とある魔術の絶対重力‐ブラックホール-
そう言った次の瞬間世界の時間の進み具合が元に戻り、遅い時間の流れの中で思いっきり前に出ようとしていた白井は盛大に前につんのめる。白井の方を既に見ていなかった茶髪の少年はそのことに全く気が付かず次の行動に移っていた。少年は時速200kmぐらいの速度で一番手前の犯人の右上方まで移動すると側頭部にとび蹴りを喰らわせていた。ドゴッという鈍い音が響き蹴りを食らった犯人は10m近く蹴り飛ばされ動かなくなる。
「まずは、一人め」
そして、続けざまに左奥の犯人の腹に手を触れる、するとその男の体はフッと浮き上がり近くのビルの壁まで吹き飛びめり込む。その衝撃で壁にクモの巣状の亀裂が走った。
「二人目」
その間わずか0.3秒。だが、右奥の男はまだ残っている。
「何なんだテメエは! 俺たちの邪魔をすんなー!」
その男は|発火能力者《パイロキネシスト》だったらしく右手から炎を上げて茶髪の少年を燃やそうとする。しかし、その男の思惑はすぐに打ち破られる。茶髪の少年と犯人の間に割って入った黒髪のツンツン頭の少年がいて、彼の右手が犯人の炎に触れると、まるで蝋燭の火を消すがごとく簡単に炎は消し飛ばされてしまった。犯人は驚きのうちに黒髪の少年の拳に顎を撃ち抜かれその場で崩れ落ちた。
「サンキューとうま、ナイスなタイミングだった」
「神無月もさすが新第三位だな」
そういって二人はハイタッチした。
◆
その様子を車の中から眺めていた男がいた。車は青のスポーツカーで改造によって時速500kmまで出せるようになっていた。この車の中に乗っていた男も犯人グループの一人だった。金が届いたら仲間を拾って急いで車で逃亡する予定だったのだ。それなのに、たった2人の学生に仲間3人があっという間にのされてしまい、金も手に入らなかったのだ。
「クソ、こんなはずじゃなかったのに。 今回の計画にどれだけ時間をかけたと思っているんだ!」
彼らはこの計画を実行するに当たり、銃器の入手から、車の改造、逃走経路の確認、潜伏先の確保、とかなりの時間を使っていた。大体1年以上の時間をかけて計画していたのだった。それがものの数秒の間で見事なまでに粉砕されたのだ。
「こうなったら全員まとめて・・・」
そうつぶやくと男は車のエンジンをかけた。
◆
神無月と上条は捕まっていた子供たちの手を引いて親のいるところまで連れていった。子供たちは今になって恐怖がよみがえったのか親のところに泣きながら走って行く。
「ママ―――、パパ―――」
「おとーーさーーん、おかあさーーん」
子供とその子の両親が固く抱き合う。なんとも感動的なシーンだ。少しすると子供と親がこちらに歩いてきた。
「息子をありがとうございました。本当になんと御礼を言っていいのか。ほら、雄哉もお兄ちゃんたちにありがとうって」
「おにいちゃんたちたすけてくれてありがとう、ぼくもおおきくなったらおにいちゃんたちみたいにつよいひとになってこんどはぼくがおにいちゃんたちをたすけるからね」
神無月は頬を緩めるとその子の頭に手を乗せてなでながら言う。
「おう、楽しみにしてる。」
子供たちの親とバスのガイドさんから御礼を言われた神無月と上条は一息ついた。そこに美琴と白井がやってくる。そして白井が先に切り出した。
「さっきは助けてくださりありがとうございますですの」
「ん? いや、気にすんなって、こっちも好きでやったことだし」
「ところでお名前をうかがっても?」
先に応えたのは上条だった。
「俺は上条当麻よろしく」
「上条さんですの、わたくしは白井黒子こちらこそよろしくお願いしますわ」
白井と当麻は握手した。
「次はあなたの名前をうかがっても?」
「ああいいぜ、俺は神―――」
と神無月が名前を名乗る前にバカでかいエンジン音が響き渡った。そちら側を見ると青いスポーツカーがこちらめがけて一直線に突っ込んでくるのが見える。運転席にはさっきの身代金要求事件の犯人と似たような服装の男が乗っていた。
「まだ、他にも仲間がいたのか。 はー、懲りないなー。 ったくしょうがない奴らだ」
「待って、私もやる」
最後のおかたづけに向かう神無月に美琴は言う。
「ん、別に俺一人でも大丈夫だぞ?」
「私は、あいつらのことを許せない。 子供を人質にしてお金を要求したこともそうだけど、私の後輩を傷つけようとした。 だから、これは私の喧嘩でもある」
そういうと美琴はこっちに向かって走ってくる車の方を向きゲームセンターでよく見かけるコインを上に弾きあげる。同時に神無月の手に黒い粒子が収束し、長さ4m近い黒い剣を形作る。神無月はその作りだした剣を後ろに振りかぶった。次の瞬間、美琴の指先に落ちてきたコインが閃光を噴き、神無月の振りかぶっていた黒い剣が投擲された。
黒い剣は回転しながら美琴の|超電磁砲《レールガン》より早く車の正面ど真ん中にぶつかる。いや、ぶつかるという表現は正確ではない。まるで、豆腐に包丁を入れるように、いやさらにそれより抵抗なく車体を通り抜け真っ二つにした。速すぎる切断の為かすぐには車体は離れずそのまま走る。そこに音速の3倍以上の速度でゲームセンターのコインが飛んできて既に切られていた車体がコインの引き起す爆風にも近い風で半分になり舞い上がる。車に乗っていた男は、風にもまれ車体の切り口から車外に放り出された。男は地面に激突する寸前に神無月のアイアンクローで顔面をキャッチされ大きな怪我はなかったが精神的なショックが大きすぎたのか白目をむいて気絶していた。切られて舞い上がった、割と値の張る青いスポーツカーは神無月や美琴を飛び越え、誰もいない地面に落下し爆発炎上した。高級車は一発で|再起不能《スクラップ》へと変貌した。なんというBefore・Afterあっという間に何ということでしょう状態に。二人の一撃は|超能力者《レベル5》が|超能力者《レベル5》と呼ばれる|所以《ゆえん》そのものだった。周りで見ていた子供たちとその親達も、また初春と佐天・そして犯人たちも驚きで唖然としていた。そのなかで白井だけが『さすがはお姉さま~』とキュンキュン喜んでいた。
◆
「で、アンタさっきのは何なのよ」
美琴は神無月に詰め寄っていた。神無月の自己紹介の前に犯人グループの最後の一人が車で突っ込んできたため美琴は神無月という名前すら知らない。能力も彼女にしてみれば未知数。銃弾を受けとめたと思ったら今度は訳の分からない黒い剣で車を両断したのだ、気にならない方がおかしい。
「さっきのっていうと黒い剣か? それとも銃弾を掴んだ方か?」
「どっちもよ!」
「ん~、重力ってあるだろ? 重力って強力なものになると光さえ逃がさないほど強力なものもある」
「ブラックホールのことでしょ?」
言って美琴は何か引っかかりを感じたが確信が無かったため考えるのをやめた。
作品名:とある魔術の絶対重力‐ブラックホール- 作家名:プロジェクトE