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雪割草

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もう二度と壊さない。一生大切に守っていく。

決意を新たにした助三郎は、川岸の早苗に水をかけた。

「早苗!」

「きゃ!冷たい!」

「気持ちいいぞ。入るか?」

「うん。行くね。」

石をつたい、早苗が近くにやってきた。
しかし、助三郎の眼と鼻の先で、よろけた。
とっさに支えたが、川底に滑ってまたも彼は尻もちをついた。
どうにか早苗は怪我しないで済んだが、二人とも頭のてっぺんから足の先までずぶ濡れだった。

「大丈夫!?」

「どうだ?水も滴る…。」

「良い男!」

そう言ってしがみついてきた早苗は以前と変わらない笑顔だった。
再び、うれしくなって涙が出てきた。

早苗の前だと泣ける。
やっぱり早苗が俺の一番だ。安心して心を開ける唯一の人だ。

「…早苗。」

しっかりと抱きしめた。

「どうしたの?泣いてるの?」

返事をしようとしたが、クロが邪魔をした。

「ワンワンワン!」

「あっ、クロのせいよ。ぬれたの。」

「そうだ、悪い犬だな!」

「クゥン…。」


皆びしょ濡れになってしまったので、日向ぼっこで身体を乾かした。
知らない間に昼寝をしてしまったようで、眼が覚めると夕方になっていた。


ぽつりと早苗がつぶやいた。
「…帰りましょ。暗いの怖いでしょ?」

「あぁ。そうだな。」

情けないが、怖い。
人でないものを見たくない。

「わたしも怖かったの…。」

「なんで?」

「…毎晩いろんな人においでって言われてたの。でね、あの晩すごい数のひとが皆で待ち構えてたの。ニヤニヤ笑って…。」

やっぱり、見えていたのは死神や悪鬼悪霊か…。
俺のところに来たのも同じ輩か。

「また来たら、無視するんだ。いいな?」

「わかった。」


宿に帰ることになり、しばらく横に並んで歩いていたが、ふといいことを思いついた。
早苗の前に回り込んで、背中を向け屈みこんだ。

「乗れ。」

「なに?」

「おぶってやる。疲れたろ?」

「歩けるから大丈夫。」

「良いから。な?」

「…ありがと。」

早苗を背中に乗せたが、思ったより遥かに軽かった。
記憶の中では、重くてよろけるほどだったのに。

「背中大きい…暖かい。」

「二度目だな。お前をおぶって帰るの。…覚えてないか。」

「覚えてる。よろけてた。」

「…そうだな。」

早苗も覚えていたのか。
情けない思い出だったらイヤだな。

「気にしないで、まだ男の子だったから。」

「…今、俺は何なんだ?」

気になった。俺はこいつにとって何なのか。
婚約も破棄した状態の今。俺の存在意義は何だろう。


「…男の人。わたしの大好きな、大切な人。」

「そうか…。ありがとな。」

その後彼女から返事は返ってこなくなった。
疲れて眠ってしまっていた。

もっとよくなったら、はっきり言おう。
一生大切にするって…。
命がある限り守るって。



日が完全に沈む前、宿についた。
由紀が出迎えてくれたが、おぶわれた早苗を見て驚いてた。

「早苗、どうしたんですか!?」

「疲れて寝ただけだ。何でもない。」

「そう?良かった…。」


その時、寝ていたはずの早苗がつぶやいた。

「助三郎さま…好き…。」

そう言う彼女の顔は、にっこり笑った顔だった。

「…笑ってる。」


助三郎はうれしくなり、由紀に報告した。

「昼間やっと笑ったんだ。」

由紀からふざけたことは一切返ってこなかった。
代わりに、まじめにお願いされた。

「幸せですね、佐々木さま。どうぞ、早苗を末長く大切に。よろしくお願いいたします。」

「わかりました、由紀殿。…悪いが、布団敷いてくれないか?」

「はい。ただいま。」


作品名:雪割草 作家名:喜世