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IS  バニシングトルーパー 048-049

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 そして勝手知ったるの様子で、クリスはギョロギョロしているシャルの手を引いて中へ入っていく。
 イルムとリンのマンションを、クリスは数回か来たことある。市内中心部からはかなり離れているものの、会社までは近い。
 落ち着いた感じの内装と、静かな周囲環境と相俟って、中々に居心地がいいマンションである。
 ただし、勝手にマオさんの部屋に入ると薔薇棘鞭刃に叩かれるから、注意する必要がある。

 「マオさんは居ないんですか?」
 「ああ、ちょっと用事でな」
 クリスとシャルをリビングまで案内して、イルムは料理と食器をテーブルに並べていく。
 野菜サラダ、クリームスープ、牛肉の赤ワイン煮、パン。そして、三つのグラスに注がれたワイン。
 別に知らない仲じゃないし、あまり凝った料理は作ってない。重要なのは、リラックスできる楽な雰囲気。しかしイルムの料理の腕を知っているクリスはそれらを眺めているだけで、食欲を限界まで掻きたてられていた。

 「あっ、マオさんの写真だ……」
 その間に、シャルは好奇心に満ちた目で部屋の中を見回す。
 彼女にとって、年上の知り合いの家に招待されること自体、かなり珍しい経験であろう。
 父の屋敷より遥かに狭いけど、それよりずっと暖かい感じがする。数ヶ月前まで、またこんな暖かい気持ちになれるなんて、思ってもみなかった。
 イルムさん、マオさん、マリオン先生にエクセレンさん。皆良い人たちだ。
 ずっとこんな感じで生きていけたらいいな。クリスと一緒に。

 あっと言う間に、イルムは食事の準備を終えた。三人は長方形のテーブルを囲んでナイフとフォークを取って、料理をいただく。

 「うん~おいしいね!」
 イルムの手料理を一口食べたシャルは、すぐに賛美の声を上げた。絶妙な味付けと煮込み加減で、柔らかい牛肉が口の中で溶けていくようだった。
 隣のクリスは、男の子らしい旺盛な食欲で料理を平らげていく。
 午後に会社の寮に到着して、掃除やら荷物の片付けやらで、ずっと体を動かしていたから、腹が減っていた。
 シャルにも一応社員になったから、手続きを済ませば部屋を分け与えられるでしょうけど、やはり一緒にいたいと言う理由で、クリスの部屋に住むことにした。 
 IS学園の寮に及ばないが、二人が住むには十分広い部屋だった。元々結婚したスタッフが多くて、夫の面倒を見るために妻が一緒に寮に住んでいるケースが多いため、規則上でも然程の問題にはならない。 

 「そういえばお前達、学園の方は大丈夫なのか?」
 満足したような微笑でワインを啜り、イルムは食事に没頭しているクリスに話しかけた。
 するとクリスは手を止めて、意外そう表情を浮べる。

 「学園? 」
 「教導隊の合宿、あるみたいじゃないか」
 「……ああ、アレですか。まあ、参加はしてみたいんですけど、仕事溜まってますし」
 軽く肩を竦めて、クリスは笑い返す。

 「そう言えば、壱式はオーバーホール中みたいですね。イルムさんまたやられたんですか?」
 「またってなんだよ。自慢じゃねえが、リン以外の相手に負けた覚えはない」
 「でもいい機会ですし、いっそのこと参式に乗り換えたらどうですか?」

 食事を進めながら、クリスはイルムにそう提案してみる。
 グルンガスト壱式は、超闘士グルンガストシリーズの中では確かにロールアウトの時期の早い機種。細部のチューンを受け続けてきたが、やはり最新型の参式にかなわない面がある。
 しかしイルムはすぐに手を振って、笑ってそれを却下した。

 「やめておくよ。そこそこ思い入れがあるし」
 「それは……分かりますけどね」
 大破したビルトシュバインとエクスバインのことを思い出して、クリスはやや複雑な表情でワインのグラスを揺らした。
 あの二機がまもなく解体されると思うと、妙に寂しい気持ちになる。
 ビルトシュバインは予備パーツが厳しいから諦めるしかないけど、エクスバインはまだ修理しようと思えば修理できるレベル。しかしヒュッケバインMK-IIIが稼動している今、わざわざ修理する理由はない。
 特別に強力な機体ってわけでもないし、量産向けと言えるほどのコストパフォーマンスもない。それに修理した所で、もう使わない。
 エクスバインのコアは、すぐ別の機体として組み上げられていくのかな。
 難しい顔で眉を顰めて、クリスはワインを飲み干したのだった。 

 
 夕食の後、三人は食器を片付けて、リビングのソファに移って、残りのワインを消費しながら雑談を続ける。
 と言っても、アルコールに弱いシャルは既に頬を赤く染め、頭をクリスの肩に預けて寝息を立て始めていた。

 「やれやれ、随分と仲がいいんだな。あとで車を出そうか?」
 「……ありがとうございます」
 苦笑いしながらワインを注いでくれるイルムの好意に、クリスは甘えることにした。
 面と向かって言ったらシャルは怒るけど、最近のあいつはちょっと太ってきた気がする――お腹の辺りが。
 背負ったまま寮に帰るとか冗談じゃない。

 「いいってことよ。それより……」
 グラスを持ち直して、イルムは引き締った表情になり、真剣の声で話しを再開した。

 「……例のゼオラ・シュバイツァーって子、ざっと調べてみた。幾つかそれらしい手掛かりが見付かったけど、これ以上の調査は本格的に力を入れる必要がある」
 「そうですか。ありがとうございました」
 「あの子、記憶が混乱しているそうじゃないか。よく名前を聞き出せたなお前」
 「まあ、なんとか。詳細内容はメールで送ってください」

 ワインを眺めながら、クリスは気が重そうな声でそう返事した。
 ゼオラ・シュバイツァーはしばらくに学園が預かることになった。でも新学期になれば、恐らく別の所に移送されることになるでしょう。
 本社に戻る前、一回だけ会話を試みたが、返って来たのは拒絶だった。 
 ずっと膝を抱えて黙り込んで、こっちを見向きすらしない。まるでこの世の全てを拒んでいるように。強く刺激しすぎると、すぐヒステリックに泣き喚き、断片的な言葉を叫ぶ。
 医者の診断によると、強力な洗脳を受けた可能性が高いし、肉体にも投薬された痕跡がある。正直、情報を聞き出すところじゃない。
 この子は心も身も深いダメージを負わされている。普通なら学校を通っている年頃なのに。
 だが、彼女に傷を癒す時間を与えられることはないだろう。
 彼女にとって、味方はどこにもないのだから。

 「まあ、IS学園に居れば、ひとまず安心だな」
 「……そうですね」
 IS学園には教導隊二名と大量の第三世代IS操縦者がいる。今に襲撃するのはアホのすることだ。移送中に奪還する可能性が一番高いけど、そもそもテロリスト達にとって、彼女は危険を冒してまで奪還する必要のある存在なのだろうか。
 ただの道具として使われていたのに。

 寝ているシャルの頭を膝の上に乗せて、クリスは優しい目で彼女の寝顔を眺める。
 シャルも、父親に道具として使われていた。今は随分と幸せそうな表情をできるようになったけど。
 でもあの時シャルを助けなかったら、シャルもあの子と同じ境遇になったのかもしれない。