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IS  バニシングトルーパー 048-049

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 静かな声で、クリスは説得の仕事を引き受けた。既に頭の中に叩き込んだ資料を机に置いて、椅子から立ち上がる。

 「ああ、任せた」
 「では、失礼します」
 言葉もなく小さく頷いて、イングラムは椅子を回転させて、窓の外へ視線を向けた。それを退室の許可として受け取り、クリスは一礼して踵を返した。


 「……学園は、楽しいか?」
 クリスがドアノブに手を伸ばした瞬間、イングラムは無感情な声でそう問いかけた。
 後ろへ振り向かずに、クリスは伸ばしかけた手を引っ込めた。
 突如にそんなこと聞かれて少々驚いているが、予想内でもある質問だった。なるべく平穏な声で、クリスは答える。

 「はい。そこそこ楽しいです」
 「……そうか」 
 クリスの返事を聞いたイングラムは、こともなげにそう答えたのだった。





 * 





 クリスがイングラムの社長室から出た頃、シャルはオオミヤ博士と一緒に、会社敷地の奥にある格納庫の近くまで来ていた。 
 この会社の格納庫は全部で七つまであって、うち五番から七番は既に解体した機体のパーツや武装を保管する倉庫として使われていて、残りの一番から四番が組み立てと整備作業に使用されている。
 そして今のシャルとオオミヤ博士は、量産機汎用パッケージを収納している第二格納庫へ向かっている。

 「あっ、あれって……」
 第三格納庫の前を通りかかった時、中で整備されている二機のISが目に入り、シャルは小さな驚き声を上げた。
 一機はラウラが使っていた砲撃用IS、R-2パワード。そして見たことのないもう一機は、直角的なラインで構成された白と紫の装甲を持ち、どことなくR-1と似ているスマートな機体だった。

 「どうした? ……ああ、あれか。あれはRWシリーズ一号機のR-GUN。ロールアウトしたばかりの新型だよ」
 「R-GUN……ですか」
 シャルの視線を追って、オオミヤ博士はその機体の名称だけを教えた。
 装着する予定のプラスパーツより本体が一歩先に完成し、組み立てられたのだが、SRX計画の全貌を知らないシャルに、これ以上の説明をすべきじゃないし、してもあまり意味がないのだろう。

 第三格納庫を後にして、シャルとオオミヤ博士は第二格納庫に到着した。
 格納庫の中には、すでに一個だけ完成されたパッケージ試作品がハンガーに固定され、壁際に並べられていた。
 浅葱色をしたその砲撃用パッケージは一つのモジュールとしてまとめられており、装着する時に展開して機体に取り付くように設計されている。
 さらに奥には、まだ組み立て中のパッケージが何個かあって、数名の整備員がそれらを囲んで忙しそうに作業している。

 「このパッケージはラファール・リヴァイヴも装着できるけど、君の機体はカスタマイズされているから、まずはオーバーホールも兼ねて、ノーマルに戻しましょう。テストが終わったらまたカスタムパーツを装着してあげるよ」
 「はい。わかりました」
 オオミヤ博士にそう返事して、シャルは収納状態の愛機にそっと手を当てた。
 海上の戦闘とかで結構酷使してきたのに、オーバーホールなんてもう半年ぶり。確かにそろそろちゃんと整備しないと、色々と危ないかも。この際だから、再調整もしてもらおう。

 「ようこそ第二格納庫へ、マドモアゼル」
 二人がやりとりをしていると、見知らぬ男声が背後から聞こえた。後ろへ振り向くと、緑色のバンダナをつけて、作業服を着た整備員らしき男がそこにいた。
 どうやらさっきにキザな口調で声をかけてきたのは、このクリスより三、四歳年上の若い男らしい。

 「あっ、祐君か。おはようございます」
 「おはよう、オオミヤ博士。そして……」
 「きゃっ!」
 オオミヤ博士に祐と呼ばれた男はいきなり片膝を地面について、汚れた軍手を脱ぎ捨てて素手でシャルの手をとり、熱い視線で彼女を見上げる。
 その唐突で意味不明な奇行に、シャルは小さな悲鳴を上げた。

 「ああ、すまない。君の美しさは、僕を少々狂わせたようだ。僕の名は、真宮寺祐。よろしければ、お名前を教えていただけないんでしょうか、美しいお嬢さん?」
 「あ、えっ、えっと……シャルロット・デュノアです」
 いきなり馴れ馴れしいと思うけど、どうやらオオミヤ博士の知り合いでここの整備員だから、シャルは戸惑いながらもとりあえず自分の名を教えた。
 すると真宮寺祐は目をキラキラさせて、わざとらしい声で言葉を発する。

 「綺麗な名前だね。今夜は時間があるかい? よろしければ、この僕と……」
 「カタパルトキックァァ!!」
 「こほおあああっ!!」
 シャルロットを誘う言葉を完成する前に、聞き覚えのある少年の叫び声と共に、鋭い衝撃が祐の脇腹を貫いた。
 直撃を受けた体が宙を舞い、祐は備品箱の中へ吹き飛ばされた。小さなネジやギアが飛び散り、地面に落ちて音を上げる。
 そして祐を蹴り飛ばした張本人はシャルを庇うように立ち、祐が落ちて行った方向へ警戒心に満ちた目で睨みつける。

 「まったく、こうなると思ったよ!」
 「クリス……」
 ここには来ないはずだった恋人の出現に驚き、シャルは目を大きく見開いた。
 走ってきたのか、少しずれたネクタイを直しながら、クリスはシャルへ振る向いて、心配そうな表情をして彼女を肩を掴んだ。

 「いいか、シャル。こいつは危険人物だ。言葉に耳を貸しちゃダメ。近づいてきたら即射殺。それが正しい対処方法だ」
 真宮寺祐、なぜ日本からフランスまで就職しに来たかは知らんが、ハースタル機関整備班所属の整備員。手品などを得意とする器用な男だが、いまひとつモテないのが悩み。
 総じて見れば悪いやつじゃないが、シャルにちょっかいを出すのは我慢ならん。

 「何するんだおまえ!!」
 備品箱の中から抜け出した祐は、大声で抗議しながら近づいてい来る。

 「人をばい菌扱いして! お前も我々“D(ドウテイ)”の一族の一員だろう!!」
 シャルロットとの会話を邪魔したクリスを指差して、祐は額に青筋を立てた。
 日本から離れて、ここで働き始めてからもう一年半。クリスとの付き合いはそれほど深くもなく、かといって浅くもないが、今の行為は第三代童帝(どうてい)たる自分へ、さらに一族への反逆である。

 「えっ? Dの一族って?」
 訳の分からん言葉にクエスチョンマークを浮べて、シャルは不思議そうな顔でクリスに問いかけた。隣のオオミヤ博士は呆れた顔でため息をつき、何人かの整備員は無言に作業しながら背中に哀傷を漂わせる。
 そしてクリスは返事もせずにシャルの腰に手を回して抱き寄せ、祐に向かってきっぱり言い放つ。

 「この子は今、俺と同じ部屋に住んでいる」
 「……えっ!?」
 「一緒に生活してるんだよ。もう何ヶ月もな」
 「何だとおおおおおおおおおおおお!!!!」
 重大なショックを受けたように、祐は頭を抱えて絶叫し、地面に崩れ落ちる。
 何と言うことだ。数ヶ月ぶりの間に、こいつは女をゲットしてしまった!!