【かいねこ】桜守 前編
掃除が終わりに近づいた頃、玄関先で人声がする。
笹井様を呼ぶ声に慌てて駆けつけると、案の定竹村様といろはがいた。酷く傷ついたいろはの姿に、驚いて足を止める。
「竹村様」
「ああ、カイトか。すまないが、笹井を呼んできてくれないか。見ての通り、かなり酷い怪我なので」
「竹村!!」
竹村様の声を遮るように、罵声が飛んだ。
振り向けば、階段の上から笹井様がこちらを睨んでいる。
「お前、何度言えば」
「違います。私が勝手にしたことですから」
いろはが傷ついた体で、一歩前に出た。
笹井様が何事か言おうと口を開くが、
「静かにしろ」
その場に響いた藤林様の声に、場が静まる。
藤林様は竹村様に近づくと、
「いろはは預かる。お前は帰れ」
「しかし」
「お前がいると、笹井が集中できない。何度も手を煩わせている自覚があるなら、邪魔をするな」
藤林様の言葉に、竹村様は唇を噛んで俯いた。
「すまない。俺がきちんと見ていれば」
「済んだことだ。今日は帰れ。明日以降連絡する」
竹村様は暫し躊躇った後、階段の上にいる笹井様に頭を下げる。笹井様は何も言わず、冷ややかな目で竹村様が出ていくのを見下ろしていた。
「いろは、来なさい。カイト、手を貸してやれ」
「はい」
刺々しい声に、相当腹に据えかねていることが分かる。背を向けて部屋に戻っていく笹井様の後ろ姿を見送り、俺はいろはの手を取った。
「随分無茶をする。先日のことがあったばかりなのに」
「すまない。また怒らせてしまったな」
ふらつくいろはの体を支えながら、ゆっくりと階段を上る。痛ましいその姿に、妖魔に襲われた時の光景が蘇った。
振り下ろされた鋭い爪と、噴き出す鮮血。ゆっくりと崩れ落ちる小さな体。
もう、あのような光景は見たくない。
今度こそ、守りたいと思った。
作品名:【かいねこ】桜守 前編 作家名:シャオ