DRRR BLOOD!!
しかし自分を殺した志貴と恋に落ち、志貴を狙うライバル達に囲まれながら日本に留まって愛を育んでいる。
それがアルクェイド・ブリュンスタッドと言う存在だった。
帝人は今起こったことに呆然としており、アルクェイドの人間投げでできた野次馬はそれを見て騒ぎ立てる。
抱きつかれた志貴はアルクェイドを引き剥がしつつ冷静に恋人を諭す。
「アルクェイド!無闇に人投げたりすんなっていつも言ってるだろ!
お前にやられたら俺でも危ういんだからな。
あと恥ずかしいから人前で抱きつくな!」
志貴は顔を紅潮させながらもっともな意見を言う。
アルクェイドは頬を少し膨らませて拗ねたように言う。
―――正臣や遊馬崎さん辺りだったら秒殺モノだな。
「いいじゃん別に。
志貴っていっつも、そういうとこうるさいよね」
この場合志貴の意見が正論なのだが、志貴はアルクェイドのその様子を見て怒る気力はなくなった。
「・・・次は気をつけろよ」
「はーい」
アルクェイドは笑って志貴の腕を掴む。
「あれ、ところで君は?」
アルクェイドはそこで帝人の存在に気が付いた。
♂♀
乾有彦はリュックサックの中に同人誌を入れてアニメイトを出た。
都会に出たらまずアニメイト等で色んなものを買い、パソコンにスキャナーで取り込んだ後、学校で適当な定価をつけて売りさばく。
そんな悪賢い事を考えるのが乾有彦だった。
今日は金はある程度使う分持ってきた。
既にリュックにはかなりの数のグッズが入っている。
グッズの中には人気だと知っているだけで有彦自身はまったく興味のないものもある。
腕時計を見る。少し遅れ気味だ。アニメイトで時間を使いすぎた。
ヤバイ、遅れる!
有彦はだっと駆け出して角を曲がった瞬間誰かとぶつかった。
有彦は見事に転んだ。
ぶつかった人物を見上げると、やばそうな人相だった。
かなりガタイが良く、顔は整っていてニット帽が印象的だった。
「すすすすすすすいませえん!」
有彦はすぐに立ち上がって直角に体を曲げた。
「あードタチン何高校生虐めてんの」
するとすぐに全身黒い服に包まれた二十代と思われる女性が出てきた。
「いや、違えよ。
なんかぶつかって来たと思ったらものすごい勢いで謝られただけで・・・」
すると今度は目の細い茶髪のオタ丸出しバックパーカーが出てきた。
「ちょっと門田さん何やってるんですか!
いくらぶつかって来たからって俺らの同士を虐める事は許せませんね!」
同士・・・?
有彦は後ろを向くとリュックの締めが悪かったのか中身が出ており、fate/zeroの同人誌が顔を覗かしていた。慌ててしまいながら有彦は感じていた。
同士・・・?
こんなのと?絶対嫌だ!
「おい、そいつ困ってるだろ。
あんまり高すぎるテンションで絡むな」
さっきぶつかった男が細めの青年を諭していた。
案外良い人なのかもしれない。
「そうだ!もっといい所俺らと一緒に行ってみないすかね?」
正直恐ろしいので丁重に断ろうとしたが、そこに奴は現れた。
「あれ?狩沢さん、遊馬崎さん、門田さんどうしたんですか?」
「あ、正臣君!
いやね。ちょっと久しぶりに同士を見つけたからささやかな交流をと思って」
正臣と呼ばれた少年は有彦を覗き込んで呟いた。
「あれ、乾って奴と似てる」
「何で俺の名前!」
思わず叫んだ。
「いや、志貴って奴が見せてくれた写真に似ててさ。
あ、俺は紀田正臣、よろしく」
キダマサオミ・・・。
志貴が電話で有彦と気が合いそうだと言っていた。
マジか!?
「えっと、俺は乾有彦。よろしく」
いつもはもっとテンション高めの有彦だが、遊馬崎のせいで気が抜けてしまった。
紀田正臣は遊馬崎達に事情を説明しているようだ。
「じゃあ、俺たちも一緒に行っていいすか?
案内役も兼ねて」
「えっ!いいんですか!」
「いいよー私達どうせヒマだし。
ドタチンも来るよね?」
「ああ。お前らが暴走しそうだからな」
「よし、決定!行くぞ有彦!」
いきなり名前呼び!?
有彦はなすすべなく正臣に腕を引っ張られていった。
流石の有彦にもテンションの高さで敵わない人物はいたようだ。
♂♀
「へ~、帝人君て言うんだ?」
帝人は目の前にいる女性が志貴の恋人だと信じることが難しかった。
どう見たって高校生に手の出るものではない。
「は、はい・・・」
アルクェイドは志貴のほうを向くと問いかけた。
「ところでシエルとか妹は?」
「まだ。有彦とかは道草してそーだな~。
秋葉はそろそろだと思うんだけど」
「みーかーどー!」
そこに馬鹿みたいにデカイ声が響く。
もちろんそんな声を出すのは馬鹿しかいない。
「遊馬崎さん!狩沢さん!?門田さんも!?」
ここまで見事に正臣をスルーできるのも凄い。
「いや~、ちょっとfate/zeroの話で盛り上がってさ~」
有彦が志貴に向かって言う。
志貴は呆然としている。
「やっぱり、ウェイバーは最萌キャラだね~。
私的には龍之介も結構いいんだけどさー」
わけのわからない呪文を唱える。
有彦は早くも遊馬崎達に溶け込んでいた。
門田は有彦に哀れ目の視線を向けている。
「ていうか、そちらは?」
正臣はやっぱりアルクェイドに興味津々。
「遠野君の・・・彼女」
帝人がぼそりと教える。
瞬間、正臣はその場に尋常じゃないスピードでうずくまる。
「負けた、この俺が・・・完全に敗北した・・・。
俺なんか今日だけでも二十人に声かけたのに・・・」
どうやらナンパで負けたと思ったらしいが、志貴は当然アルクェイドとの出会いを話すわけにはいかないため、親友の事実を漏らしてフォローすることにした。
「まあまあ、有彦なんか成功率二割以下だし」
「そんなに低くねえよ!」
小声で話したが、聞かれていたようだ。
そんな賑やかな場に冷静な声が響く。
「兄さん、少しは静かにしていてください」
「あ、妹だ。
それと、誰?」
「後輩の瀬尾晶と友人の月姫蒼香さん」
「はじめまして~、志貴の友人の紀田正臣でーす」
早速現れた女性三人に声をかける正臣。復活が早い。
よく見たら杏里もいた。
「園原さん着てたんだ」
「あ、うん」
杏里は先ほど秋葉に言われた事が気になっていた。
カツアゲ三人をぶっ飛ばした後、確かに秋葉は言った。
『貴女、普通じゃないわね?』
だが、杏里も秋葉が普通じゃないのはわかった。
そして、今この場にいる志貴、アルクェイド、秋葉、ついでに瀬尾晶も普通じゃない事はわかった。
時は過ぎ、大勢で歩いているうちに新たな人間関係ができてきた。
まず第一に秋葉と蒼香に見事なまでに撃沈された正臣は比較的狙いやすい一番年下の瀬尾晶を狙っていた。
時々秋葉や蒼香が救出に入るが、正臣のペースに乗せられつつある。
たとえ正臣程度でも案外侮れない。
一方でアルクェイドは志貴にベッタリしつつも杏里と積極的にコミュニケーションを取ろうとしている。
杏里の中の異形に気付いたのだろう。
不意に、志貴達の横を誰か。いや、何かが通り過ぎた。
志貴の眼に少しだけ映ったその正体は―――黒かった。
全てが黒かった。
漆黒のバイクに乗った漆黒の人影。
三咲でシエルに言われた一言が蘇る。
作品名:DRRR BLOOD!! 作家名:蔦野海夜