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IS  バニシング・トルーパー リバース 003-004

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 加速力がずば抜けているクリス機より一歩遅れたが、一夏と箒も既に敵と交戦に入った。そして数回の攻防を交わした後、二人は直ぐにこの敵達の異常に気付いた。
 本来空中戦闘できないはずの量産型ゲシュペンストMK-IIと空中格闘戦をやっていること自体は異常だが、この連中の腕は一般なDC残党兵より遥かに強い。
 しかし所詮雑魚は雑魚。全機がカスタマイズされたこの特殊任務実行部隊には敵うまい。高出力のビームザンバーを振り回して、一夏と箒は敵のゲシュペンストを両断していく。

 そんな時に、一機のゲシュペンストはやけになったのか、先に切り込んできた三人を無視して、やや後方に居る鈴へ特攻した。右腕丸ごと切り落とされたそのゲシュペンストは残った左腕のプラズマステークに電光を帯びさせて、背部のバーニアを全開にして突進する。

 「しまった! 鈴!!」
 「はいはい、分かってるわよ。まったくアンタたち、しっかりやりなさいよね!」
 一夏の警告を聞いた鈴は撃ちっ放しだったビームガトリング砲とドラム弾倉をパージして、コールドメタルナイフを握って応戦する。
 今の彼女は中距離支援のポジションについているが、実は一夏や箒たちすら凌駕する格闘戦能力を持っている。さらに状況判断能力も優れており、隊長の千冬にはクリスの次に指揮官に適する人選だと一目置かれている。
 瞬きの間で既に目の前まで迫ってきた敵が振り出したジェット・マグナムに、鈴は機体を斜めに捌いてかわした後、流れるような動きで一回り回転してナイフを敵機体の右脇腹に刺し込み、続いては量産型ヒュッケバインMK-IIの胴体部を捻って、機体の重さと慣性を乗せた肩装甲の側面で敵に重い一撃を打ち付けた。
 この淀みのない一連の攻撃を受けた敵ゲシュペンストはまるで重い鈍器に殴られたかのように飛ばされ、脇腹部に刺されていたナイフも完全に機体内部に入り込んだ。

 これは中国出身の凰鈴音少尉が幼少の頃から学んできた八極拳を参考にして、作り出した「靠撃」という格闘モーションパターンだった。
 他にも肘撃や暗勁など、ゼロ距離において極めて有効なモーションパターンを彼女は製作したが、この拳法を掌握してない人間には使いこなせない点、そしてなにより量産型PTの関節パーツにとって負担が大きすぎて、使いすぎると整備員の弾たちは号泣してしまうなどの理由から、彼女以外の隊員は誰も使わない。
 しかしその威力に疑う余地はない。装甲表面に与えた衝撃は内部の精密機械にまで響き、それらを破壊してしまう。鈴の靠撃を受けた敵ゲシュペンストは装甲の下にあるフレームが大きく歪み、動力パイプが破裂してオイルが血のように装甲板の合わせ目から噴出された。
 機体内部から爆音と共に黒煙が立ち、敵ゲシュペンストは地面へ落ちていく途中で爆発して光を上げた。

 「さすがはうちのラブリージェノサイダー。将来の旦那もうっかりあの技で殺してしまいそうで心配だな。なあ、ノートゥング02」
 「俺に振るなよ!」
 愛機の機動性に翻弄されている敵の背後を取り、ビームソードで突き貫きながら、クリスは半分冗談の口調で一夏に話題を振った。しかしオープンチャンネルだったため、鈴の耳にも当然届いた。

 「何だと! アンタを撃つわよ!!」
 背部に固定されていたレクタングル・ランチャーを手に取り、鈴は照準を合わせてトリガーを引いた。
 命中したのは、径の大きな高速バレルロールを行っているクリスを追いつこうとしている敵の背後だった。鈴にバックパックを破壊され高度を保てなくなった青いゲシュペンストに、クリスは急停止して振り返って、フォトンライフルの銃口を向けて引き金を引いた。
 「すまん、すまん。帰ったらホットミルクを奢るから」
 「どういう意味なのよ!」

 冗談交じりの会話を続いていくうちに、敵部隊は「ブリュンヒルデ」の五機連携によって殲滅されていく。
 これくらいの数の劣勢は最初から問題ではない。カスタム機を使っている特殊部隊と名乗る以上、最低でも一対五の戦力比を発揮できないと話にならない。十機以上にあった青い量産型ゲシュペンストMK-IIは、十五分もかからないうちに全部破壊され、硝煙の満ちた戦場が静けさの中に戻っていく。

 「あ~あ。勿体ない。一機くらいは無傷に捕獲したかったな」
 荒野の大地に散かっている大量のゲシュペンスト残骸を見て、一夏は残念そうな声に呟き、仲間達と一緒に高度を下げて着陸した。
 確かに調査用に一機くらい捕獲すべきかもしれないが、戦闘中にそんな余裕はなかった。幸い腕や足などバラバラになっている部品は残っているし、あとは調査班に任せればいい。 
 パイロットができるのはせいぜい報告書に個人的意見を一句くらい加えることだ。

 「ノートゥング04、05は周囲を警戒し、03は近くにいる学者達と連絡を、02はまだ動ける敵がいるかどうか確認しろ。こっちは保護対象の様子を見てくる」
 「「「「了解!」」」」
 戦局は一旦状況終了と判断し、クリスは仲間達に指示を出した後銃をリアスカートアーマーにマウントして、慎重にオレンジ色の量産型ゲシュペンストMK-IIの元へ向かった。
 少し離れた所で、地面に倒れこんだオレンジ色の量産型ゲシュペンストMK-IIは両肘を地面について、匍匐した姿勢でこの戦いを観察していた。片足は破壊されたが、爆発する危険性はなさそうだ。
 「ブリュンヒルデ」がここに到着までの時間を、一人で耐え抜いた腕前は賞賛に値するが、機体自体は塗装以外に一般機の量産型ゲシュペンストMK-IIとそう変わらないように見えた。
 機密プロジェクトの実験機だから、アビアノ基地の部隊ではなく「ブリュンヒルデ」のみを派遣したと聞いたが、 どの辺が特別なのかまったく分からない。

 「そこのパイロット、無事か?」
 オレンジ色の量産型ゲシュペンストMK-IIの前に着陸して、クリスは機体を見下ろしながらオーブンチャンネルで向こうのパイロットに呼びかけた。
 もう少し待てば、一夏はこっちに来てこの機体を一緒に運んでくれる。今はまずパイロットの安否を確認すべきだ。
 しかしオレンジ色の量産型ゲシュペンストMK-IIから返事は帰ってこない。ただ無言に頭部を動かして、その赤いセンサーを光らせクリスの機体を見上げた。
 簡単な動き一つだが、現存のモーションパターンより遥かに自然な人間らしさを感じた。まるで、パイロットが機体と完全に一体化しているようだ。

 「……だ、れ?」
 しばらくの沈黙の後、クリスの耳には弱々しくて、僅かに震えている女の子の声が届いた。 
 たったの二文字だが、その声は明らかに未成年の少女のものだった。
 珍しい話ではない。 L5戦役で異星人の要塞であるホワイトスターに突入したエースパイロット達の中には、14歳の少女すら居たと聞いている。
 しかしこの返事の仕方は軍人ではなく、まるで訓練を受けてない民間人みたいだった。
 兵器を操るのは軍人の仕事だ。民間人まで巻き込みたいほど、クリスの戦争中毒は酷くない。僅かな不快に眉を顰めて、クリスは口を開いて自分の所属を教えた。