【かいねこ】桜守 後編
遅咲きの桜も完全に散って葉桜となり、人々の浮かれ気分も落ち着いた頃、やっと笹井様は目を覚ました。
目を覚ましてすぐ、藤林様に無茶をするなと散々叱られたそうで、着替えを用意する俺にぶつぶつと文句を垂れる。
「魔道具を幾つ持ち出したとか、知らねーよ。一つしか借りてねーよ。絶対自分で無くしたんだ。人のこと疑いやがって、酷い奴だ」
「日頃の行いが悪いせいですよ」
「何でだよ!こんなに品行方正なのに!」
「持ち出したのは事実でしょう?」
「うっ。そ、それは、そうだけど、一つだけだし!ちゃんと返したし!他のは濡れ衣だ!」
「自業自得です」
「酷い!カイトの鬼!」
「何とでも言ってください」
今日は、藤林様が笹井様を病院に連れていき、検査を受けさせるという。
「どうせ何もないだろうが」と言いつつ、藤林様は少し嬉しそうな顔をしていた。
俺も、笹井様がいつもの調子に戻ってくれて安堵している。本人には絶対に言わないけれど。
柿野さんも、今日は町内会の集まりがあるそうで、俺は留守番を買って出た。ごたごたが続いて庭にまで手が回っていなかった為、少し荒れてしまっている。いい機会だから、少し刈り込んでおこうと思った。
植木鋏を手に、何処から手を着けようかと庭を見回していたら、鮮やかな髪色が目に留まる。
いろは?
声を掛けようとしたら、いろはは走り去っていく。
一体何処に行こうとしているのか、何故此処にいるのか気になって、俺は後を追いかけた。
「いない・・・・・・」
足を止め、周囲を見回す。
確かにこの路地に入っていったはずなのだが、いろはの姿は見あたらなかった。
見失ってしまったか。
気にはなるが、ただ闇雲に追いかけるのもな。
前回の二の舞になってしまうことだけは避けたかった。妖魔が絶対にいないとは言い切れないし、やっと具現化の術を使えるようにはなったけれど、まだ安定しているとは言い難い。
一度戻るか。
もしかしたら、藤林様か笹井様に用があったのではないかと思い当たり、帰りを待っているかもしれないと、屋敷へ足を向けると、竹村様の姿が見えた。
その後ろに、妖魔を従えて。
えっ!?なっ!?
混乱しながらも、とっさに物陰に隠れる。
竹村様は妖魔に向かって手を振り、何事か話しかけた。その瞬間、妖魔の姿は跡形もなく消え去る。
何が起こった・・・・・・?
自分の見たものが信じられなくて、竹村様を凝視した。
竹村様が周囲を見回したので、慌てて身を隠す。
そっと様子を伺うと、竹村様が屋敷の方へと足を向けていたので、足を忍ばせながら、後を追った。
作品名:【かいねこ】桜守 後編 作家名:シャオ