【かいねこ】桜守 後編
「お嬢とは、あれから会ったかい?」
突然柿野さんに聞かれ、驚いて乾物を取り落としそうになる。
「え!?あっ、い、いえ」
「そうかい。あの子の場合、便りのないのは良い便りとはいかないからねえ」
「・・・・・・はい」
もし、取り返しのつかないほど損傷したら、いろははそのまま廃棄されてしまうのだろうか。
笹井様が眠ったままの今、彼女は誰の元で手当てされているのだろう。
「でも、もう桜も終わったからね。妖魔も山に帰っただろうさ」
柿野さんの言う通りだ。妖魔がこの時期だけ人里に降りてくるのなら、当面出てくることはないだろう。
だが、来年になれば。
「・・・・・・少しでも彼女の役に立てるよう、藤林様に魔道学を教えて頂いています」
「ああ、そういや、何だかごちゃごちゃやっていたねえ?」
「はい。藤林様のお話では、人形遣いも魔道士の一種なのだとか」
「そうなのかい。そう言われると、何だかかしこまってしまうねえ」
それから、この館に以前滞在していた人形遣い達の話になり、あれこれと聞いた後、いろはの亡き主人の話になった。
「山吹様とおっしゃるのだと、笹井様から聞きました」
「あたしも聞いたことがあるよ。旦那様と引き合わせたかったと、笹井様はしきりに言われてたね」
笹井様が山吹様について話していたことを思い出し、ふと柿野さんにも考えを聞いてみたくなる。
「あの、笹井様がおっしゃっていたのですが・・・・・・」
「うん、何だい?」
「山吹様が亡くなられたのは、妖魔に襲われたからだとお聞きしております。ですが、笹井様は、妖魔がつけた傷にしてはおかしいと・・・・・・」
言葉を濁すと、柿野さんはじっと俺を見つめ、
「人が殺されるのはね、怨恨だけとは限らないんだよ」
「え?」
俺は驚いて、まじまじと柿野さんを見つめ返した。
柿野さんは、視線を逸らさずに、
「お嬢の使う術はね、特殊なのさ。あの方が作り上げた術だからね。お嬢にしか使えない。秘密を知りたがる者は、大勢いるだろうよ」
「え?あのっ、どういう」
「守っておやり。お嬢は妖魔に対抗する力は持っているけれど、あの子の武器はそれだけさ」
そう言うと、後は背を向けて黙々と仕事を片づける。
俺は、柿野さんの真意を掴もうと、何度もその言葉を反芻していた。
作品名:【かいねこ】桜守 後編 作家名:シャオ