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IS  バニシングトルーパー 051

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 「……けどね、シャルの料理の悪口は許せない。シャルの料理を食べたこともないくせに、適当なことを言うな」

 「そっち!?」
 期待が空振りに終わり、セシリアは目を丸くする。
 「なるほど」
 クリスの後ろに居るシャルの顔をマジマジと見て、チェルシーは何かを納得したように頷き、彼女へ向き直して、頭を下げた。

 「お嬢様は最近家で料理の勉強にご熱心でいらっしゃったので、てっきりここではお嬢様が料理をなされたのだと勘違いしてしまいました。不躾な発言をしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
 「あっ、いえ、そんな、気にしてませんから!」
 チェルシーの謝罪を受けたシャルは全然怒ってないと、慌てて両手を振る。
 何回もセシリアからの被害である料理残骸を片付けたことあるのに、本当によく出来た子だ。

 「ではこれにて、失礼します」
 謝罪の後、チェルシーはもう一度セシリアを手首を引いて玄関へ歩き出す。
 国家代表候補生のセシリアでも抗えないところを見ると、そのチェルシーという女の腕力もかなりのものだろう。

 「ちょっ、ちょっとお待ちなさい! わ、わたくしはまだ……くっ!」
 「わがままを仰ってはいけません。お嬢様、失礼」
 連れ戻されたくないと抵抗するセシリアを、チェルシーはチョップ一発で沈黙させた。そしてばったりと崩れ落ちるセシリアの体を廃メイドは抱きとめて、肩に担ぐ。

 「太陽は万物のために、メイドオブラウンズの奉仕はご主人様のために」
 「「……」」
 大事なご主人様を暴力で気絶させたくせに、なにやら変な言葉を呟くメイドの思い切った行動に、クリスとシャルは一斉に絶句した。
 給料を貰う身として、それでいいのか。

 「重ね重ねお騒がせして、本当に申し訳ありませんでした。お嬢様の荷物は後で回収部隊を派遣させていただきます。……では」
 最後に一礼して、チェルシーはセシリアを担いだまま踵を返した。か弱い女に見えて、やはりかなりの力持ちだ。さすがはそのメイドオブ何とか。
 しかし彼女が部屋から踏み出そうとした瞬間、何かが床に落ちたような、鋭い音がした。

 「……あっ」
 音の元へ視線を向けると、そこにあるはクリスがセシリアに贈ったばかりのキーホルダーだった。
 それを手のひらで握っていたセシリアはチェルシーに気絶させられたから、手から滑り落ちたのだろう。

 「おいちょっと待て。これを……」
 「……っ!!」
 落ちたキーホルダーを拾い上げて、クリスはそれをチェルシーに渡そうと彼女の肩へ手を伸ばすが、それに触れる直前に閃光が走った。
 上品な香水の匂いが鼻に突き、肌が微かな風を感じる。そして気がつくと、セシリアを担いだチェルシーすでに目の前から消えた。

 「後ろから近寄らないでください」
 いつの間にか自分の背後に回ったチェルシーから、柔らかい声がクリスの耳に届く。

 「さっきのは、一体……?」
 傍観していたシャルは何が起きたのかを理解できず、目をぱちぱちさせる。
 唯一確かなのは、クリスがさっきまで着ていた汗が滲んだ古いシャツから靴下まで、一瞬で全部アイロンのかけたばかりの清潔なものに変わり、さらに髪の毛から爪まで全部綺麗になっていた。
 いや、されたというべきなのだろう。

 「主の身嗜みを完璧かつ迅速に仕上げる。それが私の仕事でございます」
 指の股に挟んだ櫛と爪切りをエプロンのポケットに仕舞い、チェルシーは涼しい顔をしてそう告げた。
 随分と地味な能力だけど、セシリアの体重が軽いとは言え人間一人を担いでそのスピード。攻撃に転用したらとんでもない脅威だ。

 「おっかないメイドだな……」
 強制的に着替えさせられた服の着心地を確かめるように、クリスは自分の体を触りまくる。しかし服のサイズはまるでオーダーメイドのように体にぴったりフィットする。まさにプロの技だ。

 「……おや?」
 どこか不遜だったチェルシーの顔が、一瞬で険しいものになる。
 エプロンのポケットに入れたチェルシーの手が、自分の知らない何か冷たいものに触った。指で摘み出してみると、そこにあるのは自分の主の名を刻んだ、青いキーホルダーだった。

 「なるほど。ただものではなかったのですね」
 「そりゃどうも」
 ゆっくりと振り返って腕を上げ、クリスは手のひらを開く。そこにあるものを見たチェルシーは目を大きく見開いて、何かを確かめるように自分の襟元辺りを触る。
 けれどそこにあるはずだった“何か”が、いつの間にかいなくなっていた。

 「あなたは……!!」
 「おい、そう睨まないでくれよ」
 そう薄く笑みを浮かべて、クリスはさっきの一瞬で掠り取ったもの――チェルシーの首元につけていた赤いリボンを、彼女の手のひらに置く。
 そっちは服を着せるプロなら、こっちは服を脱がすプロだ。そうそう一方的な結果にはならない。

 「今回の件は、ちゃんとセシリアに確認しなかった俺の責任だ。迷惑をかけて本当に申し訳ない。お詫びと言っては何だけど、お昼ご飯を食べて行ってよ」
 「……いいえ、結構です」
 リボンを襟元に結び直して、チェルシーは警戒的な視線で穏やかに笑ってるクリスの顔を見据える。
 主の身嗜みを担当するメイドが、自分のリボンを奪われたことさえ気付かないなんて。結果から言えば今のは引き分けかもしれないが、実質では完全に負けだ。
 そう思うと、目の前にいるこの少年への興味がぐっと湧いてきた。
 もちろんやられっぱなしというのは性分ではないが、本家ではお嬢様の帰還を待っている同僚達がいる。メイドオフラウンズとしての血を滾らせてる場合ではない。

 「そう? でもお前一人じゃ大変だろう。せめてセシリアの目が覚めてからでも……」
 「ご心配には及びません」
 セシリアを担いだチェルシーは警戒の視線をクリスに向けたまま、ゆっくりと後退して廊下に出る。
 同時に、空から空気が振動する音が聞こえてくる。
 ヘリのプロペラが回転する音だった。
 おそらくはセシリアの実家にある専用ヘリだろう。オルコット家当主とは言え、随分と派手にやってくれる。ここのセキュリティがどうなってるんだ。

 「許可はとってあります。……では」
 空から降りてくる縄梯子につかまって、チェルシーはセシリアを担いだまま寮の廊下から飛び出して、離れていく。
 このままオルコット家へ直行するのか。

 「……クリストフ様」
 「何だぁっ?」
 空中にいるチェルシーに名を呼ばれて、廊下で二人を見送るクリスはヘリの音で遮られないように大声で返事をした。

 「これを……!!」
 「うおっ?!」
 チェルシーの言葉と同時に、クリスはピンク色の何かが自分へ高速に飛んできたのを目で捕捉し、顔面に直撃する前に手で受け止めた。

 「何だ……?」
 受け取ったものを両手で広げてみると、そこにあるのはやたらカラフルな布であった。
 そう、逆三角形の独特なフォルム、狭まった部分にあるクロッチ、やけに肌触りのいい、手に馴染む布地、そしてほんのりとした淡い香り。

 「……ってパンツじゃねえか! 何のつもりだ!!」
 「決闘を申し込む時に投げる手袋的なものです」