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雪割草

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〈60〉しぶとい代官



弥七から繋ぎが来てから五日ほど過ぎた。

今日も密偵兼用心棒かな?
ご隠居、はやく来てくれないかな?

ぼーっとしながら、顔を洗っていた。
用心棒になって十日以上経った。
用心棒の風体のままで、身なりをあまり気にしてないせいか、髪は乱れ、顔には無精髭が目立った。

本物の浪人みたいだな…。
こんなんじゃ、かっこいいなんて誰も言ってくれないぞ。

はぁ。早く帰りたい。このままずっとなんて絶対いやだ。
堅苦しいが、裃のほうがまだ良い。
早苗に喜んでもらえるし…。
今のこんなみっともない格好じゃあいつに逃げられるな…。
笑ってなんかくれない。怖がられるかもな。
『ダサイ』って言われるかもな。

そういえばあいつに『格好いい』とか『素敵』とかほめられた事ない。
俺もあいつに『可愛い』とか『綺麗』って言ってやれなかった。
そのせいかな?


いかん。
気が弱くなってきてる…。
引き締めないと。



昼ごろ、弥七がやってきた。
「…すぐにやってきますぜ。支度と、心構えをお願いしやす。」

「…わかった。」

「最初は、代官の味方でお願いしやすぜ。」

「あぁ。」

やっと来てくれる。
さっさと片付けて、晩には前みたいに男だけで飲み会したい。
とっとと終わらせるぞ!

平左衛門に知らせに行った。
お互い同じ境遇にあったせいか、意気投合し仲良くなっていた。

「…平左、今日でお前も俺も仕事が終わりだ。」

「え?」

「御家老様が来てくださる。代官を取っちめて、一件落着だ。」

「どこでその知らせを?」

「俺のちょっとした筋だ。」

「そうか。…やっぱりお前、公儀隠密じゃないのか?」

「ちがうって言ってるだろ?そんなんだったらお前に手なんかかさない。一人で勝手にやってるだろ?」

「そういえば、そうだな。助さん、終わったら本当の身分明かしてくれるか?」

「あぁ。わかった。」



しばらくすると、光圀が乗り込んできた。
御家老が捕まえに来る前に、自分で懲らしめるつもりだった。

助三郎は弥七に言われたとおり、平左衛門と二人で代官をかばうふりをした。

「お前さんの悪事はもはや明確、諦めて牢に入りなさい。」

「なにがだ、じじい!」

「証拠が山とある。もう逃げられんぞ。」

「黙れ!うるさい奴は叩き斬ってくれるわ!助三郎、あのジジイを殺れ。」

「……。」

「おい、聞いておるか?」

「…あぁ聞いてる。」

刃先を本来の主ではなく、代官に向けた。

「…何の冗談だ?ならば、平左衛門!」

「…お代官、そろそろ潮時ですね。」

平左衛門にも槍の穂先を向けられた。

信頼を置いていた二人の男に寝返られ、代官は動揺した。

「この私を謀ったな!?」

「貴方がなさっている悪事を裏付けるための囮ですので。お怨みくださいますな。」

「そうだ。代官。いい加減あきらめるんだな!」

代官の怒りが爆発した。
「こしゃくな!者ども!皆まとめて切り捨てい!」

ばらばらと、侍たちが出てくる前に助三郎は久しぶりに見る仲間の所へ戻った。

何か言おうとしていた早苗の先を越し、声をかけた。

「格さん、無事だったか?」

「それは俺のセリフだ!」

「元気そうだ。心配いらんな。」

大丈夫だ、こいつはなんだかんだ言って強い。

「なんだお前、完全に浪人風体になったんだな。」

やっぱり汚い身なりが目に障るか…。
気休めだが、聞いてみようかな。

「どうだ?野性的で格好いいか?」

「あぁ!すごく格好いいよ!」

想定外の返事が笑顔で帰ってきて面喰った。
恥ずかしくてたまらなくなったので、大声を出し気合いを入れた。

「行くぞ!」

「あぁ!」


平左衛門も仲間に入れ、侍たちを懲らしめた。
食堂楽で太り気味の代官は動けないはず、とたかをくくっていたが、思った以上にしぶとく、骨が折れた。

追いかけても逃げる。
追い詰めると反撃する。
早苗と助三郎が攻撃して弱らせてもまだ刃向かってきた。
平左衛門が槍の石突きで代官の腹を突き、ひるんだ所を見計らい、光圀から止めが入った。

「格さん、あれを。」

「はい。静まれ!この紋所が目に入らぬか!
こちらにおわすお方をどなたと心得る。畏れ多くも先の副将軍、水戸光圀公にあらせられるぞ!」

「一同、御老公の御前である。頭が高い!控えおろう!」

商人の隠居風体の光圀をはさんで、印籠を持った手代風情の男と、みすぼらしい浪人が立っている光景は何となく違和感をその場にいた者に感じさせた。

しかし、葵の御紋の威力はすさまじく、その場にちょうど駆け付けた家老までもが突っ伏した。

「魚を独り占めするなどもってのほか。しかも、それを獲る漁師の職を奪い、放置するなど上に立つ者のすることではない!また、琵琶湖を埋め立てるなど、湖が汚れ、魚がとれ無くなるではないか!」

「それは…。汚さないように…。」

「黙れ!良いわけは無用じゃ!助三郎。」

光圀は助三郎に命じた。

「この者を引っ立てい!」
平左衛門が代官を引っ立てて行くことになった。

助三郎は、彼に自分から元の身分を名乗る必要はなかった。

「助三郎、お前、水戸藩士だったか。」

「あぁ。平左衛門またいつか会おうな!」

「おう。良い友ができた!さらば!」

そういうと、今だ反省していない代官を引っ張って行った。


「御老公様、悪事をお知らせくださり、ありがとうございました。私どもの力だけではこうも早く解決できませなんだ。」

「よいよい。これから気をるのじゃ。藩士が良からぬことを企んでおるのを素早く察知できるようにしなさい。」

「はは!お言葉の通りにいたします!」


光圀は隣にひざまずいていた助三郎に声をかけた。

「助さん、ご苦労じゃったな。」

「はっ。ありがとうございます。」

「疲れたであろ?ゆっくり休め。今晩は美味いものでも食べるかの?」

「はい。皆で一杯やりながら。」



その時だった。
「御老公様、御家老様!お逃げください!!」

「ん?」

何かと思えば、平左衛門が血相を変えて男を追っていた。
それは引っ立てたはずの代官だった。
抜刀し、こっちに向かってきていた。

それを見ていた早苗は、隣にいた光圀を庇いに入った。
家老は配下の者がかばった。

しかし、怒りの矛先は光圀ではなかった。

助三郎だった。
最悪なことに、代官の方向に背を向けてひざまずいていた彼は、体制を直し、太刀打ちする時間がなかった。

斬られる!
早苗は危機を感じた。

「助三郎!危ない!」

「え?」

なりふり構わず、助三郎を思い切り突き飛ばした。
次の瞬間、代官がつきだしてきた刀は早苗の脇をかすった。

代官はしくじったとわかるや否や、二の太刀を出そうと身構えていた。
しかし、その前に飛び出してきたお銀が蹴飛ばし、動きを止めた。

「早く、捕まえてください!」
怒鳴ると、走ってきた平左衛門と侍たちがさっきよりも代官を厳重に取り押さえ、連行していった。
みっともない格好で、暴言を吐きながら去って行った。



早苗は転がっている助三郎に声をかけた。

「無事か!?助三郎!」

「あぁ。なんともない。ありがとな。」
作品名:雪割草 作家名:喜世