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IS  バニシング・トルーパー リバース 001-002

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 彼女たちに聞かれたら、明日は一日彼女達の冷たい視線に晒されることになる。
 まったく、自分たちの恋がうまく行かないからって、八つ当たりは止めてほしいものだ。

 まあ、全年齢対応ラブコメ要員達のことは放っておいて、今はゆっくりとセシリアを可愛がることに専念しよう。

 まだ日付が変わる前だしな。




 やがて二人が甘い一夜を明かして、朝が再び訪れたとき、アビアノ基地は再び動き出す。
 グラウンドで汗を流す兵士、格納庫に忙しそうに走り回る整備員、副官をつれてオフィスへ急ぐッ指揮官。
 その中には、「ブリュンヒルデ」の隊員達も含まれていた。

 「新しい左腕は問題ないな?」
 格納庫の中、作業服を着た長い赤髪の青年は左腕を動かしている量産型ヒュッケバインMK-IIを見上げながら、ヘッドフォンのマイクに向かって大声で叫ぶ。
 別に機嫌が悪いわけではない。ただ格納庫の中が騒がしくて、大声じゃないと相手は聞こえない。
 「ああ、問題ない」
 ヘッドフォンの向こうから、落ち着いた青年の声が響いた。
 それは、肩に「01」と書かれたそのダークグレー色の機体のコックピットから伝わってきた通信だった。

 「今度はもっと大事に使えよ!」
 現地調達できるカスタム用パーツと違って、機体生産量がまだ少ない今では、量産型ヒュッケバインMK-IIの予備部品を調達するたけで一苦労だった。お陰で、黒いガーリオンに潰された左腕を交換するための腕が届くのに数日までかかった。

 「了解した」
 そう返事した後機体を元の姿勢を戻して、クリスはコックピットから出て地面へ降りる。地面にいる弾が彼に軽く手を振った後、直ぐ隣に立っている中距離支援仕様の量産型ヒュッケバインMK-IIの元に向かった。

 肩に「05」と書かれているその機体は、凰鈴音のためにカスタマイズされた機体だった。
 パイロットの鈴はとっくに待ちわびていたご様子で、機体の足元で腕を組んで眉を吊り上げて、早足で向かってくる弾を睨みつけている。

 整備班長殿、ご苦労だな。
 同情の視線で弾を見送りながら軍服の上着に袖を通した後、クリスはポケットからDコンを出して音楽を聴きながら、壁際に置いてある備品箱に腰をかけた。

 「セシリアの姉貴、今日はお肌がツヤツヤだね」
 「そ、そうですの?」
 「あはは~またクリスの兄貴に、頑張ってもらったんだろう?」
 整備兵と他愛ない雑談を交わしながらも、セシリアはまだコックピットで機体チェックに手間取っている。
 一夏はとっくに機体チェックを終えたはずだが、未だにコックピットに篭っている。多分またモーションパターンを作っているのだろう。箒は一夏のコックピットハッチの近くで彼と何かを話している。

 この基地には既に一週間ほど滞在している。これ以上のんびりしていたら、退屈で勘が鈍ってしまいそうだ。幸い、機体の修理とカスタム化のテストは今日中にて終わり、明日からまた任務が始まるだろう。
 そう思うと、クリスは少し気が楽になった。

 「クレマン」
 かれこれ考えているうちに、横から声をかけられた。
 目を向けると視界に映ったのは、長い黒髪を揺らしながら格納庫に入って来る上官の姿だった。ヘッドフォンを外して、クリスは備品箱から立って敬礼した。

 「おはよう御座います。隊長」
 「うむ。パイロット全員はここに居るな?」
 返礼した後格納庫全体を見渡して、千冬はクリスにそう聞いた。

 「はい」
 「では、パイロット全員に伝えろ。十分後ブリーフィングルームに集合だ」
 「分かりました。……次の任務ですか?」
 「ああ。詳しい状況は後で説明する。では、頼んだぞ」
 「はい」
 隊員の集合を頼んだ後、踵を返して格納庫から出て行く千冬を見送った後、クリスはDコンをポケットに仕舞って、地面に転がっているスピーカーを拾い上げた。

 望むか望まないかに関わらず、戦場は誕生する。そしてそこが自分を満たす場所となる。
 戦争中毒か。間違ってないな。
 そう思いながらスピーカーの電源スイッチをオンにしたクリスは、自嘲するように笑った。


 夢を、見ていた。
 夢を、絶え間なく見続けていた。

 そして今この瞬間も、夢を見ている。
 とても不安定に揺れている、怖い夢だった。

 夢の中で、銀色の髪をしている少女が辛そうに歯を食いしばって、痛みを耐えながら呻り続けていた。
 自由に動けるのなら、今すぐにでも彼女を抱きしめたい。
 でもそれができない。
 なぜなら、私も同じ痛いを味わっているから。

 頑張って。これくらい、昨日は耐え抜いたんだろう?
 心の奥底で、この言葉を念じ続ける。
 手足を縛られていても、目と耳を塞がれていても、
 口に出さずとも、彼女にはきっと届けられる。
 だって私たちは、そういう風にされたのだから。

 いつか彼は必ず私を迎いに来てくれる。その時あなたも一緒に行こう。
 だから、もう少し頑張ろう? 


 アビアノ基地から離れた荒野で、オレンジ色に塗装されている量産型ゲシュペンストMK-IIが砂を巻き上げて、土黄色の地面を疾走していく。
 やや長いバレルを持つメガビームライフルを抱えて、ゲシュペンストのゴーグル状保護カバーの奥に内蔵されているデュアルセンサーが光り、攻撃ターゲットの姿を探す。
 突如、ゲシュペンストは右手のメガビームライフルを持ち上げて、銃口を前へ向けて迷わずトリガーを引いた。

 バシューン!
 加速された粒子ビームが、ピンク色の輝きを放ってライフルの射線上の居たものを撃ちぬいた。装甲に風穴を開けられたターゲットが爆発して、光を上げた。  
 岩の後から出てきた、飛行能力を持つドローン群だった。爆発したのは、そのうちの一つにすぎない。下方に取り付いているチェーンガンの砲口角度を調整して、ドローンたちはゲシュペンストへ攻撃する。
 それに対してゲシュペンストは滑走してトリッキーな動きでかわしながら連続して引き金を引き、外れのない狙いでドローンたちを撃破していく。

 ゲシュペンストから離れたところに、PT輸送用のトレーラーと、移動研究室を積んだトランクがそれぞれ一台泊まっていた。
 ここには、オレンジ色のゲシュペンストの行動を監視している人たちが居た。

 「ドローン撃破率83%、機体被弾率18%。システム異常なし」
 「おや? 予想したより酷いな」
 オペレーターの報告を聞いて、白衣を着たメガネ女が口元を歪めて顎に指を当てた。
 20機以上のドローン相手に18%の被弾率ですら、この女は不満に思っている。

 「量産型ゲシュペンストMK-IIの機動力では反応が出来ても、機体の方が追いついて行けません。それでもやるって言ったのは、博士ではありませんか」
 隣で涼しい顔をしている助手が、言った本人が忘れた言葉を上司に聞かせた。

 「そうだっけ? まあとにかくこんな中途半端な結果では上の連中が金を注いでくれん。何とかもっと一目瞭然な数字を出さないとな。例えば敵中隊を一機で全滅させるとか」
 「不可能ですよ。量産型のPTでそこまで出来るわけがありません」
 「だよね……キャンディー、食べるか?」