【かいねこ】桜守 後編
階段を上り、使っていない客間へ連れていく。
「確か、この部屋だと聞いたのだがな」
竹村は空とぼけながら、いろはが部屋の奥へ行くのを見届け、扉を閉めた。
その時、
「私も、旦那様のように殺すのですか?」
振り向けば、いろはの無表情な視線が、竹村を見据えていた。
竹村は、驚いた顔をして見せ、
「どうしたんだ、いろは。急に何を言い出すかと思えば」
「私は、貴方が旦那様を殺したことを知っています」
真っ直ぐに見つめられ、竹村はにやりと笑う。
「やはり、お前は信用ならない奴だ」
「人形遣いではない貴方が私を引き取ったのは、「化粧(けわい)」について調べる為でしょう。貴方は術の秘密を売ろうとし、旦那様は断った。だから殺した。違いますか?」
やはり、俺に引き取られたのは、それを調べる為か。
気に入らなかったのだ、お前の目つきが。
「人形は金になるからな。魔道を扱える人形となれば、更に値が上がる。悪い話ではないのに、お前の主人があれほど愚かだとは思わなかった」
俺の見る目も曇ったものだ。
人形を売ることも、魔道を教えることも拒否しやがった。
「金の為ですか。金の為に、貴方は、旦那様を手に掛けたのですか」
「だとしたら、どうするんだ?」
竹村の言葉に、いろはは眉一つ動かさず、
「私は人形ですから、人間の貴方を傷つけることはしません」
その言葉に、竹村は首を仰け反らせて笑った。
「敵を前にしても、手を出せないか!哀れな存在だな!」
「・・・・・・・・・・・・」
やはり、こいつは片づけておかなくてはならない。
藤林や笹井に漏れたら、やっかいだ。
竹村は懐に手を入れ、短刀を取り出す。
足止めさえ出来ればいいと、いろはに掴みかかろうとした時、
「いろは!」
その声がカイトのものだと気づいた瞬間、顔に液体を浴びせかけられた。
「なっ!?」
むせ返るような甘い匂いが鼻を突き、目には激痛が走る。
「カイト!?」
「こっちだ!!」
二人の声に続いて、ガラスの割れる音が響いた。
充満する甘い匂いが、桜の香りだと気づいた竹村は、必死に顔を拭い、無理矢理瞼を押し上げる。
その視線の先に、割れた窓ガラスから覗く、無数の妖魔の姿があった。
作品名:【かいねこ】桜守 後編 作家名:シャオ