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雪割草

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〈54〉父の仇



朝早く早苗は光圀と茜を伴い、誠太郎をかくまっている場所にやってきた。

「…助さん、新助、居るか?」

「…格さんか?」

「…ご隠居と茜さん連れてきた。入っても大丈夫か?」

「…あぁ。入れ。」




「貴方が誠太郎さんかな?」

「はい。ご隠居は?」

「今は光衛門とだけ名乗っておきましょう。」

「え?」

「決して怪しいものではありませんのでな。ここに貴方に渡したい物があります。」

「これは?」

「仇討免状。これで恨みを晴らしなさい。」

「…これを、どうやって?」

「勝手に調べさせてもらいました。あなたの父上の無罪が証明できたので、仇討並びに帰参が叶いますよ。」

「貴方はいったい…。」

「ハッハッハッハ。それよりも、妹さんに会いたいでしょう?茜さん、こっちに来なさい。」

誠太郎の近くに茜を呼び寄せた。

「…茜か?」
驚いたように誠太郎がつぶやいた。

「へぇ。」

「…大きくなったな。」

「兄上?」
記憶を掘り起こそうと努力をした。
しかし随分昔のこと、なかなか記憶は出てこなかった。

「覚えてないか…。兄の誠太郎だ。」

「兄上!」
茜は何か懐かしい雰囲気を感じ、たまらず、兄に飛びついた。
兄は妹を受け止め、再会を喜んだ。

「やっと会えた。…仇討しような。終わったら国で一緒に暮らそうな。」

「へぇ…。」

兄妹の再会を目を細めて見ていた光圀のもとへ、お銀がやってきた。

「ご隠居さま、お知らせしなければいけないことが…。」

「ちょうどいいところにきた。縛った田村はどこに置いてある?」

「それが…。逃げました。」

「なに、逃げた?何をしておった?お前さんらしくないの。」

「忍びを仕留めたはずが、ほかにもいたようで…。申し訳ありません。しかし、居場所はわかっています。」

「よい。今から取っちめに行こう。助さん、格さん、二人の手助けをな。」

「はっ。」



新助と由紀を残し、皆で田村の屋敷に向かった。

復讐を恐れた田村は、屋敷に籠っていた。
皆で無理やり突入し探した。
中には、お銀の報告通り、忍びの仲間が数人残っていた。
お銀と弥七が二人がかりですべて片づけている間に、隠れていた田村を引っ張り出した。

おびえてみっともない姿で引きずりだされた。
恥も外聞も捨て、命乞いまでした。
「助けてくれ!なんでもするから!」

「いや。許さん。父をたばかり、わが矢上家を愚弄した!」

「うちを手籠めにしようとしたやろ!?」

茜は早苗から一部始終を聞き、怒り心頭だった。
早苗の恨みもついでに晴らすつもりだった。

「頼む。死にたくない!」



怯える田村を傍で見て、早苗は考えた。

「…助さん、仇討ってしないとダメなのか?」

「…惨いかも知れんが、武士には必要なことだ。」

「……。」

「大丈夫か?」

「あぁ…。」


誠太郎も、躊躇していた。
慈悲を乞い、怖がる相手を見て、殺さずともいいのでは?と思い始めた。

彼の迷いに気付いた茜は兄に聞いた。
「兄上、討ちとらへんのどすか?」

「…ちょっと待て。」

「…へぇ、わかりました。」



二人の一瞬の隙を見て、田村は丸腰の茜に襲いかかってきた。

「この、腰ぬけが!殺されてたまるか!」

「きゃ!」

「危ない!」

すかさず助三郎が腰の小太刀を抜き、田村の胴に打ち込んだ。
とたん、倒れこんで苦しそうに悶え出した。

「斬ったのか!?」

「斬ってない!峰打ちだ!誠太郎さん、躊躇しないで!こんな悪党早く討つんです!」

助三郎の言葉に意を決した誠太郎は刀を振り上げた。

「茜!目を閉じ、耳をふさげ!私がいいと言うまでやめるんじゃないぞ!」

「へぇ。」


やっぱり討つんだ…。
怖い…。

早苗はこれから見なければいけない光景を想像し、気が遠くなりそうになった。

「格さん!誠太郎さんの言う通りにしろ!」

耳に助三郎の怒鳴り声が聞こえた。

「え?」

「いいから言うこと聞け!」
助三郎の恐ろしい表情に、早苗は無言で従った。



それからがとても長く感じられた。
かすかに何かが聞こえたが、何の音なのかは判別できなかった。

早苗はまだ怖くて、固まっていた。
早く終わらないかな。もう終わったって言ってくれないかな?

不意に、ポンと肩に手を当てられた。

「格さん、もう終わった。目、開けろ。」

目をあけると、助三郎がいた。
さっきの怖い表情は消え、穏やかな笑顔に変わっていた。
しかし、どことなく寂しそうだった。

「…終わったのか?」

「あぁ。帰るぞ。」


道すがら、ぼーっと歩いていた早苗に助三郎は声をかけた。

「…大丈夫だったか?」

「あぁ。何ともない。」

「お前、苦手だもんな、ああいうの。」

「……。」

普通の男は見ても平気なんだろうけど…。
人を斬るのが、斬って血が流れるのを見るのが怖い。

「気にするな。お前は優しいから。…そんなやつにあんなの見せたくない。」

「ありがとう…。」

「これは覚えとけ。怖くて当たり前だ、平気になんかなったらダメだ。」

「わかった。」




宿に着き、落ち着いたところで茜と誠太郎から改めて礼を言われた。

「ご隠居さま、おおきに。無事父の恨みはらしました。」

「何とお礼を言っていいやら。どうぞ、ご身分をお証ください。」


「では…。格さん、あれを。」

「はい。この印籠が証拠です。」

「…水戸の、御老公様!?」

「大変お世話になりました。この御恩は生涯忘れません。」

「よいよい。二人で仲良くの。」

「御老公さま、今後はいかがされるおつもりですか?」

「中山道を通って江戸に向かおうと思っておる。」

「どうぞ、道中お気をつけて。」

「お前さんもな。」




京に長居しすぎたので、早めに発つことになった。
見送りにきた茜に早苗は呼び出された。
茜に一人、連れ出された。

「芸妓の経験からいいこと教えてあげる。」

「なに?」

「助さん、女の人しょっちゅう見てる、浮気やって言ってたやろ?」

「…うん。」

「あんなもん気にせんでええよ。全然真剣じゃないから。」

「へ?」

「あの人、格さんの時の早苗さん見る目のほうがよっぽど真剣や。話す言葉も、おんなじ。
だからな、あの人が一番好きなのは早苗さんや。頑張ってな!」

「ありがとう…。」

「結婚したら教えてな。うちも落ち着いたら連絡するし。」

「うん。」

「指きりや。」

「約束ね。」




茜と誠太郎と別れ、歩きだしてしばらく経った頃、新助が愚痴を言い始めた。

「助さん酷いんですよ。すぐ帰るって言っておきながら、全然帰ってこないんだから!」

「ごめんって言ったろ?」

「遅くなった理由がひどい!茜さん助けたのは良いですけど、イチャイチャしたそうですから。」

え?
ぞんなこと全くしてない。
ただ送ってもらっただけ。

「いいの助さん、早苗にバレたら怒られますよ。」

「いいんだ。見てないから。何やっても分からない!唯一恐ろしいのは格さんの観察日誌だ。」

「義父上さまにも怒られればいいんですよ!」

「義父上は怖いなぁ…。」

作品名:雪割草 作家名:喜世