IS バニシング・トルーパー リバース 001-002
「ノートゥング01より各機へ、フォーメーションを維持しつつ速やかに敵部隊を殲滅せよ。輸送機への侵入も考えると、あまり時間をかけられん。注意しろ」
現場の指揮権を預かってるクリスは、最初の指示を出す。
「……今回は鈴がいない、あまり調子に乗って突っ込み過ぎるなよ、フォワードの二人」
「「了解!!」」
返事をしたのと同時に一夏と箒は加速を始め、セシリアは機体の額にある高性能照準カメラを起動して、超長距離狙撃ライフルを構えた。
「まずは一機、頂きますわ!!」
照準の真ん中に入った飛行機に似た外形を持つ青いAM、リオン・タイプFに向かって、セシリアは引き金を引いた。
機体の背中にある専用ジェネレータとケーブルで繋いでいるその20メートル前後の長さを持つライフルは、リオンの倍以上の射程距離を持つ。この距離から撃ってくるとは思いも寄らなかった敵は一直線に飛んでくる熱線によって貫かれ、この戦いの最初の花火を上げた。
そして予想外の事態にうろたええることなく、敵は直ぐに陣形を散開した。
「逃がしませんわよ!!」
高出力のジェネレータのお陰で、ライフルのエネルギーチャージはすぐに完了した。もう一度ライフルを構えて、セシリアは次のターゲットを定め始めた。
「ふっ、さすがだな」
活躍した恋人に感心の声を上げたクリスは、レクタングル・ランチャーを機体正面に構えて前進した。
この距離で攻撃できるのは、セシリアしかない。まずは自分の射程距離まで移動しないと、援護射撃は出来ない。
「はぁああああ!!」
先行した一夏は、既に敵部隊の先頭に立っているリオンと交戦に入った。一気ブースターを噴かして、肩部装甲でタックルして敵のバランスを崩した所で、サイトアーマーにマウントされているビームザンバーを手に取った。
野太刀の外見をしているビームザンバーの威力は、ビームソートなどの比ではない。長時間の使用は難しいが、その凄まじい破壊力は、アンチビームコーティングされた装甲すら難なく両断できる。
「DC戦争は、もうとっくに終わったんだよ!!」
叫びながら、一夏は光の刀身で一文字を書いた。さくっとした手応えで、相手は腰部から両断された。
上半身と下半身に分かれたリオンが、それぞれ爆発して光を上げる。
「出てくるから!!……ってうわぁあああ!!」
台詞の途中にロックされた警告音を聞いて、両断されたリオンが爆炎を上げたのと同時に一夏は慌てて高度を上げて旋回する。
急加速によるGが体に襲い掛かり、一瞬肋骨に激痛が走る。一夏はそれを歯を食いしばって耐えながら操縦桿を切って、背後から撃ってくるレールガンの銃弾を避けた後、機体姿勢を調整しつつ左手のM950マシンガンを動かして敵に照準を合わせる。
クリス機の機動が体にかけるGと比べれば生温いものだ。これくらいも御しきれないようでは、教導隊に入るなど夢のまだ夢。
「一夏っ!!」
そこでフォワード要員のもう一人、篠ノ之が吶喊する。
腕部に増設した装甲でメインカメラとコックピットを庇って突進しながら、彼女は手に握っているビームソードを振り下ろしたが、相手のリオンはそれを機体姿勢を横へ傾けることで避けた後、腕部レールガンを真っ直ぐに向けてきた。
しかし、接近戦に持ち込まれた時点で、このリオンの運命は決まった。
「甘い!!」
叫びと同時に、箒機の胸部バルガンが唸りを上げる。そこから噴出された60mm徹甲弾を回避しようとするリオンに、箒はバーニアを噴かして、リオンの長い両腕部の真ん中に飛び込んで、相手の胸元の突起部に脚裏を叩き込んだ。
そこから迸ったのは、装甲板が切り裂かれた時に発生した火花。歪みながら破られて行く機械が悲鳴を上げながら、オイルが返り血のように噴出される。
箒機と一夏機の接近戦仕様の脚裏には、回転ノコギリが仕込まれていた。高速に回転する鋼の牙も触れられたものは、千切られていくしかない。
無論、このリオンも例外ではない。エンジン部の直撃ではないものの、そこにあるのはコックピット。パイロット諸共切り裂かれたリオンは、そのまま爆発せずに地面へ落ちていく。
同時に、箒の背後に回り込んだもう一機のリオンがレクタングル・ランチャーの砲弾に直撃して、凹んだ装甲板に風穴を開けられて炸裂した。
少し後方に居る、クリスからの支援射撃だった。
「あまり熱くなるな、ノートゥング03。装甲を過信して直撃されたらシャレにならんぞ」
「済まない。一夏も無事だな?」
「平気だ、さっさと片付けよう。……敵指揮官殿のお出ましだ」
レーダーに注目すると、確かに一夏の言うとおり、リオン部隊の半分をあっと言う間にで半減した敵に脅威を感じた敵のガーリオンは動き出した。
敵残存リオン四機、ガーリオン二機。
「狙い撃ち、ですわ!!」
後ろの上空から白い光が降り注いだ、脳天からぶち抜かれた一機のリオンが煙を上げて、セシリアが今日における二つの撃墜マークになった。
これでリオンの残存数は、三機になった。
「……」
後方の輸送機操縦室で、千冬はメインモニターに映っている戦況に目を細めつつ、眉の間にしわを寄せる。
状況は至って順調と言えるのだろう。だが、千冬が考慮している問題は、そこではない。
この部隊を率いる立場に立たされた以来、胡散臭くない任務を引き受けた経験がない。
だが今回はいつもよりさらに臭く感じる。普段は勤務室で優雅に盆栽を嗜んでる年寄りの上官ですら、今回の指令書を渡すときには深刻な顔で何回も注意した。
必ず奪還しろ。そして中身を見るな。
こっちは機体改修中の隊員がいるのに。
そこまで思うと、ふっと思い出したことがある。
最近では情報部の上の連中が、L5戦役の時連邦軍に居たエアロゲイターのスパイが残した研究資料を掘り出したって噂を耳にした。
……関連性があるのだろうか。
いや、さすがに考えすぎだろう。
「……ふんっ」
自分を嘲笑うように鼻を鳴らして、千冬は横の椅子に腰をかけた。
視線を戦場に戻すと、数の劣勢は既に逆転された。
リオンタイプは既に全滅され、残りのガーリオン二機をそれぞれ一夏と箒が相手をしている。
「チッ、さすがは指揮官機、手強いぜ!!」
「このままでは、コンテナを積んだ輸送機が!!」
信じ難いことに、二機のガーリオンはスペックが上のはずの量産型ヒュッケバインMK-II四機と互角に戦っている。
相手はかなりの手慣れのようだ。さっきのリオン達と動きがまったく違う。射撃が簡単に回避され、格闘しようにも近づけない。
「ちっ、時間が……!!」
ガーリオンと交戦開始からもう10分以上立っている。これ以上グズグズしたら、奪還目標に逃げられてしまう。
「ノートゥング01より各機へ。今から輸送機にへ強行する。ノートゥング02、03は敵を足止めをし、04は俺の援護をしろ」
もはや迷っている時間がない。強行突破を決めたクリスは隊員に指示を出した後、操縦桿を一気に前へ押し出した。
「ブースト!……くうっ!!」
作品名:IS バニシング・トルーパー リバース 001-002 作家名:こもも