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IS  バニシングトルーパー 051

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 「あんたのかい! 道理で暖かいわけだけどピンクとかイメージに合わねえ!」
 「嗅いでも構いませんが、舐めたり被ったり履いたりはしないでください。あと出汁の具に使ってもダメです」
 「そこまでアブノーマルな趣味はねえ!」
 「決着がつくまで預けてください。私もそれまでにノーパンで過ごしますので」
 「本物だ! エクセレンさんすら可愛く見えるほどの本物がいた!!」
 「メアドも書いてありますので、メールしてください」
 「頬を染めるんじゃねえ!!」
 「次に会う時は私たちの、その……けっ、決着がつく時です。では」
 「だから! 頬を染めるんじゃねえよ!! おいちょ、ちょっと待て!!」
 上空にあるヘリの発する騒音が段々と遠くなり、チェルシーとセシリアの姿も小さくなっていく。メイドのパンツを投げ返そうとしても、その距離はすでに届かないほど離れていた。
 やたらと派手に装飾されたオルコット家の専用ヘリが、空中でチェルシーとセシリアを回収した後すぐに会社の敷地から出て行き、あっという間で空の向こうへ消えていった。
 残されたクリスだけが台風が去った後のような静けさの中、遠目で空の向こうを眺める。

 「あのレベルの変態が、セシリアの家には十二人もいるの……か?」
 チェルシーたちが消えた方向へ視線を向けたまま、独り言のように呟いた。視線を落とすと、手の中にあるピンク色のパンツがまだ暖かい。
 次に会うまでノーパンってマジか。本当に実行したら尊敬するよ。通報したいけどまず尊敬してやる。

 「まあ、どうでもいいけど」
 チェルシーから貰ったパンツを丸めて、廊下のゴミ箱へ投げ込む。
 変態メイドの相手なんていちいちしていられるか。いつまで持っていて同類だと思われたら嫌だし。
 無駄に濃いのは教導隊の人達だけでもうたくさんだ。

 「それよりシャル、お昼のことなんだけど……」
 「……はい」
 部屋の中へ戻ろうと振り返ると、そこに見えたのはチェーンロックをかけたドアの隙間から手を出して、砂糖水の入ったグラスを廊下の地面に置くシャルだった。
 そしてカタンとドアを閉める音と共に、室内の涼しい空気と室外の暑い熱気が容赦なく両分されてしまった。

 「ちょ、ちょっと待て! 反省してるから謝るから!」
 涼んだばかりのクリスの皮膚から、もう一度汗が溢れ出る。
 こんな暑い天気の中、砂糖水一杯だけとか冗談じゃない。財布もIDカードも全部部屋の中だし、このままじゃどこも行けやしない。

 「週末なのに仕事に行ってごめんなさいセシリアにだけプレゼントしてごめんなさい変態メイドのリボンを外したりパンツを貰ったりしてごめんなさいもうとにかく全面的に謝罪するからドゲザもするから許して!!」



 *



 『私の前で他の女から下着を貰うんだよ? 酷いと思わない?』
 「確かに、不謹慎だな」
 携帯電話を肩と頬で挟んでルームメイトと雑談しつつ、眼帯少女ラウラ・ボーデヴィッヒは狭い勤務室らしき部屋の中、パソコンのモニターと向き合っていた。
 銀色の長い髪が首の後ろに結び、細い体にはやや大きめのTシャツとショートパンツで身を包んだ彼女は普段のピシッとした制服姿より、ずっと生活感が溢れる格好をしていた。
 雪子から借りた少し大きめのサンダルを履いた足をバタバタさせながら、彼女は任務中のような落ち着いた表情でパソコンを操作する。

 『ねえ、ラウラは今何をしてるの?』
 「私か? 任務の真っ最中だ」
 『あれっ? 部隊に戻ったの?』
 「いや、とある計画に協力するように言われているのでな。日本にいる」
 夏休みに入った途端、ラウラはホームステイとして伊達家で暮らし始めた。訓練やらバイトやらで忙しい隆聖の代わりに、母親の雪子の面倒を見ている。
 とは言え、家事スキルがまだ修行中のため、あまり役に立ってるとは言い難いかもしれない。

 『じゃ、任務って?』
 「今夜は、すき焼きだそうだ」
 『すき焼き?』
 「そうだ。その材料の買出しを|お義母様(マダム・ユキコ)から任されている」
 |お義母様(マダム・ユキコ)によると、すき焼きは数少ない得意料理の一つで隆聖の好物らしい。そんなお袋の味的な料理の材料を買って来なさいと言われては、当然全力を出さざるを得ない。

 「渡された装備はトートバッグ一つと、材料費と思われる現金が少々。購入場所が指定されたが、情報を収集した所、渡された予算ではせいぜいメモに書かれた材料の62.35%しか買い揃えない」
 『ああ、それはきっと……』
 「問題ない。現代戦争において、兵士には高い情報戦能力も求められている。そしてハッキングの訓練においても、私は常に部隊のトップだった」
 『えっ? ちょ、ちょっと待て。ハッキングってどういうこと?!』
 電話の向こうにから聞こえるシャルの声が、いきなり慌しくなった。

 「要は、材料を普通のより安く購入すればいい。この任務を果たすにはいくつの方法があるが、私なりに穏便な方法を選んだつもりだ」
 『穏便って?』
 「スーパーの内部に侵入して管理システムにハッキングし、材料の値段を調整する方法だ」
 『……もしかしてそれ、もうやっちゃってる?』
 「肯定だ」
 そう淡々ととんでもないことを述べながら、ラウラはキーボードを叩いてモニターに映った商品の値段を修正していく。
 牛肉。リントフライシュのことか。予算オーバーの元凶だな。半額にせねばと呟きながら。

 『全然穏便じゃないよ! それ犯罪だから! 罪を犯すと書いて犯罪だから!!』
 「安心しろ。スーパーと言っても所詮は民間施設だ。通路の監視カメラの設置から内部管理システムのファイアウォールまで完全に素人レベルだ。この程度ならダンスを踊りながらでも侵入できる」
 『そういう問題じゃないよ!!』
 「痕跡を残すようなヘマもしない。私は素人ではなく、スペシャリストだ」
 『だから、痕跡とかそういう問題じゃないの! 勝手にハッキングしちゃいけないって話なの!! それにそんなことをしたら、隆盛くんのお母さんはきっとラウラに失望すると思うの!!』
 「失望……だと?!」
 |お義母様(マダム・ユキコ)の名前を出された途端、キーボードを叩くラウラの手がふっと止まった。

 「この作戦は、|お義母様(マダム・ユキコ)の意思に沿うものではない、と?」
 『そうだよ! セールタイムなら、そんなことしなくても安くなるから!』
 「何だ、そのセールタイムというのは」
 『はぁ~、まったく。セールタイムも知らず買出しなんで、補給ルートも確認せずに進軍するが如しだよ?』
 ラウラの世間知らずっぷりに、シャルは意地悪な笑いをこぼしつつ、セールタイムという概念をラウラに伝授する。

 「……脱出する」
 そして五分間ほどシャルの説明を聞いた後手早くパソコンの電源を落とし、ラウラは雪子から渡された茶色のトートバッグと財布を持って、部屋を後にしたのだった。



 *



 「時間限定の値下げ、まさかそんなシステムがあったとは。これが|お義母様(マダム・ユキコ)が望んだ答えか」