【かいねこ】桜守 後編
カイトが庭を飛び出していくのを見て、竹村は小さく笑う。
手の中には、精巧な細工が施された小さな箱があり、中には紅色の宝石が煌めいていた。
単純な奴だ。
あいつが、いろはに気があるのは分かっている。一緒に始末してもいいが、笹井に騒がれたらやっかいだ。
笹井の奴は単細胞だが、やたら顔が広い。敵に回すのは得策ではないな。
カイトが十分離れた頃合いを見計らって、箱の蓋を閉めていろはの幻影を消す。
これで、暫く戻ってこないだろう。
竹村は、その場を静かに離れると、懐から別の魔道具を取り出した。藤林の書斎から持ち出したそれは、妖魔を意のままに操ることが出来た。
竹村は、前もって借りておいた空き家へ向かう。雨戸を閉め切ったその家の中には、前もって妖魔を集めてあった。
いろはは、もう用済みだ。
「化粧(けわい)」は特殊な術の為、調べるのに時間がかかったが、手間をかけただけの見返りは十分にある。
後は邪魔者を始末し、自分は顔と名を変えて、別人として生きていくだけ。
竹村は、厳重に封じておいた扉に手を掛け、薄く笑った。
山吹も、もう少し聞き分けが良ければな。
だが、あいつの人形も送ってやれば、寂しくないだろう。
くつくつと笑いながら、扉の封を解く。
薄暗がりに日が射し込み、集められた妖魔の醜悪な姿を浮かび上がらせた。
「来いよ、化け物」
それにしても、あいつらはどうして気が付かないのだろう?
そうそう都合良く、妖魔が人里に現れるはずがないのに。
藤林邸の庭に、連れてきた妖魔を隠す。
念の為周囲を確認し、玄関へと回り込んだ。
少しして、いろはがやってくる。
「ただいま参りました」
いろはは相変わらずの無表情で、声を掛けてきた。
「すまんな。藤林には話を通してあるが、何せ数が多くて。俺一人では運び出せぬのだよ」
「いえ、お気になさらずに」
竹村はいろはを促し、屋敷の中へ入る。
うかつに逃げ出さないよう、二階の部屋へと誘導した。
作品名:【かいねこ】桜守 後編 作家名:シャオ