Keep a silence 3
「……ありがとう」
「ん、」
結局前回と同じように風丸は豪炎寺に抱きかかえられながら、鍵を開けた。その時の羞恥心と隣人に目撃されないかという緊張感から、妙な汗がとめどなく流れていた。
豪炎寺は風丸の部屋に上がるとそのまま風丸をベッドにまで運んだ。風丸は最後の最後まで豪炎寺のペースに流されてしまったが、元を正せば際限なく飲んだ自分が悪いので、文句の一つでも言うことは出来なかった。
豪炎寺は一度台所に引っ込むとコップに水を入れて持ってきた。
「ほら」
「ああ、悪い」
勝手に台所を触っても、風丸がそれに対して怒ったりすることは無い。豪炎寺は頻繁にここを訪れているし、週末には泊まったりもしている。豪炎寺は実家住まいなので必然的に風丸の部屋で逢う事が多かった。
「本当に悪かったな。………皆にも迷惑かけたと思う」
「ああ……まあ平気だ。気にするな」
その口ぶりから恐らく風丸は一次会で自分が大暴挙に出た事など覚えていないのだろう。まだ意識がはっきりしていない今の状態で教えればとんでもない事になりそうなので、とりあえずしらを切ることに決めた。
「多分、皆に気づかれただろうな。……円堂の事……」
「………平気さ。例えそうだとしても、あいつらはそんな事でお前をどう思ったりはしないだろ」
「そう………だな。皆いい奴だから」
俺とは違ってな、とやや自嘲気味に笑いながら言った。
「……もう酔いは醒めたのか?」
「ん、まだちょっとくらくらするかな。でも寝れば平気だと思う。明日が怖いけど」
そう言って風丸は苦笑いした。
「………もう、平気だから」
「……………」
「俺は大丈夫だから、さ………」
「……そうか」
少しの間沈黙が流れた。それは1分にも満たない短い物だったが、随分長たらしく感じた。豪炎寺は風丸を強く見据えていた。獲り逃さないかのような視線に風丸は少し肩を竦めたが、逃げる事はなく受け止めた。
「じゃあ、そろそろ帰るな。ちゃんと寝ろよ」
「う、うん……ごめん。何も構えなくって。今度ちゃんとお礼させてくれよ」
「気にしなくていい。どうせ円堂は最初から送る予定だったんだから」
「うん………ありがとう………」
風丸はまだ顔が赤い。酔いが醒め切っていないのだろう。言う事は噛みあっているが、ややぼけた話し方をしている。こんな状態で一人残していくのは心苦しいものがあったが、今は一人にしておいた方がいいだろうと判断し、豪炎寺は部屋を後にしようとした。
風丸は豪炎寺の後姿を見送りつつも、半分意識が眠りの淵にさしかかっていた。だからだろう。視界がぼんやりして見えたのは。
行ってしまう。
行って、しまう。
行かないで。
俺を……置いていかないで……。
「待って!!」
風丸の声が部屋に木霊した。
作品名:Keep a silence 3 作家名:アンクウ