Keep a silence 2
「風丸の様子では本当のようだな。円堂の話」
「……ああ」
「円堂は何と言っている?」
「まだ決めかねてるみたいだ。円堂は日本のサッカーが好きだからな」
「だが、世界を知る事にも興味がある、ということか……」
「そうみたいだ」
運転席の豪炎寺と助手席の鬼道は、後部座席で寝ている円堂と風丸になるべく聞こえないように静かに話した。だが二人とも熟睡しきっているので聞かれている心配はほとんどないだろう。
「俺は良い事だと思う。円堂は世界を知ってみるべきだ。その先に待ってる挫折なんかもな」
その言葉には、たとえ挫折するような事があっても円堂は決して自分を曲げることはないと言う信頼からもあった。
「風丸も」
「…………」
「一度知るべきではないか? 円堂から離れるということを」
鬼道はちらりと後部座席を見て、風丸が寝息をたてていることを確認してから言った。
「……かもしれないな。でも、離れられるならきっとずっと前に離れているだろう」
「……それもそうだ」
円堂は優しい。優しいし、器量が大きい。器の小さい自分を受け止めてくれる円堂の側を離れなければいけないのは解っているが、どうしてもそれが出来ない。円堂が優しいのをいい事にずるずると駄目な自分を引っ張ってもらっているのはすごく情けない。涙の滲んだ目で風丸が豪炎寺にそう訴えてきたのは、先週の事だった。
風丸が器の小さい人間だなんて、彼に出会った人は誰も思わない。思っているのは風丸自身のみだろう。それでも、彼は常に自分に対して誰よりも厳しかった。自己に対してひたすらストイックで、他者への甘えを自ら禁じていた。それを許していたのは唯一、円堂のみだった。
「円堂が離れてしまうかもしれないと知って、どうしたらいいか解らないと言ったところか?」
「いや、解っているさ。解っているからこそ悩んでるんだろう」
「本当に難儀な性格だな。……俺もだが」
その言葉に豪炎寺は笑った。
作品名:Keep a silence 2 作家名:アンクウ