【かいねこ】桜守 前編
俺も、ただ世話になるばかりではいられないので、屋敷の掃除を買って出る。
柿野さんから掃除用具を渡され、藤林様の書斎には魔道に使う道具が多いから、立ち入らないよう言われた。
「触らぬ神に祟りなしだよ」と、笑いながら柿野さんに注意されたのと、藤林様がいない時に立ち入るのも抵抗があったので、書斎には近寄らないことにする。
はたきを掛けていたら、笹井様が口に大福をくわえながらやってきた。
「依頼があったから、しばらく籠もるけど、いい?」
「・・・・・・・・・・・・」
足下にこぼれる白い粉を見遣ってから、
「掃除中ですが」
「知ってる。二度手間にならなくて良かったな」
「座って食べればいいでしょう」
「いや、お前を探してたんだよ。言っとかないと心配するだろ?」
探してたということは、そこら中にこぼしてきたという事か。
俺は溜め息をついて、
「部屋に籠もって、そのまま一生出てこないで下さい」
「何でそうやって、俺にだけ冷たいんだよ」
文句を言ってくるのを無視して、掃除を続ける。
「大体、その大福は藤林様への贈り物でしょうに。何を勝手に摘んでるんですか」
「勝手じゃありません。ちゃんと言いました。あいつは甘い物食べないんだよ」
「ああ、だからあのように凛としたお姿なんですね。貴方と違って」
「何でお前は、俺にだけ厳しいんだよ」
再び文句を言ってくるので、笹井様に向き直って脇腹を鷲掴みしてやった。
「そういうことは、この肉を何とかしてから言って下さい」
「いだだだだ!まだ平気だろ!縦に摘めないし!」
「縦に摘めたら、縁切りますよ?」
「酷い!脇腹の肉程度で!」
「いいから、掃除の邪魔をしないで下さい」
笹井様を解放して、はたきがけを再開する。
ぶつぶつ言いながら部屋を出ていこうとする笹井様に、ふと思いついて、
「笹井様」
「んー?」
「竹村様は、どのようなお方なのですか?」
尋ねると、急に顔を強ばらせ、
「あいつに興味があるのか」
「えっ、あの、どういう経緯でいろはを引き取ったのかと」
「あいつは、いろはを引き取るべきじゃなかった」
笹井様はそう言い捨てて、部屋を出ていった。
作品名:【かいねこ】桜守 前編 作家名:シャオ