ベン・トー~if story~ vol.1
2部 答え
あれから1週間。俺は何度もHP同好会の活動を見に行っていた。動機はもちろん、先輩の戦いぶりをみたいがためだった。先輩は相当な実力の持ち主みたいで、『氷結の魔女』なんて2つ名まで持ってるらしい。佐藤や白粉はたまに弁当争奪に失敗するにも関わらず、先輩は常に狙った弁当をいち早く奪い取り去っていく。もしかして先輩はこの辺じゃ敵無しなんじゃないかと最近思うようになった。
そんなこんなの生活を続けつつ、しかし喧嘩や争い事があまり好きじゃない俺の心は最初から決まっていたのかもしれない。
翌日。放課後。俺は答えを出すため部室へと向かう。
「ちはーっす」
ドアを開けて部室に入るといつものように先輩が椅子に座っていた。
「藤島か。どうだ、入部の意思は固まったか?」
この人はどうしても俺に入部して欲しいらしい。あの初日の部活動見学の翌日、部室に行ったら色仕掛け?っぽいことをされて無理やり入部させられそうになった。腕に胸を押し付けられた状態だったんだぜ?柔らかくて気持ちよくて、あぁ、これが女の子のおっぱいか…なんて思ったが、俺は負けなかった。佐藤なら陥落させられてたかもな。
そして今日、俺は答えを出すためにここへ足を運んだ。
「先輩…俺、この部活には入れません」
頭を下げて俺は先輩にそう言った。
「そう、か…。残念だ」
顔を上げると、先輩は心なしかがっかりしたような表情を浮かべていたことを俺は今でも覚えている。
「でも、この部室には来たいです。何か居心地良いですし」
自分でも都合の良いことを言っているのは解っていた。部活に入る訳でもないのにこんなことを言うのも我ながら先輩に会うためとはいえ無理があるなと思った。
が、先輩は
「あぁ、良いぞ」
と快く受け入れてくれた。
俺は拍子抜けして「へ?」と情けない声を上げていたと思う。そのくらい意外だった。
「い、良いんですか?」
思わず聞き直したね。だって、部活に入らずして先輩の近くにいられるんだからな。
「ああ、構わない。この部室が気に入ったんだろう?」
そう言われて俺は頷くことしか出来なかった。内心はイヤッホォォォゥ!!!だったけどな。
「あ、ありがとうございます!」
「お礼を言われる程のことをしたつもりは無いんだがな」
今の俺はテンションマックスだった。これから毎日放課後になれば先輩に会える!そう思うと胸が熱くなった。
翌日。学校に登校した俺は、周りに気付かれる程上機嫌だったらしい。
「藤島君、今日はどうかしたの?ご機嫌そうだけど」
栗色の長髪をポニーにして纏めたこの女子は倉敷弥生。明るく活発な学級委員長で、俺に話しかけてくる数少ない女子の一人だ。
「ん?あぁ、ちょっとな」
「そんなに浮かれてる藤島君、見たことないよ。よっぽど良いことがあったんだね」
ニコニコしながら話しかけてくる。この子はいつも、こんな調子だ。
「上機嫌だって?」
と、肩を組むようにしながら話しかけてきたのは藤澤だった。
「珍しいな、お前が」
「悪いかよ。俺だってそんな日くらいあるさ」
俺の言葉に藤澤は小さく、「この間の先輩のことか?」と訊いてきた。俺はまたしても見抜かれたと思いながら頷いた。
「はは、そうか。頑張れよ」
そう言って藤澤は俺の背中を叩いてきた。その様子に倉敷は首を傾げていたが、先生が来たため深くは追求されなかった。
その日は先輩にこれから毎日会えるという期待でまたしても授業が耳に入っていなかった。
そして待ちに待った放課後。俺は大急ぎで掃除を終わらせて部室へと向かった。
「失礼しまーす」
部室に入ると、何か凄い光景が広がっていた。先輩が白粉を踏みつけていたんだ。先輩って、S…?
思わずそんな疑問が口から出そうになった時、俺に気付いた先輩が
「これは私の趣味ではないぞ。白粉がまた踏んでくれと言うからだ」
と言った。何だ、良かった。ん…また?
「前に踏んでもらった時、凄く気持ちよくて…ほら、槍水先輩の足って綺麗だし何となく気持ち良さそうじゃないですか。だからですねー…」
と、本当に気持ち良さそうにしながら白粉は語る。しかし先輩だと若干M心をくすぐられそうになるな…。
と、俺は先輩に1つ勝負を持ちかける。
「先輩、オセロやりませんか?」
「ん?オセロか…いいぞ」
ということで、俺と先輩のオセロ勝負が始まった。
途中から佐藤も来て見ていたが、先輩はけっこう強かった。俺もそれなりに自信はあるつもりだったがそれでも2勝2敗になった。
「先輩、強いですね…」
「藤島こそ、中々やるじゃないか」
とまぁ、そこで時間になってしまって先輩達はスーパーへ向かって行った。
俺は先輩達が戻ってくるまで部室で待つことにした。
作品名:ベン・トー~if story~ vol.1 作家名:Dakuto