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雪割草

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人ではなかった。足がない。みすぼらしい格好に、恐ろしい表情をしていた。
その者の周りに取り巻いている者たちは、動物のようにも見えた。


『 ツレテイコウ ハヤク ツレテイコウ 』

『ちょっと待て。』

『 ヤクソク シタ ツレテクト ヤクソクシタ 』

『うるさい、少し黙れ。』

内輪で喧嘩している奇妙な者たちに、助三郎は怖かったが、脅しをかけた。

「誰だ!?」

『ワシのことは死神、とでも思ってくれ。こいつらは雑魚だ。気にするな。』

死神…。さては命を奪いに来たか!?
「…早苗は渡さん!」

『そう怒るな。奪うも何も、じきに勝手にこっちに来る。様子を見てるだけだ。』

「…なぜ?」

物凄くいやな予感がした。

『この女、生い先短い。』

「え?」

『生きたい気持ちが弱い。それに、寿命がかなり縮まった、じきに死ぬぞ。』

「……。」
死ぬ…?ウソだろ…?

『言い方はキツイかもしれんが、その女の寿命を縮めたのは何者でもない、お前だ。』

「……。」
俺のせい…。

『一度目は熱を出して寝込んだお前を看病した時だ。二度目はお前をかばって怪我を負った時。三度目は願掛けだ。』

俺は迷惑ばかり、心配ばかり早苗に掛けていた。
そのせいで…。

『そして四度目、精神を病んだ。これが一番痛手だったな。』

やっぱり、すべては俺のせいだ。
でも、死ぬなんてウソだろ?

「…このままだとどれくらい、生きてくれるんですか?」

『後五年も持たないな。本来ならお前とほとんど一緒の時期に長生きして死ねたのに。可哀想になぁ。こんなに若いのに。』

「そんな…。」

自害寸前を助けたのに…。
一日も早く治して、クロも一緒に三人で楽しく暮らしたかったのに…。
死ぬなんて…。

『この女がお前を生かすために生気を送り込んだのもあって、お前は異常に長生きする。
よぼよぼの爺さんになっても一人で生き続けねばならんぞ。』

「早苗の命をそんなに早く奪わないでください!なんなら、無駄に長い私の命を引き換えに!」

『無理だ。お前の命は強力なその女の力で守られている。
お前が死にそうになると、その女が絶えず命を送り込もうとする。
自分が死にそうなのにようやるわ。』

「お願いします!何か手はないのですか?早苗を長生きさせる方法は!?
私に無理に命をわけなくていい道は!?」

『有るには、有る。知りたいか?』

「はい。」

『お前の今ある寿命をその女に分け、封印するのだ。』

「お願いします。やってください!」

そんなに簡単なら、喜んでこの命投げ出す。

『ワシには準備しかできん。』

「どういうことですか?」

やたらに親切な死神だ。こんな人が死神なのか?

『これが生きたいと心から思い、お前に告げた時、お前の寿命は縮まる。
失った寿命がお前から移る。望みどおりその女は生きる事ができる。
すべてはその女次第だ。』

「…もし、寿命を分けたら、何年生きてくれますか?」

『あと五十年か六十年くらいだろう。だが、そうなったらお前はその女より数年早く死ぬ。いいか?』

「かまいません。」

残していくのはつらいが、早死にされるのはもっとつらい。

『わかった。精一杯やってみろ。佐々木の孫よ…。』

「…え?あっ、はい。」


奇妙な者は姿を消した。
部屋には自分と静かに寝むる早苗、由紀、お銀だけだった。



とにかく、一刻も早く、生きる気力を見出してもらわないと。
『生きたい』って言ってもらわないと。
一緒に幸せに暮らすために…。



しかし、助三郎の心に、恐怖が頭をもたげてきた。

生きる気力を俺が奪った。
俺のせいで寿命が縮まった。
すべて俺のせいだ…。
バカな俺のせいだ…。


悩んでしばらく項垂れていた頭を上げると、目の前の早苗はいなくなっていた。
ふと気付くと宿でもなく、見慣れた自分の家だった。
部屋の隅には仏壇があり、位牌がいくつか並んでいた。

お爺様とお婆様、父上の位牌か。
…この真新しいのは、誰のだ?
見たことない戒名だな。
女か…。

俗名は?

裏返して氷ついた。

そこにあった名は、『早苗』だった。

「…嘘だろ?嘘だ!」

思わず叫んでいた。


「何騒いでるんです?助三郎さま?」

『助三郎さま』って呼んでくれるこの女は早苗か?
ほっとして振り向いたとたん、違う女がいた。

「誰だお前…。」

見たこともない女だった。

「お忘れですか?助三郎さま。貴方の妻ではありませんか。」

「違う!お前は違う!早苗!どこだ!」

その女は消え失せた。

早苗の姿を探して、ふらふら歩き続け、気付くと墓地にいた。
佐々木家の墓に向い、急いで名前をさがした。
しかし、恐れていた早苗の名はなかった。

取り越し苦労か…。
もう、帰ろう。早苗が戻ってるかもしれない。
少し心が軽くなり、家に向かって歩きはじめた。
しかし、墓場から出る時、遠くに泣きながら胸に骨壷を抱えている一行を見かけた。
無性に気になって彼らの後について行った。


彼らが行きついた先の墓は、橋野家と書いてあった。
まさか…。

先頭に立ち、ひときわ泣いていた男を良く見ると、早苗の父の又兵衛だった。
隣には母のふく、兄の平太郎も立っていた。

「…早苗。辛かったかもしれんが。武家の娘らしい最期、あっぱれだ。」

「…あの世で良い人見つけなさい。佐々木さまは忘れなさい。」

「…あんな裏切り者、思い出すな。もっといい男いっぱいいるさ。
…生きてるうちに見つけてやればよかった。…ごめんな。不甲斐ない兄でごめんな…。」



違う、嘘だ!
俺は、裏切ってない!早苗は死んでなんかない!!!

その時、背後から人がやってくる気配がした。
それは着飾った早苗だった。

「…やっぱり死んだなんて嘘だったんだな。帰って来てくれたんだな。よかった。」

「…いいえ。もう逝くからお別れしに来たの。」

「…え?」

いつの間にか彼女の綺麗な着物、髪飾りは消え失せ、死装束に、髪を下ろし、後ろで紙紐でまとめた死人の姿になっていた。

「…さようなら。」

「…待ってくれ!行くな!」

彼女の手を掴んだが雲をつかむように空を切った。

なぜだ?

「…ついてこないで。わたしはもうこの世には居られないの。」

「行くな。早苗、行くな!」


遠ざかる彼女を必死に追いかけ、やっと追いついた。
振り向いた彼女は、格之進になっていた。
彼の姿は武士の切腹裃になっていた。
手には抜き身の刀を持っていた。

「格さん!?何する気だ!?」

「…絶対に来るなよ。お前は生きるんだ。俺は行く。」

手に持っていたのは、助三郎があの晩奪ったはずの懐剣だった。
それを首にあてがって笑った。

「さらば…。」

「やめろ!!!」

目の前が血で真っ赤に染まった。






「早苗!!!イヤだ!!!死ぬな!!!」

「しっかりして!」

眼に入ったのは女の顔だった。

「誰だ?早苗は?早苗はどこだ!?」

必死に早苗を探した。

「ここにいる。」

「はっ。あぁ、夢か…。」

やっと現状が把握できた。
夢を見ていただけだった。


「大丈夫?」

「あぁ…心配いらない。起こしたか?」
作品名:雪割草 作家名:喜世