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【かいねこ】桜守 前編

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日が落ちた頃、玄関先が騒がしくなる。
何事かと見に行けば、笹井様が竹村様と言い争っていた。
いや、むしろ笹井様が一方的になじり、竹村様をいろはが庇っている。

「竹村!お前いい加減に」
「私が自分の意志で行ったのです。旦那様の責任ではありません」

いろはが説明するが、竹村様はいろはを脇に下がらせ、

「いや、俺が余計なことを言ったからだ。すまない、それほど深刻な状態だとは分からなくて」
「分からないで済むか!人形は俺の領分だ!勝手な真似をするな!」
「済まなかった。二度としないと誓うから、いろはを助けてくれ」

頭を下げる竹村様を、笹井様は苛立った様子で睨み、

「今夜一晩預かる。また勝手に連れ出すようなことをしたら、金輪際お前の手助けはせんからな」
「感謝する。お前だけが頼りなんだ」
「もういい。帰れ。後は俺がやる」

竹村様はもう一度頭を下げると、いろはに「笹井の言うことを良く聞くのだぞ」と声を掛け、そっと出ていった。
笹井様はふーっと息を吐き、いろはの方を見る。

「お前も無茶をする。診てやるからおいで」
「申し訳ございません」

頭を下げるいろはの手を取り、部屋に連れていった。
声を掛けることも出来ず、俺は黙って台所に戻る。




皆が寝静まった頃、俺は与えられた部屋を抜け出した。
いろはが泊まっている部屋は、笹井様から教えられている。時折様子を見に行くよう言われているので、問題はないだろ。


・・・・・・騒がれたら、何と言い訳しようか。


正直に話せばいいだけなのだが、どうにもやましい気がして落ち着かなかった。
いろはが泊まっている部屋の前で、暫く躊躇した後、意を決して扉を叩く。

「いろは、カイトだ。大事ないか?」
「ああ、カイトか」

声がした後、細く扉が開き、いろはが顔を出した。

「心配をかけてすまない。大丈夫だよ」

薄い着物を一枚羽織っただけ姿は、やけに艶めかしく見え、目のやり場に困る。
失礼にならない程度に視線を逸らし、

「だが、まだ無理は禁物だろう。横になっていろ。騒がして済まなかった」

そう言って彼女に背を向けたが、後ろから袖を引かれた。

「なあ、少し話していかないか?」

退屈なんだと密やかに笑う声が、更にやましさをかき立てる。

「少しだけ、なら」
「そうしてくれると助かる」

衣擦れの音とともに、いろはが部屋の中へ戻っていった。


・・・・・・ただ、話をするだけだ。


自分に言い聞かせながら、俺も後に続く。


作品名:【かいねこ】桜守 前編 作家名:シャオ