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雪割草

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「貴方は、お代官様に仕えていらっしゃるんで?」

「そうだ。無理やり異動させられてな。元はご家老様の配下だった。」

「理由は?」

「…大きな声では言えんが、偵察だ。」

「…偵察、とは?」

「…代官は何か企んでおる。それを突きとめよとの密命だ。そうだ。いきなりなんだが私と手を組む気はないか?」

利用などしなくても男のほうから持ちかけてくれた。
好都合だ。

「わかった。俺は代官に義理も何もない。正義のためなら手を貸そう。」

「かたじけない。…本当に浪人か?」

「…今はそう思っていただきたい。」

「…公儀隠密ではあるまいな?」

「…それは絶対あり得ない。」

「改めて、平左衛門と申す。よろしく。」

「それがしは助三郎。こちらこそよろしく。」

数日かけて、平左衛門が今までに集めた情報をまとめた。
わかった事はほとんど自分たちで調べたことが基盤だが、より詳しかった。

・料亭と遊廓を併設、場所は琵琶湖の一角を埋め立てる
・近くの漁師は立ち退かせる予定
・常に魚が獲れるよう、漁場を確保済み
・現在は代官が自分の舌を満足させる為に魚を獲っている
・近江屋はグル
・失業した漁師は放置。藩には不漁と偽っている


これらをすべて弥七に伝え、光圀に繋ぎをつけてもらった。
返ってきた返事では、じきに光圀が乗り込んでくる。
調べがつきしだい藩の家老が処分に来るらしい。それを見届けたいそうだ。

早く来てください。
できるだけ早く。

助三郎が代官の屋敷に来て二三日たったころから、剣ができるからと、元からいた平左衛門よりも傍に置くようになっていた。

こんな悪人に気に入られても虫酸が走る。
俺の主は御老公様だ。
早くこらしめて、御隠居の所へ、みんなのところに帰りたい。


作品名:雪割草 作家名:喜世