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雪割草

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〈81〉治療



早苗につきっきりだった助三郎は、お銀に呼び出された。

「弥七さんから伝言。クロを返すから、宿の外に来てって。」

「クロって弥七のとこにいたのか?」

「そう。早く迎えに行ってあげて。早苗さんは見てるから心配しないで。」

「わかった。頼むな。」

早苗を彼女にまかせ、部屋を後にした。
宿を出ると、弥七が静かに一人立っていた。


「すまんな。犬の面倒見させて。」

「構いませんぜ、犬は好きなんでね。それにあの仔犬、訓練のし甲斐がありやした。
役に立ちやすぜ。」

「へぇ。ありがとう。」

どんな訓練したのか気にはなったが、まずは仔犬の姿が見たかった。
その様子を察してか、弥七が仔犬を呼んでくれた。

「クロ、助さんが来たぜ。」


「ワンワン!」

鳴き声とともに、黒い塊がすっ飛んできて、助三郎の脛に激突した。

「キャン…。」

「痛っ。ってお前も痛かったか。」

「クゥン…。」

当たった鼻が痛かったらしく前足で一生懸命なでていた。
その様子を男二人は笑って眺めた。


おもむろに弥七は早苗について伺った。

「…早苗さんはどうですかい?」

「…変わり無しだ。食欲が全然ない。眠りも浅い。」

「…そうですか。そうだ、動物は心の病に効くって話聞いたことありますぜ。
試して御覧なさい。」

「そうか、やってみるな。」

「では、あっしはこれにて。」

音もなく弥七は消えた。



助三郎は久しぶりに会う仔犬と思いっきりじゃれて遊んだあと、さっきの弥七の言葉を思い返した。

「よし、クロ、早苗のお見舞い行くぞ。」

「ワン!」


宿に犬の宿泊手続きをして、早苗が寝ている部屋に連れて行った。
彼女は少し体調が良かったらしく、置きあがって、お銀に髪を梳いてもらっていた。


「クロがお見舞いに来たぞ。」

「早苗さん、クロよ。」

「…クゥン。」

「…クロ?どこ行ってたの?」

「弥七のとこらしい。でも今日から俺らと一緒だ。」

「よかったわね。」


クロは、早苗がいる布団の横に歩いて行き、大人しくお座りした。

「…ごめんね、クロ。怒鳴ってごめんね。」

早苗はその頭を詫びながらなでていたが、表情は無表情なままだった。

「早苗、疲れないか?」

「ちょっと…。じゃあ、クロまたね。」

「…クン。」


部屋からクロを連れ出し、通じるとは思わなかったが、話しかけた。

「クロ、これからも頼むぞ。早苗を元気にさせるんだ。」

「ワン!」

なぜか仔犬は眼を輝かせ、走ってどこかへ消えてしまった。

「おい、どこ行くんだ!?」


一人残された助三郎は、他の有効な治療法を考えることにした。


自分で料理して早苗に食べさせる。
晩は一緒に寝る。
つきっきりで話しかける。
でも、下手にしゃべりすぎると、また変なこと言いそうで怖い…。
俺の馬鹿な性格が怖い…。

他に何かないもんか…。


そこへ再びクロが戻ってきた。

「ウワン!」

「おっ。どこ行ってた?…え、おい、何連れてきたんだ!?」

クロが連れてきた者たちに助三郎は腰をぬかした。




少しの後、我に帰った助三郎は無我夢中で、早苗を守りに走った。

「…早苗、俺から絶対に離れるな!いいな!」

「なによ助さん!いきなり走ってこないでよ!」

押しのけられた由紀は怒っていたが、部屋に近づいてきた者に恐れおののいた。

「きゃ!なに!?あれ、なに!?」

「由紀さん、何かあったら、早苗を連れて逃げてくれ。いいな!?」

「はい!」


助三郎自身もかなり怖かったが、怯えていたら男が廃る。

「クロ!クロ、これは何だ!?」

「ワン!」

「…あれ、また来てくれたの?」

腕の中の早苗が少しばかりうれしそうな口調でつぶやいた。

「…俺がいるから怖くないぞ。いいな。」

「…ちょっと苦しい。息させて。」

「あっ。すまん。…いかん、来た!!!」


やってきたのは、小さな大きさの獣だった。
静かに早苗がいる布団の横に座りはじめた。

「…怖くないからな。俺がいるからな。」

しかし、根っからの動物好きの早苗は、むしろ喜んでいた。

「…仔グマちゃん、仔ギツネちゃん、仔ダヌキちゃんにあなたは普通の仔犬ちゃん?」

「アォーン!」

「犬じゃない、お、オオカミだ!」

「…これ、お見舞いにくれるの?…ありがとう。」

早苗の目の前に、鮭、鮎、鱒、さらには大きな猪が置かれていた。

「…お前らがとってきたのか?」


助三郎は無言で見つめてくる獣達が怖くなった。
小さいが、熊と狼は本来肉食で凶暴だ。
…怖い。


「…ねぇ、撫でてもいい?」

未だ無表情だが、口調は少し明るくなった早苗に頼まれた。

「触りたいのか?」

「…うん。こんな近くで初めてみたから。」

自分の願望をしっかり口にする彼女に少し驚いた。

「クロ、早苗が撫でたいって。できるか?」

「ワン!」

一声吠えると、動物たちはゆっくりと早苗に近づいた。
子どもの獣たちと戯れる早苗に、助三郎は少し安心した。
笑わないけど、表情がさっきよりも穏やになっていた。

「…早苗、よかったわね。わたしは怖いからいいわ。」

「…なんで?おとなしいのに。」


助三郎は、早苗を横目で見ながら、黒い仔犬に問いただすことにした。

「あれはお前の友達なのか?」

「ワン!」

「あいつらもかわいいが、お肉好きの仔より、葉っぱ好きのお友達いないのか?
うさぎとか、りすとか…。」

「……。」

「通じるわけないか…。」

その時、畳に風車が刺さった。

「あっ、弥七からだ。…なんだって?…この動物はクロの友達。皆親がいないせいで、寂しくて意気投合しちまった?…害はないんで安心を。へぇ…。」

再び早苗と獣達を見ると、楽しそうにじゃれていた。

「動物の言葉がわかればいいのになぁ。な?クロ。」

「ワン!」




動物たちと楽しいひと時を過ごしたが、別れる時が来た。

「…みんな元気でね。クロ、送ってあげるのよ。」

「ワン!」



動物たちが帰った後、助三郎と早苗の二人だけになった。

「楽しかったか?」

「…うん。可愛かった。」

穏やかな話し方だった。
やっぱり動物はよく効く。

「じゃあ、お見舞いの品でご馳走作ってくる。ちょっと待ってろよ。」

「うん。」

お見舞いの魚と、イノシシを捌いてから、由紀に料理してもらった。

「食べられるか?」

「…うん。」

元の姿に戻ってから初めて自分で食べ物を口に運ぶ彼女を見て、安堵した。

「いっぱい食べて、精つけないといけないからな。」

「…ねぇ、一緒に食べよ。」

「いいのか?」

「…うん。」

「わかった。」



俺も、治療に役立てるのかな?
傍にいることしかできないけど。
まだ名前も呼んでくれない。
笑ってくれない。
でも、一歩一歩治っている気がする。一刻も早く治したい。
元の笑顔が可愛い優しい早苗に戻ってもらいたい。






その晩、寝ずに早苗の様子をうかがっているところへ異様な気配を感じた。
気付けば、部屋の隅に人と、よく分からない者が立っていた。
作品名:雪割草 作家名:喜世