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たとえばこんな間桐の話

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 実際、兄をあの家に残して出てきてしまった時点で、自分はあのおぞましい蟲以下だと自覚した。
 今の鶴野にそんな事を言えば一笑に付すだろうが、それでも自分はそう思っていたのだ。
 あの家から逃げたくて、でもいつだってあの家の忌まわしい記憶が付き纏っていた。逃げ切れない事を心のどこかで知っていて、でもそれを見ない振りで誤魔化していた。
 誤魔化しついでに家から持ち出した魔術の資料やら何やらを、手当たり次第に広めた。
 間桐しか知らなかったから、魔術の外道部分だけを見て、凝縮した憎悪と共に撒き散らした。
 所詮素人。そんなもの大して広まりもしなかったし、理解なんてされる訳も無かったが、そんな事はどうでもよかった。
 自棄になっていたのだ。それで魔術師とやらに目をつけられて殺されてもいいと、自分の命に価値など無いと、見切りをつけていた。
 けれど、自分は生かされた。ケイネスには魔術の何たるかを教えられ、切嗣には結局殺されもせずに逆に助けられ、手榴弾などという、爺に嫌がらせのできる武器を土産に貰った。
 あの間桐の家に戻れたのは、きっとこの二人のお陰だった。見捨ててしまった兄に会えたのだってそうだ。
 そして、子供の為に吹っ切っていた兄の強さに引き摺られて、間桐で生きる事を選んだ。
 桜が養子に来た時は時臣と爺に殺意が漲ったが、桜を助けようとしてくれた鶴野と慎二への感謝が勝った。その桜も実に逞しくて、己の能力を開花し始めていて。
 サーヴァントとして召喚したバーサーカー、ランスロットだって、停戦の折に狂化が解け、とても良くしてくれて。
 生きている実感を得ている今の自分は、いつでも誰かに救われていたその結果だ。
 だから。
「お子さん助けに行く時は皆で行こうぜ!!うちのランスも使って良いから!!」
「君馬鹿だろう!?」
「えー、大丈夫だろ。皆協力してくれるよ。な、ケイネス先生!!」
「………仕方あるまい」
「えぇ!?ちょ、良いのかい!?」
「雁夜は言い出したら聞かん。どうしようもない」
「先生素敵!!」
「黙れ。……しかしサーヴァントも出揃っていない状態ではな……」
「まぁ、何とかなるよ。時臣もどーにか丸め込むし。英雄王と神父さんはこっち引き込んだし」
「………いつの間に」
「俺より壊れてるかもしれないしめんどくっさいけど、面白い奴等だよ!!」
「不安しか感じないな」
「ソラウと国に帰りたい」
「えー!?」
 ──と。
 不満げに声を上げた雁夜がその先を続ける前に、
「我がわざわざ足を運んでやったのだ!!出迎え位せぬか!!」
 来訪者の不遜な声が、禅城家に響いた。



「子雑種共よ!!」
「えーゆーおー!!」
「おうさま!!」
 手を広げて子供達を呼ぶその男の腕の中に、慎二と桜がダイブする。
 え、なぁにぃこれぇ。
 そんな感じの空気が漂うその場に、きゃっきゃうふふとその男と子供達の声が響いた。
「本当に間桐、潰してきたんだね」
「当然よ。我は王。約束は違えぬ」
「おうさま、すごいね!!」
 二人を腕の中に、そして向けられた言葉にご満悦なのは、英雄王ギルガメッシュ。
 時臣の呼び出したサーヴァントである。……が。
「……遠坂さんは?」
「置いてきた」
 扱いはこんなだった。
「まぁ、あの様子ならばそう時を置かず此処へ来るだろう。血走った眼で間桐の蟲共を焼き尽くす様はなかなかに楽しめたぞ。そして桜よ、お前は実に役者であった」
「頑張りました!!」
「あの首輪と鎖、どうだった?親父が発案したんだけど」
「ほう、あの雑種か。やるではないか」
 わいわいと仲良さそうに会話をしているその三人を遠巻きに。
「え、なんですか、なんなんですかアレ」
「英雄王は子供好きですから。サクラとシンジが公園に遊びに行った時に仲良くなったのです。カリヤと兄上殿とも仲良いですよ」
「えええ……」
 他の英霊達がぼそぼそと。
「王様ご機嫌だなー。あーそれにしてもうちの子らマジ天使」
「英雄王もいいお兄ちゃんだしなー。あー和むー」
 その光景にほんわかする間桐の兄弟は置いておくとして。
「………あれが最古の王……だと………」
「………もういい。雁夜の関係者ならもう深くは考えん」
 色んな意味で戦慄する切嗣と、諦めた様に溜息を吐くケイネス。
「それにしても、あんな強力な英霊に頼んでいたのなら、わざわざ遠坂時臣宛にビデオレターなどを作成する必要など無かったのではなくて?」
「いいえ、意味はあったわ。自分がした事の意味を解らせるのは必要だったと思うもの」
「嫌がらせでもあった様ですが……」
「それと、神父さんに見せる必要があったの」
 残るは女性陣だ。最後の発言をした葵に、ソラウ、アイリ、舞弥が注目した。
「あの神父さんも歪んだ方でね。誘導したかったのよ」
 にっこりと笑顔でそう言う葵に、三人が首を傾げる。
 そして。
「雁夜ァァァ!!!貴様ァァァ!!桜のみならず葵と凛にまでぇぇぇ!!!」
 家訓だか信条だかだった筈の優雅をどこぞへと投げ捨てた時臣が、凄まじい勢いで怒鳴り込んでくるのだった。



 緊迫しているのは時臣のみ。だが、その事実に本人だけが気付かない。更には結構な数の、見慣れない面々の姿も目に入っていなかった。
 対峙する雁夜が、気の抜けた声で問う。
「……何でお前泥だらけなの」
「そ、それはどうでもいいんじゃないかな!!」
「此処に来る途中に師がうっかり足を滑らせ、不運にもぬかるみに突っ込んだ為だ」
「何故説明するんだい綺礼!?」
 時臣の背後にはカソック姿の神父、綺礼がいた。
「申し訳ありません、師よ。しかし事実です」
「ぐっ……」
 弟子にそう言われ、言葉を詰まらせる。が、気を取り直し、雁夜に向き直った。
「……これが何か解るかい、雁夜」
「それは……!!」
 冷静に、優雅に。
 時臣は手にした瓶を掲げる。
 その中には蟲が蠢いていた。
「間桐臓硯の魂を収めた本体だ。これを特定出来ず、苦労していた様だね、雁夜」
「……何故わざわざそんな厳重な封印施して持ってきた?」
 燃やせよお前。そんな事を軽く言ってくる雁夜に、時臣のこめかみに血管が浮かんだ。
「ご老人を私に始末させ、間桐の実権を握って桜を我が物とし、更に葵と凛まで得ようとする気だったのだろうがそれは許さないよ雁夜ァァ!!この蟲を解き放たれたくなければ桜を返すんだァァァ!!そして死ねェェェ!!!」
 冷静さと優雅さが再び吹き飛んだ。あのビデオレターは随分と効果があったらしい。精神汚染Aといった所か。
 だが、流石に熱くなりすぎ、騒ぎすぎた。
「お、お父様が鬼畜外道にっ!?」
「り、凛っ!?」
 夢の中だった筈の遠坂凛のご登場である。そりゃあこれだけ騒いでれば起きるだろう。
 そして、起き抜けに聞いたのが尊敬するお父様の口から迸った今の台詞だ。ショックを受けて後退りもする。
「ちっ、違うんだよ凛!!これはっ……」
「ところで時臣ィ……お話があるの……」
「あ、葵っ!?」
 言い訳をする暇も無く、笑顔で妻が話し掛けてくる。だがその聖母の様な、慈しみに溢れたいつもの笑顔が何だか怖い。
 声も若干低く、重い気がするのは何故だろう。そして何より。