【かいねこ】桜守 後編
いろはの手を握り、とにかく走る。
妖魔達が、こちらを追ってこないとも限らない。今は、少しでも遠くへ逃げることを優先した。
「ここまで来れば・・・・・・」
足を緩めて立ち止まり、後ろを振り向く。妖魔の気配がないのを確認してから、いろはへと目を向けた。
「いろは、大丈夫か?」
「あいつが殺したんだ!」
突然叫び出すいろは。俺の腕を掴むと、力一杯揺さぶりながら、
「妖魔じゃない!あいつが殺したんだ!あいつが!旦那様を!!」
声を張り上げて叫び、大粒の涙をこぼす。
「妖魔じゃない!妖魔なんかじゃない!あいつなんだ!!あいつなんだ!!」
狂ったように泣き叫ぶいろはを、俺は黙って抱き締めた。
藤林様の屋敷は、中から火の手が上がり、あっと言う間に全焼してしまったという。
藤林様はただ肩を竦め、建て替えの間、全員別宅へ移動するよう言った。
焼け跡からは何も見つからず、竹村様がどうなったのか分からない。妖魔が連れ去ったのか、運良く逃げたのか、どちらにせよ、俺はこれ以上考えないことにした。
今なっては、どちらでも同じことだ。
作品名:【かいねこ】桜守 後編 作家名:シャオ