ベン・トー~if story~ vol.3
受付からのアナウンスが流れ、ルールが説明される。簡単に言って迷路からの脱出ゲームで、一人は高台に登って指示を出し、もう一人は要所要所にあるクイズを見つけて解きながらいち速く脱出を目指すというものだ。脱出した順にポイントが振り分けられ、さらに見つけたクイズに正解すると難易度に応じたポイントが追加で割り振られる。総合ポイントが一番多いカップルの優勝だ。
俺が脱出で先輩に指示を出してもらうことにした。
「先輩、頑張りましょう!」
「ああ!」
俺はスタート位置に、先輩は高台に登る。一人一個、トランシーバーが配布されているのでこれで連絡をとる。
「それでは…スタート!」
司会者の号令で開始となった。
「藤島、まずはその道を真っ直ぐ。突き当たったら左だ」
「了解!」
先輩の指示通りに動く。スタート地点は別々なので指示が被ることはない。
「次の角を左、その次を右にいったら真っ直ぐだ」
「はい!」
「次を右に…」
「先輩、待ってください」
最初のクイズを見つけた。
「クイズを見つけたので解きます」
「わかった」
これは簡単なクイズだったのですぐに解けた。
「OKです」
「よし、次の角を右だ」
「はい!」
この調子でどんどんクイズを解きながら出口を目指す。この迷路自体もかなり難しく、迷いに迷った。出口まであと少しというところで難問にぶち当たる。
「藤島、急げ!他の選手が向かってきている」
「まだあと少しだけ待ってください!もう少しで解けそうなんです」
考えていると他の選手が俺の視界にも入ってきた。クイズに関してはパートナーは口を出せないというルールがあるためここまで悩んでしまった。仕方なく諦めて出口へダッシュ。
ギリギリのところで一位通過できた。他の選手も続々と出てくる。
「お疲れさまでした。それではクイズの答えを発表していきます」
先輩達も降りてきたところで司会者が解答を始めた。
俺の正解数は5問中4問。最後にぶち当たった問題以外は正解出来た。
そしていよいよ最終結果が発表される。
「優勝は…植野・岡ペア!おめでとうございます!」
俺達は、2位だった。あと数ポイント足らなかったために優勝を逃してしまった。
「最後のクイズが解けてればなぁ…」
溜め息をつく。
「そう落ち込むな、藤島。二人で頑張ったんだからいいじゃないか。私はそれで十分だぞ?」
そんな俺を見て先輩は、励ますようにそう言ってくれた。
「準優勝の藤島・槍水ペアにはペアペンダントをプレゼントいたします!後ほど受付までお越しください」
そう言われたので終わってから受付へ向かってみると、十字架のペンダントを渡された。何でもオーダーメイドらしく、高級感漂うお洒落なものだった。ちなみに2つを重ねると大きな十字架になる。
「先輩、どうぞ」
俺は十字架の外枠にあたる部分の方を貰い、先輩にもう1つの方を手渡した。
「ああ、ありがとう」
二人揃ってペンダントを付ける。
「よくお似合いですよ」
受付のお姉さんに言われ、俺は少し気恥ずかしくなった。先輩も同様のようで、頬が赤くなっていた。
その後、記念写真を撮影して後日郵送してもらえることになった。
旅館へ戻ると、ちょうど晩御飯にいい頃合いの時間になったので仲居さんに言って食事を持ってきてもらうことにした。
食後、再びお風呂に入って部屋へと戻ってくると…
「どうしてこうなった」
布団が二枚、隣り合わせに並べて敷かれていた。百合子さんの仕業だろうか。
「藤島、これは何だ?」
先輩が手に持っているソレを見る。……それは布団が隣り合わせになっていることなどどうでも良くなりそうな代物だった。
「!!」
俺は先輩の手から慌ててソレを奪い取る。これが何かって?…紳士が持っているべきもの、とだけ言っておこうか。
「先輩には関係あるけど関係ないものです」
テンパって自分で何を言ってるかわからなくなってきた。
「何だそれは?教えてくれないのか?」
まぁ、実物なんて見たことないよなぁ。俺だって今、初めて実物を見たし。ただこのままだと先輩の気がおさまらないようなので、耳打ちして教えてあげた。
「ソレはあれか。いわゆる避n…」
「皆まで言わなくていいです」
何気なく言いかけた先輩の口を指で押さえて塞ぐ。いくら先輩でも、そのくらいの知識はあるよな。小学校とかで性教育も受けてるだろうし。
とりあえず布団を放して寝ることにした。でなきゃ俺の理性が保たないと思う。
「先輩、お休みなさい」
「お休み」
照明を消して布団に入る。とはいえ、俺は眠れなかった。何せ先輩がすぐ近くで寝息をたてているからだ。こんな状況で落ち着いて寝れるわけがない。
~~~~~
「藤島、起きているか?」
「はい」
「……藤島。藤島は、私の身体に…興味があるのか?」
「え…」
不意に先輩が予想もしていなかったことを訊いてきた。
「その…あのようなものが置いてあったということは、そういうことをするということだろう?」
「ふ、普通ならそうなるかもしれないですね」
まさか先輩…
「じゃあ…実際にやってみるか?」
「え…」
「藤島なら、構わないぞ…?いや、藤島だからこそ…だ」
「先輩…!」
~~~~~
なんていうようなゲスな妄想ばかりしてしまって寝れなかった。
朝。
「ん…藤島、早いな。おはよう」
「おはようございます…」
「何だかやつれたように見えるが…大丈夫か?」
「はい、平気です…」
正直、理性を保つので精一杯だった。先輩、寝顔も可愛かったし。何度襲おうと思ってしまったことか。拷問でしかない一夜だった。
「朝風呂、行かないか?」
「いいですね」
眠くて仕方なかったが、何とか奮い起こして部屋を出る。
部屋を出ると先輩は大浴場とは別の場所へ向かう。
「あの先輩、どこへ…?」
「露天風呂だ」
「露天風呂?」
と言いながら先輩が向かうのは裏口だった。従業員しか来ちゃいけない場所なんじゃ?
「でもこっちは…」
「裏口から出て少し歩いたところに旅館よりも景色のいい露天風呂があるそうだ」
「え?そんな情報、どこで…」
「昨夜、百合子さんに聞いた」
一体、いつの間に…。とにかく、俺達は野外にあるという露天風呂へ向かった。
しばらく歩くと露天風呂に着く。林があって周りからは見えないように上手く造られた露天風呂だった。俺と先輩は早速、それぞれの脱衣場に向かい服を脱ぐ。
浴場に入ると成る程、確かに景色は絶景だった。月並みだが素晴らしいの一言に尽きる。川と森が上手く連なりあってこの素晴らしい景色を造り出していた。
「……藤島?」
景色に魅入っていた俺の「背後から」声が聞こえた気がした。気のせい…だよな?
恐る恐る振り替える。するとそこにタオルで前だけを隠した先輩がいた。
「ぶっ!?せ、先輩!?何でここに!?」
俺は慌てふためいて後ろを向く。
「どうやら混浴だったようだ」
いや、だったようだじゃなくてもっと慌ててください、先輩。何でそんな平然としてるですか。
「お、俺出ますね!」
風呂から上がろうとした俺の腕を先輩が掴む。
「何故だ?一緒に入ればいいだろう」
「いや、でも…」
そんな押し問答を続けているうち、先輩が足を滑らせて転びそうになった。
「危ない!」
作品名:ベン・トー~if story~ vol.3 作家名:Dakuto