見てるから、来れないとのことだ」
 受信したばっかりの「超まずい」というメールの文面を眺めながら、レオナは妙に冷たい声でラウラの質問に返事した。
 次の瞬間に、彼女の携帯が震えだした。ディスプレイに映った直属上司の名前が目に入り、レオナは携帯を耳に当てて広間から出て行く。

 「悪いな、何も準備してなくて。てっか誕生日なら、早く言ってくれねえと」
 「いや、そんな気を遣わなくても大丈夫だから。ありがとうな」
 隆聖からの気遣いに笑顔で礼を述べ、箒は大量の女子生徒に囲まれているゼンガーを眺める。
 生徒からサインを強請られて、てっきり「もはや問答無用!!」って両断すると思ったら、意外と真面目に生徒たちの相手をしている。
 おそらく皆も、硬派なゼンガー少佐の前ではふざけた話題を振る勇気はないだろう。

 「凄い人気だな、ゼンガー少佐」
 「気持ちは分かるよ。男の俺でも……」
 「なっ! 一夏アンタ、やっぱそういう趣味だったの!?」
 箒の意見に追随する一夏の言葉は、隣の鈴の大きな声で遮られる。
 無論、これは鈴が冗談のつもりで言ったことであるが。

 「ゼンガーが若い子に懐かれるのはよくあることだ。頼りになるイメージがあるし、顔もそこそこいいしな」
 近くから聞こえた渋い男声は、缶ビールを飲んでいる開少佐からのものだった。