【かいねこ】桜守 前編
いろはを笹井様に引き渡し、掃除用具を片づける。
何か言いつけられたらすぐ駆けつけられるようにと、階段下でぐずぐずしていたら、
「カイト」
笹井様の声に、急いで二階へ駆けあがった。
「はい、ここに」
扉から顔を出している笹井様に、声を掛ける。
「手当ては終えた。昨日の部屋に連れていってくれ。明日の朝、もう一度点検する」
「はい」
笹井様は何かを言い掛けて、はーっと息を吐くと、部屋の中に戻り、いろはを連れてきた。
「今度は、勝手に出て行かせないでくれ」
「承知しました」
いろはを俺に渡すと、笹井様は黙って扉を閉める。
気まずそうに俯くいろはの手を取り、「行こうか」と促した。
昨夜、いろはを泊めた部屋に入る。
ベッドに大人しく腰掛けたいろはに、俺は「手伝わせてくれないか」と言った。
「何を?」
「妖魔を倒す手伝いを。お前一人では無謀すぎる」
いろはは俺を見上げ、
「無理だ」
「何故?」
「「化粧(けわい)」は、女の人形にしか使えないのだ。私は他の術を知らぬから、お前に教えることも出来ない。それに、お前まで巻き込んでしまっては、笹井様に申し訳が立たぬよ」
そう言われては、引き下がるしかない。
他に妖魔に対抗する術も思いつかず、
「ならば、せめて言うことを聞いて、大人しくしててくれ」
それだけ言うのが精一杯だった。
いろはは俺の言葉に頷き、
「そうだな。笹井様には迷惑を掛け通しだ。いい加減にしろと、言われても仕方がない」
「いや、笹井様はそのような方ではないよ」
「ああ、そうだな」
ふと笑みを浮かべると、こちらを見上げる。
「あの方のような主人を持って、カイトは幸せ者だな」
「・・・・・・・・・・・・」
何故そのようなことを言うのだと、問い詰めたい衝動が沸き起こるが、今は彼女に負担を掛けたくなかった。
「そうだな・・・・・・俺は、良い主人を持った。手は掛かるが」
俺の言葉に、いろはがころころと笑う。
この様子なら大丈夫だろうと、俺は何かあれば声を掛けるよう言って、部屋を出た。
さて、そろそろ夕飯の支度をしなければ。
台所へと向かう途中、階段の下で二階を振り仰ぐ。
誰も出てくる気配がないのに安堵して、俺は台所へ向かった。
作品名:【かいねこ】桜守 前編 作家名:シャオ