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たとえばこんな間桐の話

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 テーブルに食器を用意していた少女が義兄と義父の顔を見つけ、ほわ、と柔らかい微笑を浮かべて挨拶する。
「ん、おはよう、桜。手伝いか、偉いな」
「私の娘もマジ天使!!」
「ダメだこのアル中」
「息子が辛辣!!でも天使!!」
「お父さん、今日も元気だね」
 紫のワンピースに可愛らしい猫の模様が描かれたエプロンを身に着けて、くすくす微笑う少女は間桐桜。
 目は死んでいないし、感情も失わずにこの場にいる。
 髪と瞳は間桐の色に染まってはいるものの、そこを除けばその姿はどこにでもいそうな普通の少女に見えた。
「おじさんは?」
「ご飯作ってるよ。……駄犬と一緒に」
 台詞の後半、瞳から光が失われ、随分と声が冷え、空気が重く、昏くなった。が、もう毎度の事だから二人も何も言わない。
「ランスいるのか」
「あー、昨夜蟲倉入って私も名実共に間桐の一員にぃぃぃ!!とか騒いでたの雁夜に怒られて、ずるずる引き摺られていったもんなー。一緒にいるのか」
 理性ログインしてアレってどーなんだろうなー、と鶴野が呟く。
 雁夜が呼び出したサーヴァント。バーサーカーことランスロット。狂化を解かれた状態で、鎧も脱いで間桐に居る現在。
 正直鶴野達の認識は雁夜大好き兄ちゃんである。騎士とかよくわかんない。ていうか犬だよね、あれ。そんな共通認識。
「……その流れだと現界したまま慰められつつおねんねコースだな。幼児か」
 呆れた様に慎二。最近ではそう珍しくも無い流れだ。
「桜もお部屋に乱入して一緒に寝ました!!」
「流石だな!!」
「幼女怖いな!!」
 三人でサムズアップし合う。
 ……仲良し家族である。台詞に突っ込んではいけない。
「まぁ、あと十年は雁夜おじさん手ぇ出してくれなさそーだもんなぁ」
「蟲に奪われる位ならーって、その一回だけだっけ。雁夜から手ぇ出したの」
「桜はいつでもいいのに……」
 口を尖らせる桜に、鶴野と慎二が苦笑する。
「だって、このままじゃおじさん、とられちゃう……」
 しゅん、としながら桜。慎二と鶴野は顔を見合わせ、
「ランスは一応忠誠とか保護欲だと思うんだけどなー」
「ただ、あのくっつきっぷりがなぁ……」
「駄犬はおじさんに構われすぎだと思います!!」
「だがそれでお前が冷たくするとおじさんが構う悪循環だぞ」
「むぅぅ……。じゃあやっぱり桜がおじさんにせまるしか!!」
「何という肉食系。だがそれでこそ間桐だ」
 慎二が力強く頷く。間桐を何だと思っているのかこのショタは。
「でも無茶するのはダメだぞー。あいつ追い詰めるとひっどい事になるからなー」
「もう精神的にぶっ壊れてる僕達が言うのも何だけどな」
「桜も壊れてるから平気だよ?」
 間。
「……うん、雁夜の前では言うなよ、桜。あいつも結構吹っ切ってるけど多分泣く」
「絶対泣くな。あの人、壊れてても吹っ切っててもお人好しだもん。桜の事大事にしてるし」
 だから言うなよ?と二人に言われ、桜も不思議そうにしながらも頷く。
 壊れているのは仕方ないと思うのだ。
 遠坂の家だって、大して違わない。離れたからこそ解る歪みが、多分あそこにはあった。
 魔術師なんて壊れているのが普通。歪んでいて当たり前。染まってしまえばそれも解らなくなる程度の物だ。
 この家は格別に壊れて歪んでいるのだろうが、雁夜も一緒だから桜はもうそれで良かった。
 でもこの二人も雁夜と桜の事を想ってそう言っているのが解るから、素直にその言葉を受け入れる。
 一緒なのはこの二人、鶴野と慎二も同じだし。桜は、この父と兄の事も好きだった。
 と、
「ふん……出来損ない共が群れ」
「おじいさま、餌はご自分で用意して下さい」
 扉を開け放ち、通称蟲爺、臓硯が居間へ足を踏み入れる前に扉が閉じられた。
 桜の平坦な声と共に、容赦無く。
 臓硯はこの間桐共通の敵だ。仕方が無い。
 閉じられた扉の前でぷるぷる震えて涙ぐんでいるだろう事は気配で感じるが、正直ざまぁと思うだけでどうでもいい。
 そんな臓硯の姿を見ても気色悪いとバッサリなのが桜と慎二、爆笑して蟲をけし掛けられるのが鶴野である。
 雁夜には見せられない。あのお人好しはそれが臓硯であっても絆されて流されてしまうだろうから。
 それは駄犬で忠犬なランスロット含めての間桐の共通認識である。
 因みにランスロットがそれを目撃した所で、雁夜絡みでなければスルーだ。実に解り易い。
「……朝から、嫌なモノ見ちゃった……」
 臓硯の姿に己の黒い部分が刺激されたのか、桜の影が蠢いた。が、
「朝食出来たよー。ごめんね、遅くなって……あ、慎二君と兄貴も来てたか。おはよ」
「おじさんっ!!桜、手伝うねっ」
「ありがとう、桜ちゃん」
 周りに花を散らす様な笑顔を浮かべた雁夜の登場に、そんな不吉な空気は霧散した。



 朝食は和食。鮭の切り身とほうれん草のお浸し。豆腐とワカメの味噌汁と、漬物というシンプルなものだった。
 しっかり噛んで、ゆっくり食べて、他愛の無い会話をして。
 食後にまったりとお茶を啜って。
「……ところでさー、本気でアレやんの?」
 口を開いたのは雁夜だった。
「やるよ?」
「えーと、葵さんだっけ。桜の母親。あの人には話通ってるんだろ?」
「遠坂さんのお弟子さんの神父さんも、お手伝いしてくれるって言ってたよ?」
 三人からそう言われ、あうぅ……と唸る。
「だって、さぁ……」
「決定事項」
「多数決でね」
「おうじょうぎわが悪いのはいけないんだよ、おじさん」
「桜ちゃんまで!!だってアレは流石に!!」
「諦めましょう、カリヤ。私は桜雁or雁桜推奨ですよ」
「ランスロットが訳わかんない事ゆってるー!?」
 まさか己がサーヴァントにまで言われるとは思っていなかった雁夜、その内容も相俟って全力で叫ぶ。
「だが私もだ!!我が娘と我が弟マジ天使!!」
「弟まで天使言い出したよこの親父。もうダメだこのアル中」
「でもおじさんは天使だし……」
「私も同意します」
「いやまぁ別に僕も否定はしないけど。ちゃんと式は挙げろよ?世間に認めさせて見せ付けてこそ間桐だ。費用は財政管理してる親父に任せればいいし」
「よっしゃ任せろー!!間桐の資産食い潰してでも豪華な式を挙げてやるぜー!!土地収入で暮らせる間桐はこういう時有難い!!この先どうなるかはわからんが!!」
「サクラとカリヤの老後まではもたせて下さい、兄上殿」
「何だその呼び方。お前に兄と呼ばれる覚えはねえよ!!」
「呼び捨てやだっつったのは親父だろ。とにかく『きせいじじつ』は作るんだぞ、桜」
「うん!!桜はいつでもオッケーだよおじさん!!」
「何だコレ!?」
 やたらとカオスなこの状況に、雁夜は悲鳴にも似た叫びを上げる。勿論それに答えてくれる者など居ない。
 取り敢えず、雁夜はこの場の全員に愛されながらも孤立無援の様だった。