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雪割草

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〈53〉誓



早苗はお銀とお座敷にいた。
目の前には茜の仇、田村隼人本人が座っていた。

「おお、美雪。来てくれたか。しかし、なんだ?そっちの芸妓は?」

やっぱり、何かするつもりだったんだ。
一人で来なかったことに疑いをかけている。

「へぇ。美雪の付添どす。今日この子ちょっと風邪ひいてしもて本調子やないんで。」

「そうかそうか。無理やり呼び出してすまんかった。」

なぜかうれしそう。
何か企んでいる。

「ささ、舞を見せてくれ。」

「へぇ。」

自分が一番うまくできる舞を選んで舞った。
これだけ緊張を強いられながら舞ったのは生まれて初めてだった。

「やはり、美雪の舞は格別じゃ。」

舞を終えた早苗を田村は傍に呼んだ。

「おおきに。旦那さん、どうぞおひとつ。」

茜に言われたとおり、酒をたくさん飲ませることにした。
酔いつぶすためにこっそり強い酒にすり替えておいた。

「お前の酒はうまい。お前も一緒に飲め。」

「へぇ。」

酒が強くてよかった。飲んでもあまり酔わない。
いっぽう、だんだん田村は出来上がってきた。

…もしかしたら、取り越し苦労かも。
何もしないかも。

少し安心した時だった。
突然、田村が、
「美雪、外で飲みなおそう。一緒に行かんか?」
と誘ってきた。

「え?」

不安になってお銀の様子をうかがった。
お銀は目で「行きなさい」と言ってきた。
行くしかない。

「わかりました。いきましょ。」

立ち上がりざま、寄りかかってきた。

「肩をかしてくれんか?ちょっと飲みすぎた。」

「へぇ。」

イヤイヤだったが、肩を貸した。

「そこの芸妓。お前はもういい。わしは美雪と行くからの。」

「へぇ。ではお大事に。美雪ちゃん。しっかりな。」


ふらついている田村を支えながら、早苗は言われるまましたがって歩いて行った。
行きついた先は、店ではなく屋敷だった。

「すまんな。家まで送らせて。わしの部屋で飲もう。」

連れ出したのには理由があるんだ。
男に変わって一殴りすれば危なくないって言われたけど…。
なんとなく怖い。

家の中まで付き添い、屋敷の中の明かりがついた部屋に入った。
酒の用意も何もない。
やっぱり。

天井を見ると、お銀が見張ってくれていた。

「ささ、その襖を開けてくれ。そっちの部屋でな。」

「こうどすか……!?」



遊郭で見た光景が目の前にあった。
布団が一つ、枕が二つ…。
まさか!

「さぁ。入れ!」

酔っていたと思った代官はシラフだった。
はっとして振り向いた瞬間、押し倒され布団に押し付けられていた。

「酔ったと思ったら大間違いだ!」

「旦那さん。冗談はやめて…。」

「何が冗談だ?言え!お前は矢上の娘だろう!?」

「……。」

「なぜ黙っておる?お前の兄は島原で用心棒しておるのだろう?二人してわしを狙いおって。小賢しい。」

「……。」

「だんまりを決め込むつもりか…。」

「……」

「お前を人質にして兄をおびき寄せよう。そして二人とも消してしまおう。」

思った通り。誠太郎さんが怖いし、目ざわりなんだ。
でも、そんなことさせない!

「無駄よ!兄は来ないから!」

「黙れ!来るに決まってる。」

「…来ないわ!」

「うるさいの。…人質は明日でもできるな。ひとまずはわしを怒らせた償いでもしてもらおうか。」

こんな状態ですることは一つ…。
お銀さんと由紀に教えてもらった知識がこんなとこで役に立つなんて…。
この男倒さないと!

「イヤです!」

「黙れ!」

頬を思いっきり張られた。

「おとなしくしてればいいものを。さぁ。かわいがってやろう。」

…こんなスケベオヤジ。

「イヤ!やめて!離して!」

「静かにしろ!」

必死にもがいたが、気慣れない着物と、男の力で押さえつけられ、身動きが取れなくなった。
首まで絞められた。
変わろうにも変われない…。

苦しい…。
お銀さん。助けて…。

天井を見たが、羽目板が外されているだけで、そこから様子をうかがっていた彼女の姿はなかった。

なんで?どうしていなくなっちゃったの?
絶望に似た感じの感覚に襲われた。

「やっとおとなしくなった。心配するな。」

イヤな手つきで触ってきた。

ダメか…。
何度か聞いたことある。男に暴行された人の話。
ただ暴力振るわれるだけと思ってた時のほうが良かった。
なにされるか知ってしまった今は苦痛でたまらない。
これが『手籠め』ってやつだよね。
わたし、傷ものにされて終わりか…。

そんな女結婚できない…。できたとしても嫌われる…。

あの人がまだ心変りしてなくて、わたしと結婚してくれたらいいなって思ってたけど、
もう、ダメか…。

助三郎さま…。貴方が好きでした…。




ギュッと目を瞑った瞬間、怒鳴り声が聞こえた。


「スケベ奉行が!恥を知れ!」

途端、押さえつけていた田村が昏倒し、早苗に倒れ掛かってきた。

気絶してる…。

誰?
助けてくれたの?


「茜さん、無事ですか!?」

声をかけてくれた人物を見た早苗は口から心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。
見張っていたはずのお銀でも、いつもどこからともなく現れる弥七でもなく
最後に諦めた時に心に浮かんだ相手、助三郎だった。

「え?なんで?」

「すみません。お銀だけでは不安で…。」

ふと、天井を見るとお銀が戻ってきていた。両手を合わせ詫びていた。

「茜さん、行く前に、着物、整えてください。」

自分に背を向けて声をかけてきた。

そう言われ、自分の姿を見てみるとひどかった。

襟が乱れ、帯がほどけ、髪は乱れていた。


早苗が隠れて着物を整えている間に、助三郎は田村を縛りあげ、近くに建っていた蔵に閉じ込めておいた。

「支度できましたか?」

「へぇ…。」

「さぁ、行きましょう。ここは危ないので。」

二人でその場を後にした。


前に立って歩く助三郎の姿を見ながらふと思った。

なんでいきなりこの人来たんだろう?
誠太郎さんのとこじゃなかったっけ?
聞いてみようかな。

「どないしたんどす?いきなり現れて…。」

「どうしても貴女が心配で…。」

「…うちが、似てるからどすか?」
怖かったが、聞いてみた。

「…それは、あります。」

やっぱり…。
一緒に歩けた少し幸せな気持ちがしぼんだ。
やっぱり、この人は茜さんに心を奪われている。

優しい、おしとやかな、女らしい茜さんのほうが良いよね…。
わたしみたいな荒っぽい女らしくない性格よりも。

「ご隠居が心配ないと言ってたんですが、どうも納得いかなかったので。」


…いいや。水戸へ帰った後、捨てられても構わない。
思い出に、あと一回でいいから、抱き締めてもらいたい。
そうだ。この際、茜さんとして助三郎さまに抱きしめてもらおう…。
悲しいけど…寂しいけど…。

「…助さん抱いてください。」

「え?」

「助けてもろたお礼どす。」

思い切って、助三郎に抱きついた。
女として触れることができた。

「助さん。わたし、早苗よ。」

辛かったが、早苗のふりをする茜のふりをした。

「…茜さん。」

肩に助三郎の手が添えられた。
作品名:雪割草 作家名:喜世