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IS  バニシングトルーパー 050

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 自分がシャルを独占したいように、シャルが自分を独占したいと思うのも当然かもしれない。ならば、気が済むまでやらせるのもまた、彼氏の役目かもな。
 そんな原始的なお仕置きは、数分間に渡ってやっと止んでくれた。

 「気が済んだ?」
 「……微妙」
 クリスの首に抱きついたまま、シャルは自分が残した跡を指で触りながら、拗ねたような口調でそう返事した。
 そりゃ、クリスがセシリアが好きだってことくらい知ってたし、それでも選んでくれたのは嬉しいけど、さすがに目の前であんなことをされて欲しくなかった。
 彼の体に、自分以外の匂いが付くのは嫌だ。

 清冽な月光を浴びながら、二人は静かに抱き合う。シャルは甘えるようにクリスの首筋に顔を埋め、クリスもシャルのさらさらとした金髪に頬を寄せた。
 いつもの大人しくて、優しい香りがクリスの鼻腔を擽り、無言のまま時だけがゆっくりと流れていく。

 「浮気ダメ。私だけ見て、私だけとキスして、私とずっと一緒に居て」
 最初に沈黙を破ったのは、シャルだった。

 「いいよ」
 甘えるような可愛らしい、けれど僅かな不安が混じった声が耳元に響き、簡潔な言葉で返事したクリスは、彼女を抱き締める腕に力を込めた。
 元々そのつもりだ。改めて約束するまでもない。

 「じゃ、アイスを食べさせて」
 「……アイスって」
 床に放置されていたカップの中、ミルク味のアイスは既に完全に溶けて、ドロドロになっていた。スプーンもその中に沈んでて、もう見えない。

 「もう溶けたから、諦めろ」
 「ヤだ~!」
 まるで子供みたいに頭を横に振り、シャルはクリスの上で体を揺らし、椅子の軋む音が夜闇に響く。
 この子、実はセシリアに食べさせた時からちゃんと起きてたとかじゃないだろうな。
 目を瞑って、シャルは餌を強請る小鳥のように開いた口を少し突き出す。

 「……分かったよ」
 そんなに変なプレイがしたいのなら、望み通りしてあげる。
 既に溶けたアイスのカップを手に取り、クリスはドロドロに溶けた中身を口に含む。そしてシャルの両頬を抱えて、濡れた赤い唇に自分の唇を重ねた。

 「ちゅっ、ちゅ……ぐぅぅ……」
 舌をシャルの口内に潜り込ませて、溶けたアイスを少しつつシャルの口に流し込む。アイスのまろやかな甘さが二人の舌先に染み渡り、唾液すら甘く感じられてしまう。
 クリスが口移しで飲ませたアイスを、シャルは一滴も逃すまいとコクコクと喉を鳴らして飲み込んでいくが、それでも幾筋かの白い液体が口の端から溢れ出して、二人の顎に伝う。

 「ああ、ティッシュは……って、ベランダにあるわけないか」
 「じゃ、任せて」
 小さな舌を軽く出して、シャルはペロペロとクリスの顔にあるアイスを舐め始めた。口元から顎、さらに首筋まで丁寧に、子猫のようにチロチロと小刻みに舐めて、そして無意識なのか、すりすりと自分の体を擦り寄せてくる。
 暖かくてくすぐったい舌、服越しに感じた柔らかい体、そして鼻に突く甘い香りに、理性が少しつつ崩れていく。
 なんという恐ろしいペロリズムだ。勘弁してくれよ、明日も仕事だろうに。

 「コホン!」
 「……!!」
 二人の少々度の過ぎたスキンシップを中断させたのは、部屋の中から響いた咳払いだった。ビックリしたシャルは一瞬震えて、クリスの襟元を掴んだまま動きを止めた。
 オルコット家当主、どうやらまだ寝てなかったようだ。

 この一声で、二人は完全に冷静を取り戻した。
 額を合わせて、息の触れ合う距離で互いの瞳を真っ直ぐに見つめあい、火照った体が冷めるまで待つ。

 「……シャル」
 「うん?」
 突如、クリスは二人しか聞こえない声でシャルの名を呼んだ。

 「俺、シャルだけだから」
 「……ありがとう。大好き」
 額をあわせたまま、二人は手のひらを合わせて、目を閉じた。幸せな笑顔を浮べて。
 少女のためにできることはあまりないから、少年は何度も気持ちを言葉にするしかない。少年の気持ちに答えるために、少女はできることを精一杯頑張る。たとえ、彼が望んでいなくても。
 お互いの温もりを感じあう二人を、静寂の夜空に浮かぶ月がただ静かに照らす。部屋の中でベッドの半分を占拠したセシリアは、心の奥で生まれてから一番長いため息を吐いたのだった。

 そんな時に、何かが小さく震動するような音がベランダに鳴り響いた。

 「あっ、俺の携帯だ。こんな夜中に、誰だよ」
 ズボンのポケットから携帯の出して一瞥すると、クリスはシャルから離れて電話に出た。

 「……俺だ」
 携帯を耳に当てると、最初に聞こえたのはそんな一言だった。
 わざとらしくて、微妙に不気味な低い声だった。
 「知らん」
 手早く電話を切った。すると、すぐに携帯は再び震えだす。
 もう一度通信ボタンを押して、携帯を耳に当てた。

 「人様の電話を切るとはなんて無作法な!! これだからリア充ってやつは!!」
 「何だ、祐か。何の用だ?」
 こんな夜中に電話してくるなんて普通なら急用だと思うが、祐が相手だとなぜかくだらない用件の予感しかしない。

 「……突然だが、『とら○る』の中、お前は誰が好きなんだ?」
 やはり来たよ。くだらない用事。まあ、適当に付き合ってやるのが優しさだ。

 「うん……美柑かな。適度の恥じらいは重要だと思う」
 膝の上のシャルを見て、クリスはそう答えた。

 「そうか。俺は古○川とヤミちゃんだ。ツンデレと金髪が大好物だからな。あとティア○ユ先生も結構好みだ」
 「ティ○―ユ先生はただのヤミちゃん大人バージョンじゃないか」
 「大人って所がいいんだよ。胸とか尻とかさ」
 「そうかね。でもてっきり祐はララとかモモとかストレートな子が好みだと思ったよ」
 「ピンク髪のキャラはちょっとな……やっぱ金髪とツンデレがいいぜ」
 「否定はしないよ。ところで、話ってそれだけ?」
 案の定くだらない会話だったが、ここまで付き合えばもういいだろう。

 「……よかったな。俺達の好きなキャラが違ってて」
 僅かな沈黙の後、電話の向こうから聞こえたのか、そんな深刻そうな一言だった。

 「もしお前も古○川とヤミちゃんが好きなら、俺の決心が鈍るかもしれない」
 「……はっ? っておい」
 放置されるのが寂しいのか、祐と電話している間にシャルはまだ抱きついてきた。

 「くっ……! 貴様、美少女達と仲良くやってるようだな」
 「えっ? ああ、まあな。俺が言うのも何だけど、今俺の立場に居るのが俺じゃなかったら、俺はきっと俺の立場にいる男を呪ってた」
 「回りくどい言い方はやめろ。要は、金髪美少女とあんなことやこんなことをやってんだな!?」
 「まあ、そういう言い方も出来るな」
 「よろしい、ならば決闘(クリーク)だ。タスク・D・シングウジの名において、貴様に決闘(ファイト)を申し込む!!」
 「決闘? そんな大袈裟な」
 「うるせい! 六時に実験場に来い! 因みに貴様が来ない場合、我々一族はストライキを行うからな!!」
 「……マジか」
 Dの一族は整備班の半分以上を占めているから、全員がストライキとなると厄介だ。