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IS  バニシングトルーパー 051

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 薄くリップを塗った薄桃色の唇に、知性的な光が宿った大きな瞳。その綺麗で無表情な顔立ちを見る限り、相手は自分より少しだけ年上のように感じた。
 総じて少々控えめながら、誰から見ても美人と評価するのであろう女性だ。まあ、ここまではいい。美人の相手は慣れたから、別に驚くことはない。

 問題は彼女の服装だ。
 体のラインを表す黒のロングワンピースの上に、フリルの付いた白いエプロン、加えて首元の赤いリボンと、頭につけていたホワイトブリム。
 いわゆるメイド服というやつだ。しかも日本の悪鬼覇原(アキハバラ)によく見かけるのと違って、結構本格的で高級感が漂っている。

 「……」
 メイドは視線をクリスの頭からつま先まで巡らせて、品定めをしているように観察した後、あからさまに失望したような態度で大きなため息を吐いた。

 「赤点ですね。顔から教養が感じられません」
 「……はっ?」
 初対面のはずなのに、なぜかいきなりダメだしされた。しかし謎のメイドはクリスに正体を明かすことなく、さらに質問してくる。

 「失礼ですが、お好きな動物は?」
 「市区の動物園に住んでいるズキンアザラシのジョセフくん(♂)だ。今年でもう五歳だけど、イカを食べる時の顔とかが可愛いぞ」
 「……男のくせにあのエビフライみたいな癒し系生き物ですか。まあ、確かに一人で寂しく水族館に行くにお似合いな顔ですし、無理もないでしょう。失礼ですが、とてもお嬢様に相応しい人間とは思えません」
 「アザラシを舐めるな! 大体誰だよお前」
 なぜか微妙に話しが噛み合ってないし、そろそろイラついてきた。好きなものを馬鹿にされるのが一番腹が立つ。大体そんなことを聞いたくらいで何がわかる。
 そもそもどうやって入ってきたんだ。一応セキュリティ万全の寮のはずなのに、不法侵入じゃないだろうな。

 「どうしたんですか、クリスさん……ってチチチ、チエルシー!?」
 なかなか戻ってこないクリスのことが気になって、セシリアは部屋の奥から顔を出した。そしてその謎のメイドの姿を見た途端、幽霊でも見たかのように顔が引き攣って、素っ頓狂な声を上げた。

 「お久しぶりでございます、セシリアお嬢様。具体的に言うと七日くらいでしょうか」
 チエルシーと呼ばれた謎メイドはセシリアの顔を見るなり、取り上げられていた玩具を取り戻した子供の如く、妙に活き活きとした妖しげな表情が浮かび上がる。
 これでメイドの正体は大体見当がついた。大方、セシリアの実家の使用人だろう。

 「どどど、どうして!?」
 「書置き一枚だけ残しておいて、どうして、ですって?」
 クリスを無視して部屋へ上がりこみ、チェルシーは笑顔でセシリアへ迫り、その主であるはずのセシリアは真っ青な顔で後ずさる。
 それは主との再会に喜んでいる表情だと信じたいが、なぜかアザラシを追い詰めたシャチを想起してしまう。

 二人のやりとりを聞く限り、どうやらセシリアは家の人達に詳しい行き先を伝えていなかったから、それでここを嗅ぎつけた家のメイドが主を回収しにきた、といった所だろう。
 よく考えたらそりゃそうだ。嫁入り前の当主が男の部屋に何日も泊まるなんて、体面とか気にする貴族としては、あまり褒められた行為じゃないだろう。
 サラダを作ってたシャルも手を止めて、クリスの隣に立って二人のやりとりに注目する。

 「ししし、しかし……!!」
 「失礼ながら、単細胞なお嬢様の行動を予測するくらい、私にとっては造作もないことでございます」
 えへんっとその豊満な胸を張り、ご主人様を単細胞呼ばわりするメイドが勝ち誇るように胸を張る。

 「まあそれでもセシリアお嬢のご心境を察し、どうせ三日くらいで玉砕してお戻りになるのであろうと見逃したのですが、まさか一週間経っても連絡一つよこしませんとは。お嬢様の不在を隠し続ける私の苦労、おわかり頂けるでしょうか?」
 「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!!」
 両手を腰に当てて一週間で溜まった不満をぶつけるチェルシーに向かって、セシリアは土下座でもしそうな勢いで謝り続ける。
 ご主人様がメイドに平謝りする光景なんてある意味珍しい。セシリアは家の人にでも高飛車な態度を取ってると思いきゃ、そうでもなかった。
 それとも、このチェルシーというメイドが特別なのか。

 「まったくでございます。ヴァイオリンの発表会で、お嬢様の影武者を立てるのに私がどれだけ苦労を……」
 「か、影武者!?」
 「はい、影武者でございます。お嬢様の外見特徴はせいぜい縦ロールくらいしかございませんので、変装自体はカツラを被ればわりと簡単にできます」
 「縦ロールくらい、しか……?!」
 「しかし恥ずかしながら、ヴァイオリンなんてできませんので、仕方なくギターを皆さんにご披露することになりまして」
 「影武者ってあなた!?」
 「はい。久々でございましたので、額の“KILL”が少々ずれてましたけれど」
 「デスメタ!?」
 「心配は要りません。皆さんから“腕をあげましたね”と褒めていただいたので、ばれてはいないと思われます」
 「ばれなかったの?!」
 何か大ショックを受けたみたいで、セシリアは体を支える力が一瞬で抜けたように床に崩れ落ちる。
 そしてチェルシーは潤った目でセシリアを見下ろしながら、得体の知れない何かに浸って喜んでるように頬を赤く染め、熱い吐息を漏らす。
 この二人のパワーバランスを垣間見たような気がする。

 「あっ、お騒がせして、本当に申し訳ありません」
 奥にいるシャルの存在に気づき、メイドは丁寧に頭を下げた。
 「突然の訪問お詫び申し上げます。セシリアお嬢様に仕えるメイドオブラウンズ、ナンバー9のチェルシー・ブランケットです」
 「はっ、はい、シャルロット・デュノアです」
 なぜかシャルにだけ、メイドは態度を一変して礼儀正しく自己紹介をした。

 「なんだよそのメイドオブラウンズって」
 聞いたことのない妙な単語が耳に入り、クリスは二人の話に割り込む。

 「セシリアお嬢様に仕える使用人の中、上位12名の実力者に与えられる称号です」
 どこか誇らしげに、廃メイドはもう一度胸を張った。何の実力で順番を決めたのかが少々気になる。
 極細の鋼線で人間を切断するとかだったら嫌だな。

 「さあ、帰りますわよお嬢様」
 「……えっ?!」
 「えっ、ではございません。オルコット家の当主としての仕事が溜まっております。それに、どうせここ数日まともな食事をとっていませんでしたでしょう」
 「そんな! わたくしは……!」
 「待って」
 セシリアを強引に連れ去ろうとするチェルシーを、クリスは少しばかり怒りをこめた低い声で呼び止めた。

 「クリスさん……!」
 期待と感激に満ちた目で、セシリアはヒーローを見るような目でクリスの顔を見る。
 「はい、何でございましょう」
 「確かにオルコット家の屋敷と比べれば、この部屋は狭くて、ベッドも可哀そうなくらいに小さいだろうけどさ」
 チェルシーを正面から睨み付けて、クリスは至って真剣な声で言葉を発する。