【かいねこ】桜守 前編
「いろは、彼はカイト。笹村の人形だ。カイト、彼女が、お前を助けてくれた相手だ」
藤林様の言葉に、いろはは軽く頭を下げる。
「あっ、あの時は、危ないところを」
「いや、もっと早くに駆けつけるべきだった。怪我を負わせてしまって申し訳ない」
淡々と話す彼女は、俺よりも幼く見えた。
まだ少女なのに、あの化け物と対峙することが出来るのだな・・・・・・。
余計に自分がふがいなく感じられて、俺は自分の唇を噛む。
俺は、お嬢様をお守りできなかった。
「笹井、いろはを見てやれ」
藤林様が言うと、笹井様はぎょっとしたように、
「えっ、やっ、頼まれたのはお前だろう」
「私は、唐操りのことは分からん。いいから診ろ、人形はお前の領分だろう」
「だからって、何で俺があいつの頼みを聞かねばならんのだ」
不満げに口を尖らすが、藤林様に睨まれて、渋々いろはの手を取った。
「しょうがない。いろは、こっちにおいで。お前の主人を悪く言ってすまなかったな」
そう言って、いろはを連れて部屋を出ていく。
「えっ、あのっ」
「また後でなー、カイトー」
戸惑っているうちに、俺は部屋に取り残されてしまった。
藤林様も、机の上の書類を手に取ると、
「何か、他に聞いておきたいことがあるか?」
「あっ、い、いえ」
「そうか。笹井が修理を終えるまで、好きにしていい。何なら、家の中を見て回ったらどうだ。お前も此処に住むのだからな」
「あ・・・・・・はい」
少し待ってみたが、それ以上言うこともない様子なので、俺は頭を下げて部屋を出る。
頑丈な扉を閉め、詰めていた息を吐いた。
なるほど、「最初は取っ付き辛い」、か。
笹井様は「慣れればいい奴」と言っていたが、あの方は誰とでも親しくなる才があるので、その言葉はあまり当てに出来ない。
とはいえ、世話になる以上、避ける訳にもいかなかった。
何とか慣れるしかないと自分に言い聞かせながら、まずは屋敷の中を見ておこうと思った。
作品名:【かいねこ】桜守 前編 作家名:シャオ