雪割草
なんでこの人、意味のない嘘をつくの?
どうも、人前で強がっている。
軽い男を演じている気がする。
本当は、真面目なのに…。
「…そういうことだ。頼むぞ。」
「そうか。じゃあ、書いてやろう。昨日、助さん、早苗殿と瓜二つの芸子と良い仲にってな。」
「なぁ。そこをなんとか…。」
どうしてそこまでして嘘をつくの?
「…嘘をつくな。俺は本当のことしか書かない。」
「え?」
「なぁ、新助。美味いもの食べたか?」
「はい、八橋に、湯豆腐に、湯葉に…」
「どれが一番だった?」
「湯葉ですね。高級でお手ごろじゃないですけど…。」
「高いやつの方が美味いのか?」
「どうですかね…。」
助三郎は早苗に言われた言葉が引っかかっていた。
本当のこと?
なんで嘘だってわかった?
一人物思いにふけっていた彼に気づき、由紀が声をかけた。
「どうしたんです?助さん。」
「…格さんに見破られた。なんでだ?」
「何が?」
「……。」
ダメだ、考えても何も浮かばない。
「早く行きましょ!遅れますよ!」
そうだ、考えてもはじまらない。
あいらの前で嘘つく必要なかったな。
もう、格さんも新助も友達なんだから。



