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IS  バニシングトルーパー 051

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 薄く微笑みながら、セシリアは手のひらにある駒をクリスに見せる。
 ミニサイズの携帯式だが、駒のヤツなどからかなり高級そうな感じがして、おそらくセシリアが持参してきたものだろう。暇つぶしの道具まで持参とは、どんだけ居座る気だ。
 セシリアの誘いを受けたクリスは、申し訳なさそうに手を振って断った。

 「ごめん、ルール知らないんだ」
 「えっ、そうなの?!」
 簡易キッチンで何かを作っているシャルは、まるで何か面白い情報を聞いたみたいに寄ってくる。クリスにチェスが出来ないなんて初めて聞いたけど、これで八つ当たりの対象が見つかりそうだ。

 「じゃ私がルールを教えるから、あとで対戦してね!」
 「セシリアに勝てないからって、虚しいことすんな。腕相撲なら付き合ってやる」
 「うっさいな! 負けっぱなしの私の気持ちなんて、クリスには分からないのよ! 」
 むっと、微妙に不貞腐れているシャルは頬を膨らませる。そしてそんな彼女を見て、セシリアはくすくすと控えめに笑い声をこぼす。

 「ではクリスさんには、このわたくしが教えて差し上げましょう」
 「暇があったらな」
 一気にアイスティーを飲み干して、クリスはグラスを流し台に持っていく。そして手早くグラスを洗ってスタンドに置いた後、何かを思い出したようにズボンのポケットから何かを取り出す。

 「セシリア」
 「はい?」
 名を呼ばれて振り返ると、小さな四角い箱を乗せた手の平と、それを差し出したクリスの姿がセシリアの目に映った。
 真っ黒でシンプルな小箱だが、クリスがそれを自分へ差し出したということは――

 「まさかクリスさんがわたくしに、プププ、プレゼント~?!」
 「なにっ!?」
 あまりの驚きにポカンと口を開いても上品に手で遮り、セシリアは顔に驚愕の色を浮かべ、同時に彼女の言葉から気になる単語が聞こえたシャルも寄ってきた。

 「おいおい、その反応はないだろう」
 やれやれとため息をついて、クリスは箱をセシリアに押し付けて、椅子に腰掛けた。
 遊びに来てくれた記念品として、なにかものをあげようと思っただけなのに、まるで人が普段からケチケチしてるみたいな態度はやめてもらいたい。

 「あ、ありがとうございます……」
 そして箱を押し付けられたセシリアはむっとしているシャルの視線の中、クリスの顔と箱を交互して見ながら、生唾を飲み込んで箱の蓋を開けてみる。
 一体中身は何なのかしら。さすが高いアクセサリーはないと思うけど、クリスから何か形のあるものを貰えること自体が、結構嬉しい。

 「これは……?」
 箱の中には、ブルーの金属光沢を放っている小さなプレートキーホルダーが眠っていた。デザインと言えるほどの要素がゼロに等しい形状だが、指で摘み上げてみると少々重い感じがして、丸ごと金属素材で出来てるもののようだ。

 「ゾル・オリハルコニウム製だよ。高いぞ?」
 セシリアと対向して座って両肘をテーブルについたクリスが、彼女に説明を入れる。
 ゾル・オリハルコニウムとはここしか扱ってない、高い剛性や弾性を併せ持つ貴重な金属であり、Rシリーズやヒュッケバインシリーズの装甲素材として使われている。その精錬と加工の方法を知る人間は世界中でもたったの数人しかいなく、ここのトップレベルの企業秘密として扱われている。

 「それを、わたくしに……?」
 「まあな。ここに来た記念ってことで」
 つい先日、カーク博士のラボで再利用できない破片を見つかったから、勉強目的で分けてもらった。セシリアに鍵を持ってるイメージはないけど、アクセサリーだとややこしい話になりそうだから、キーホルダーに加工してみた。
 今の腕ではこれ以上複雑な形にするのにちょっとリスクが高いというのも、理由の一つ。

 「あっ、わたくしとブルー・ティアーズの名前が……」
 プレートを裏返してみると、そこに刻まれたアルファベットがセシリアの目に入る。それが自分と愛機の名前であることに気づくと、セシリアは目を大きく見開き、さらに嬉しさに満ちた笑顔を咲かせる。
 素材の価値はともかく、見た目がお世辞でも華があるとは言い難いが、好きな人からものを貰って、嬉しくない女子はいないだろう。

 「……とても嬉しいです。大事にしますわ」
 クリスの目を見てもう一度礼を言ったセシリアは、いかにも大事そうにキーホルダーを手のひらに握りこめ、胸元に当て幸せそうに笑った。

 「はいはい。どういたしまして」
 「……ねえ、私に何か言うことは?」
 満足してもらえて何よりだけど、そういう素直な反応はさすがにまだ慣れてない。照れくさそうに顔を逸らすと、満面笑顔ながら目だけ笑ってないシャルが、クリスの視野に入り込む。

 「はい、シャルはこれ」
 「あっ、ガムだ! 嬉しいな~! レモン味大好き!! ってこんなもので誤魔化すな!!」
 「ダメか」
 「お昼は水でいい?」
 「おい冗談だよね?!」
 御飯抜きの刑を出されては、さすがに焦ってしまう。
 貰った素材に余裕がなくて、一個しか作れなかったから、客人のセシリアを優先してしまった。 もう一個を作る余裕は多分もうないし、こういう時は彼女としての余裕をみせて欲しかったな。 自分の落ち度であることは認めるが。

 「差別だよ。贔屓だよ。もういいよ。どうせ私は釣った魚だから!」
 ぶつぶつと自虐めいた発言を呟いて、シャルは簡易キッチンに戻った。洗ったばかりのグラスを取り、ミネラルウォーターを注いだあと砂糖を一匙入れて掻き混ぜる。
 「……はい」
 「せめての情けに、砂糖か」
 不機嫌ゲージ満タンのシャルが差し出したグラスは、クリスは震えた手で受け取る。
 午前に体力を使ったせいで、昼飯には期待していたのにな。やはり冷蔵庫とキッチンの管理権を全部明け渡したのが問題かもしれない。
 でも大丈夫。書房にあるおやつの棚のアクセス権はまだ握っている。

 「勝手におやつ食べたら、晩飯も抜きにするからね」
 「……ちっ」
 実行に移る前に釘を刺されてしまった。さすがに付き合いがそこそこ長くなってきて、思考パターンが簡単に読まれる。
 仕方なくその砂糖水を口元まで運んで一口啜ると、砂糖の量が少ないから微妙に甘みはあるけど、そんなに甘い味はしない。
 残ったらまた怒るだろうし、飲むしかないか。
 しかし落ち着いて考えてみれば、これは尻に敷かれてるとは言わないだろうか。
 もしそうなら、マオさんの尻に敷かれるイルムさんを今まで小馬鹿にしてきた自分は何なんだろう。
 マオさんとイルムさんみたいな関係だけは嫌だな。情けなさ過ぎる。
 そんな時にを考えているうちに、誰かが来訪してきたらしく、玄関のチャイムが鳴った。

 「あっ、俺が行くよ」
 一口だけ啜ったその甘くない砂糖水をおいて、クリスは玄関へ向かう。
 このお昼の時間に来客とは珍しい。こんな市区から遠く離れた所に勧誘とは考えつらいし、おそらく同じ寮に住んでいる誰かなのだろう。

 「こんにちは」
 クリスの予想とは裏腹に、無感情の声と共に彼の目に映ったのは、まったくの見知らぬ女性の姿だった。