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雪割草

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やっぱり抱きしめるんだ…。
うれしいような悲しいような変な気分…。


しかし、助三郎はその手で早苗を抱きしめることはなく、逆に優しく離した。

どうして?
なんで?

「…ごめんなさい。お気持ちはありがたく受けとっておきます。」

「へ?」

「いくらあなたが瓜二つでも、それはできません。」

「なんで?」

「国で待っている許嫁を裏切ることはできません。」

「そんな、見てないから平気やおへんか?」

いつも平気で声をかけ、眺めて喜んでる。
遊郭も好きなんだし…。

「…誓いを立てているので。」

「誓い?」

「はい、彼女以外に移り気は決してしないと。」

驚いた。そんな話聞いたことない。
それに、やけに真面目に話してる。
仕事以外でこんなに真面目に話してるの見たことないかも。

疑問に思っていたのが表情に出たのだろうか、助三郎がなぜか説明し始めた。

「それは…男ですから女の人に目は自然と行きますし、芸者遊びも少しはしますが、
快楽を求めることはしないと決めています。ですから、遊女は買いません。たとえ芸妓さんでも同じです。」


…じゃあ、島原ではいちゃついてないの?
遊郭が好きなのもたてまえ?
あの、眠り薬は自分で使うため?
でも、何のため?

そんなことを考えたらなぜか笑えてきた。

「フフッ…。」

「あっ。ごめんなさい。芸妓さんはそういう仕事じゃありませんね…。」

真面目に恥ずかしがる様子が面白かった。

「かましません。でも、幸せどすやろな、早苗さん。そないに想われてて。」

うれしい。本当にうれしい。
初めてこの人の心の中がわかった気がした。

「そうでしょうか?」

「助さん、そのお気持ちをどうぞ大切にしておくれやす。」

お願いします。わたしも貴方以外に絶対に気を移さないので。

「はい…。」



それから、二人でしばらく黙って歩いた。
気付くと置き屋の前に来ていた。

「…では、おおきに。」

「お気をつけて。また明日。」

そう言うと助三郎は戻って行った。


「ありがとうございます、助三郎さま…。」

聞こえないように遠ざかって行く彼の背に向かってつぶやいた。


疑って、恨んで、焼きもち焼いていたのが恥ずかしい。
はっきり言いたい。大好きって…。
待ってたら行けない。自分から言ってみよう。
そうしたらあの人も答えてくれるかもしれない。


その頃、お銀は光圀に報告しに戻っていた。

「申し訳ありません。忍びに襲われ、早苗さんを危険な目に合わせました。」

田村は配下に忍びの者を雇っていた。
この者が田村に情報を持って行っていた。
早苗が危なくなったのも、お銀が屋根裏でうかがっているときに、攻撃されたので迎え撃っていたからだった。
もちろん、今後邪魔にならないようにその忍びの息の根は止めておいた。

「無事であろうな!?もしもの時は橋野に申し訳が立たなくなる。助三郎にも…。」

「御心配は無用です。助さんが助けました。」

「良かった。無傷だったか。…それで、田村は?」

「助さんが殴って気絶させました。縛り上げて閉じ込めていたので、回収してきました。」

「御苦労。下がってよいぞ。」




助三郎は、早苗と別れた後、すぐ戻ると言ったはずの新助との約束を忘れ、
一人宿でボーっとしていた。


早苗に会いたい。
なんでこんなに苦しい?
顔が見たい、笑顔が見たい、声が聞きたい。
抱きしめて、好きだってはっきり言いたい。

さっきの茜さんがいけなかったかな?
今日は今までで一番、早苗にそっくりだった。
あと少しで抱きしめてしまいそうになった。

…ダメだ。俺には早苗だけだ。
あいつを裏切ることはできない。

手に持っていた文を眺めた。

『他のおなごに心を移されることなきよう…』

一度だけもらった文にこう書いてあった。
早苗の書いた文字。

忠告されたが、寂しさを紛らわすために自然と目は行った。
しかし、見ても心を動かされてことはなかった。
まったく紛らわせなかった。
ここ最近苦しいのが増している。

これに返事を書いて出したが戻ってこなかったな。
格さんが言うように、字が汚くて届かなかったのかな?
それとも、他に良い男ができたか?
はっきり言っておけばよかった、好きだって。
なんで言えなかったんだろう?
本当に情けない。

くよくよ考えているところに、男に変わった早苗が戻ってきた。

「ただいま…。なにしてる?」

助三郎は手に持っていた文を隠した。

「おう、格さん、仕事ほったらかしたのか?お前らしくないな。」

「どういう意味だ?」

「茜さんについてるはずだろ?」

「…お前こそ、誠太郎さんのとこだろ?何やってんだ?」

「あ…。ヤバい。新助ほったらかしだ。じゃあな!明日の朝!」

「あぁ…。」

助三郎を見送った後、光圀がやってきた。

「ご隠居、お休みではなかったんですか?」

「早苗、すまなかった。無事でよかった。今後二度とあんなことはさせない。」

「お気になさらず。大丈夫でしたので。それで、これからどうするんです?」

「朝早くに兄と妹を会わせる。仇討免状は明石藩に使いにやった弥七が持ってきた。明日の昼ごろ仇討じゃ。」

「わかりました。」


作品名:雪割草 作家名:喜世