IS バニシング・トルーパー リバース 001-002
刹那、背部のテスラドライブが中央へ集中して、全てのスラスターが一斉に火を噴いた。操縦桿を握っている手を震えを必死に押さえて、クリスは前へ押し出された機体の姿勢を安定させる。
「行かせん!!」
「余所見するな!!」
クリスの意図を気付いたガーリオン一機はバーストレールガンを向けるが、引き金を引く前に一夏のからの斬撃が来た。慌ててアサルトブレードで受け止めようとするが、高出力のビームザンバーと衝突して一瞬で溶断された。
「貰ったぞ!!」
「しまった!!」
アサルトブレードが完全に破壊される前になんとか斬撃の軌道を逸らしたものの、左肩部の金属粒子貯蓄ユニットが切られて破損した。
これで、ガーリオンの最大攻撃手段、「ソニック・ブレイカー」が使用不能になった。
「貴様……!!」
敵のガーリオンから、激怒した女の声を一夏は聞こえた。
「よしっ、追いついた……!!」
輸送機はもう目の前。既に弾切れしたレクタングル・ランチャーを捨てて、クリスはビームソードを握って、光の刀身を形成させる。
敵が後部ハッチを大人しく開けてくれる訳がない。多少手荒な手段でを使って、自力でハッチを開けるしかないだろう。
左腕部を前へ掲げて、掌内からワイヤーアンカーを輸送機に向って射出する。十分な固定強度を確認した後、一気に接近して輸送機の外壁と接触した。
ビームソードの持ち手を反転させて、刀身を後部ハッチの辺縁部に向ける。装甲板はそこそこ厚い、早く作業を始めないと戦友たちと離れてしまう。
しかしその前に、輸送機のハッチは勝手に動き始めた。
「……っ!?」
向こうに敵が居ると分かっているのにわざとハッチを開ける可能性はたった一つ。それを気付いたクリスは直ぐ外壁を蹴ってハッチの周辺から離れた。
トォォォン!!
直後、巨大な発砲音と共についさっきまでクリスが居た位置に大口径砲弾が薙いで行った。
「やはりか……」
予想とおり、敵にはまだ切り札を温存していた。開放された輸送機の後部ハッチから、もう一機のガーリオンが現れた。
「しかもカスタム機とは……随分とリッチな残党だな」
黒と赤のツートンカラーに塗装されて、改造された特殊仕様ガーリオンだった。右肩の大型レールカノン砲身の奥はまだ僅かに光っているように見えて、ガーリオンは首を動かしてクリスを睨むように、センサーを光らせて威嚇した。
そしてその機体の背後には資料に描かれていた、連邦軍マークのついたコンテナ見えた。
こっちは新兵じゃあるまいし、威嚇くらいで動揺はしない。
威嚇が無駄だと理解した黒いガーリオンは、無言に輸送機の格納庫の地面を蹴って、空中へ飛び出してクリスに向ってきた。それに対してクリスは迷わずフォトンライフルの銃口を向けて、
「ラスボスって訳か……来い!!」
引き金を引いた。
機体を回転させてビーム弾丸を回避した後、黒いガーリオンはサイドアーマーから複数のワイヤーを飛ばしてきて、鈍い金属光を発しているワイヤーの先端部分が刺してくる。機体を加速させてそれを回避した後、クリスはもう一度相手に照準を合わせるが、モニターに映ったのは目の前まで迫ってきた敵の姿だった。
「……っ!!」
腕を振り上げて、黒いガーリオンのその物理打撃武器と化された撃発型貫手がクリスのコックピットを狙って真っ直ぐに突いてくる。
「なっ!!」
相手が振り出してくる貫手を慌ててライフルで防御すると、マガジンへの直撃によってライフルが爆発して、それを機にクリスは一旦距離を取る。
「ちっ、本物の黒き竜巻よりやばそうだな!」
手元に残ったライフルのグリップを捨てて、クリスは再びビームソードを握って相手を対峙する。さっきの貫手の一撃はライフルのお蔭でコックピット部への直撃を何とか免れたが、腹部がダメージを負った。外部装甲板が剥がされ、晒された内部の機械が電光と火花を散らす。
「まずいな……」
機動性なら負ける気がしないが、火力の差が大きい。何より時間がもうない。
コンテナは目の前、何とか奪って逃げるか? だが、ラスボスに背を向けるのは自殺行為だ。
結局、黒いガーリオンを排除しない限り任務は完成できない。
「なら……!!」
ビームソードの刀身を前へ突き出して、クリスは突貫する。そして黒いガーリオンもそれを応じるように正面から向ってくる。
「はあああっ!!!」
間合いに入った敵へ、灼熱のビーム束を突き出す。
相手の格闘武装は貫手。リーチの長さではクリスの方が勝っている。
しかし、黒いガーリオンのパイロットの反応速度の早さは尋常じゃない。ビームソードがその艶々とした黒いボディに届く直前に僅かに横へ移動して攻撃を避けた後、右貫手を突き出してくる。
「……っ!!」
咄嗟に操縦桿を引き、胸部のバーニアを吹かして急後退で致命的な一撃をかわす。そしてもう一度ビームソードを横薙ぎに振って切りかかるが、黒いガーリオンは上半身を後ろへ倒して、バック転と同時に量産型ヒュッケバインMK-IIの胴体部に蹴りを放った。
「うわぁっ!!」
重い蹴りの衝撃が全体全身に響き渡り、コックピットの中でパイロットスーツを着たクリスの脳まで襲う。
ガーリオンはリオンシリーズの上級機であるため、構造は甲殻類と似て、内部機械を装甲板で包んでるだけ。そのせいで、格闘戦では関節の負担が一番重くて、物理打撃にそこまでの威力を出せないはず。
だがこの黒いガーリオン、量産型ヒュッケバインMK-II以上のパワーを出している。質の高い予備パーツを使ってる上に消耗が激しくて運用コストが極端に高いか、もしくはガーリオンの皮を被った別物か。
今はどうでもいい話だ。
吐き気を我慢してペダルを踏み、クリスは操縦桿を横に倒して空中回転して体勢を整えながら回避行動を取る。
飛んでくるレールカノンの砲弾が空を切り、地面に直撃して土と樹を吹き飛ばす。
「乱暴なやつだな!!」
量産型ヒュッケバインMK-IIに残った射撃武器はもう頭部バルガンしかないため、距離を取られるとやり辛くてかなわん。
だが、敵との距離を自在に調整できるのが、この高機動仕様の量産型ヒュッケバインMK-IIの強みだ。
ゆっくりと弧線を描き、機体正面を敵に向ける。正面からのレールカノン砲弾を回転で弾道から機体を逸らす。
そして、クリスはもう一度操縦桿を一気に押し出した。
「このヒュッケバインならできるはずだ……」
スラスターから噴出した青い火炎がダーククレーの巨人を閃光へ換え、体に襲い掛かるGがクリスをシートへ押さえつける。
「レールカノンの砲撃を潜り抜いて、敵を叩ける!!」
僅かの瞬きで、クリスは黒いガーリオンとの距離を詰める。懐に飛び込めば、砲身の長いレールカノンは使えない。
だがさすがと言うべきか、黒いガーリオンのパイロットはうろたえることなく、貫手を構える。目の前に飛び込んできたら必殺の一撃を見舞うつもりだろう。
「うおおっ!」
しかしクリスは減速もせず、左腕で胸部を庇うように構えてこのまま突っ込んでいく。
作品名:IS バニシング・トルーパー リバース 001-002 作家名:こもも