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IS  バニシングトルーパー 050

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 「俺だってな! 逆ナンされたり! 娘○泉に落ちて女になって自分の裸を堪能したり! APTXなんたらを飲まされて子供になって幼馴染の女子と一緒にお風呂入りたいクマさ!!」
 「先生たちに謝れ!!」
 ジガンスクード・ドゥロの攻撃から逃げ回りながら、クリスは祐に怒鳴った。
 そんなボロい機体、グラビトンライフル一発で跡形もなく消し飛ばせるが、さすがISを対IS戦以外に使うのは気が引ける。
 というかその機体、動くたびにパーツが飛散してるし、そのまま放っておいても自滅しそうだ。

 「宇宙の因果率を捻じ曲げて、恋愛を独占する悪の根源!! さあ! お前のフラグを数えろクマ!!」
 「いまさら数え切れるか!! 大体さ、女子浴室を覗いたりパンツを盗んだり歩きながらエロ本を読んだり、それで彼女欲しいなんてお前図々しくないか?!」
 「うるさい!! それがありのままの俺だ! 神に愛されぬものを思いを受け止めるための、あるべき姿だクマァァァ!」
 そう叫ぶ祐はジガンスクード・ドゥロの両腕を前へ突き出して、展開した大型アンカーは電光を帯びて、ワイヤーを引いてクリスへ飛んでいく。
 が、いきなり内部が爆発して煙を立てて、クリスに届く前に地面に落ちた。

 「しまった!! そういや防水対策全然してなかったクマァァァァ!!」
 いまさら重要なことを思い出した祐が、悲惨な叫びを上げた。
 アンカーだけじゃない。派手に暴れ回ったせいでボロボロになっていた装甲板の隙間から、雨がジガンスクード・ドゥロの内部に入り込んで、濡れた電子装置が次々とショートしていく。
 やがてトーンという重い爆発音が響いた後、機体内部から黒煙が上がってきた。焦げ臭い匂いが広がり、ジガンスクード・ドゥロが地面に倒れて二度と動けなくなった。
 稼働時間3分56秒。ジガンスクード・ドゥロ、完全沈黙。
 背部ハッチを自力でこじ開けて、祐が機体の中から這い出た。悔しそうにジガンスクード・ドゥロの装甲を叩くと、肩関節モータが崩壊して、腕が丸ごともげてしまった。

 「……まあ、生きてれば、いつかいいことあるさ」
 祐の安否を確認した後、クリスは踵を返して、自分なりに気遣った言葉をかけてやった。
 ここまで付き合えば、もう十分だろう。体が雨で濡れたし、早く部屋に戻ってシャワーを浴びないと風邪を引いてしまう。
 今頃シャルはきっと、ベーコンエッグとコーヒーを用意して待ってくれているのだろう。
 前髪をかきあげて、彼は軽い足取りで出口へ向かってゆく。
 そして搬入口にいたDの一族達が一斉に飛び出して、地面に崩れ落ちた祐の元へ駆けつける。

 「すまねえ……お前らの思い、受け止め切れなかった。すまねえ……俺は童帝失格だ……!!」
 「いや、陛下の戦い、まことに見事でした」
 「はい。自分も心を打たれました。今回は運が悪かっただけです。気にすることはありません」
 「そうです。雨がなければ、確実に陛下の勝利でした」
 「お前ら……」
 励ましてくれた民達の顔を見回して、祐は言葉を失った。
 一族の偶像たる自分が、逆に民達にフォローしてもらうなんて情けないぜ、祐。いや、タスク・D・シングウジよ。
 地面から立ち上がり、いつもの楽天的な笑顔が浮かび上がる。
 そうだ。自分は神に見捨てられたものたちの思いを受け止める童帝だ。簡単に倒れるわけにはいかない。

 「諸君、今からジガンスクード・ドゥロを回収する! 今夜から防水加工だ!!」
 「「「「「「「おおおおお――!!」」」」」」

 戦いの果てにあるのはきっと理想も奇跡でもない。ただの虚しさだ。
 だが彼らは信じている。リア充と戦うこと自体に意味があると。
 しばらく、オール・ハイル・タスク! と呼号する声が、実験場を埋め尽くしていたのだった。




 *




 山田真耶先生は今、特盛りのカツ丼と眺めていた。
 とろっとろの半熟卵に、サクサクのカツ、そして、つゆたっぷりのつゆだく。いかにも美味しそうに見えるけど、食欲が全然湧いてこない。
 それは、今彼女が殺人疑惑で逮捕され、尋問されているからではない。そもそもここは警察署ではない。

 「いや~うまいんだな、これが!!」
 自分がうっかり殺したはずだった赤ワカメが今、介護用ベッドの上で上半身を起こして、美味そうにカツ丼を食べながら、そんな嬉しそうな一言を発した。
 ここは殺人事件の現場になりかけていた、IS学園医療施設の看護室である。
 その男を自分が殺したと思ったら、実は死んでなかった。アニメやマンガじゃよくある話だ。うん。
 幸い本人も覚えてないみたいだから、自分から言わなければ問題ナッシング!

 「ではもう一度確認するぞ」
 真耶と一緒に来た織斑千冬がベッドの側に立ち、カツ丼を食べている赤ワカメに話しかけた。
 威圧感のある声に箸を止めて、赤ワカメは目を上げて、千冬の警戒心に満ちた視線を受け止めた。

 「名前はアクセル・アルマー。それ以外のことは全て思い出せない。そういうことだな?」
 今までこの赤ワカメから得た情報を総合した結果を、千冬は彼に確認する。
 アクセル・アルマーという名前以外、自分のことに関しては何も思い出せない。この男はいわゆる記憶喪失というやつだ。
 さすがに胡散臭いと思うが、医者の話によると、どうやら本当のことらしい。海の中で頭を強くうったのかもしれない。

 「いや~、そうなんだよな、これが。ところで姉ちゃん、今独身?」
 しかしこの能天気っぷりはどうしたものか。記憶喪失した人間はもっとこう……不安がるとか、憂鬱になるとかじゃないのか。

 「そういえばさ、俺を海から助けたのは姉ちゃんだよね?」
 「ああ。貴様を海岸から拾ってきたのは私だ」
 千冬は小さく頷き、アクセルの問いに返事した。

 「じ、じゃ、その、人工呼吸もしてくれた……とか? きゃっ♪」
 自分から聞いといて、まるでJKのようにアクセルは恥かしそうにシーツで顔を隠した。

 「いや、しようとしたが、その前にうっかりお前の腹部を踏んだのでな。勝手に吐いたから結局はしなかった」
 キモイ。気持ち悪い。なんだこの男。今すぐシシオウブレードで真っ二つにしたい。
 心の底から沸いて出てくる軽めの殺意を抑えながら、千冬はそう返事した。
 実はわざと踏んだのだが。

 「 ガ━━Σ(゜Д゜|||)━━ン!! !」
 シーツの中、アクセルは死んだふりをする。
 そしてすぐ立ち直って、カツ丼を再び食べ始めた。

 「しかし、姉ちゃんよ。俺はこれからどうすればいい?」
 「自分で考えろ。こっちはお手上げだ」
 記憶喪失じゃ家族への連絡方法がない。それになぜあの場所に現れたのかもまだ分からない。ここも場所が場所だけに、勝手に出入りされては困る。

 「だったら、俺をここで働かせてくれよ」
 カツ丼を完食したアクセルは箸を置いて、口元を拭きながら少しだけ真面目そうな声でそう言った。

 「はっ?」
 「いやほら、俺今、金も行く所もないじゃん? だからさ、もう少しここに居させてくれよ。働いたら、職業を思い出すかもしれないしさ」
 「……」
 「それにその……ポッ」