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雪割草

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〈84〉やっと来た文



宿場で早苗は為替を受取った。
ついでに分厚い文がくっついてきた。

「誰から?」

傍にいた由紀が覗きこみ、聞いた。

「…水戸の親父からだ。もう遅いんだよ。いったい何やってたんだ?ったく。」

戻れなくなった時に、光圀が国本に送った文の返事だった。
今さら来るとは、遅いにもほどがある。


「早苗、近頃あなた完全にしゃべり方が男よ…。」

「前もそうだったろ?」

「でも、かなり男っぽいわ。」

そう言えば、助三郎さまも言ってた。ほんとの男みたいだって。
でも、なんか嬉しそうに言ってたから気にしてない。

「ふぅん。そうか?」

「…助さんが惚れるのもわけないわ。」

「何か言ったか?」

「いいえ。なんでもないわ。ホホホホ。」

宿に戻ろうと、歩きはじめたが早苗は視線を感じうんざりした。
以前は由紀やお銀と歩けば、見られなかった。
しかし今はそんなことお構いなしにじろじろと見てくる。

「ちっ。また女の子が見てる。イヤだな。」

「やっぱりイイ男の雰囲気がぷんぷんするのよ!男も引き寄せられるほどの!」

「由紀、うるさい。」

近頃のおかしい由紀に早苗は疲れていた。
ちょっと助三郎に用事があって近づいてもキャー。
彼の着物に糸くずがついていたのでとってあげたらキャー。
キャーキャーやたらにうるさいので、女に戻ってからしか近寄らないようにした。

そうしたところ、今度は助三郎がおかしくなった。
早苗の時は何ともなかったが、格之進の時に悲しそうな顔で『俺がやっぱり嫌いか?』と言われた。
早苗も悲しくなって何も考えずそのまま『大好きだ!』と抱きついてしまった。
助三郎は嫌がらずむしろ喜んだが、由紀に目ざとく見つけられ、例の如く騒がれた。
あまりにも煩わしいので、お互い話し合い、完全に男の時と、女の時を分ける努力をすることにした。
そのせいもあってか、近頃『格之進』は以前より男っぽくなってしまった。


「ねぇ、甘いものは?」

「そんなの食いたくない。帰るぞ。」

「え!?ねぇ、なんでそんなにイライラしてるの?」

自分のせいだとはこれっぽっちも頭にない由紀に早苗は少しいらだった。
しかし、もっとイライラする理由があった。

「助三郎との逢引きを禁止にされたんだ!ひどいだろ!?」

「まぁ、ひどい!」

「だろ?道中は男、夕方過ぎても男、女でいられるのは宿にいるときの昼間だけだ!
俺は男じゃない!」

「可哀想に…。でもいいじゃない。男同士でいちゃつけば怒られないでしょ?」

一瞬その光景を想像してしまい、鳥肌が立った。
助三郎さまを男色にはしたくない!

「…もういい。帰るぞ。」

「ちょっと待ってよ!歩くの速い!」

由紀を置き去りにして、早苗は足早に宿に戻った。




宿に戻ると早速、主に文を渡した。

「ご隠居、文が参りました。」

「ほう、では早速読もうかの。何やらえらく長い文じゃな。…助さんも呼んでくれ。」

「はい。」


光圀は早苗と助三郎を前に、文を読みながら、要所要所を二人に伝えていった。

「まずは、助さん、千鶴はまた縁談を断って母上がイラついているそうだ。
親戚が煩いらしいそ。」

「帰ったらグチを聞かされる…。俺に弟はできない。親戚はうっとおしい。最悪だ。」

「橋野からは…早苗に祝言までは一切手を出すなと書いてある。」

「はい…信用されてないな…。」

がっくりする助三郎を面白そうに眺めた後、文の内容は早苗に移った。

「次に早苗、身を守るためにずっと格さんでいろと…。」

とんでもいない内容に早苗は憤慨した。
ただでさえ、戻れずにおかしくなったのに。戻るなとは理不尽だった。

「イヤです!な?助さん。」

「あぁ。」

父の又兵衛からは兄の平太郎の話も書いてあった。

「お前さんの兄が嫁をもらうそうじゃ。」

これには早苗と助三郎は驚いた。

「義兄上が?」

「あんな兄貴にも嫁がくるんだな。でも嬉しい!義姉上ができる!」


次に二人にとって、とてもうれしい内容が知らされた。

「…平太郎の祝言はわしらが帰ったらするそうじゃ。そのあと日取りを決めてお前さん達のをやるらしい。」

「早苗!祝言だ!」

「嬉しい!」

光圀に怒られるのも覚悟の上で早苗は女に戻り、将来の夫に抱きついた。

「本当に夫婦になれるな。早苗…。」

「はい、助三郎さま…。」

二人だけの世界に突入しようとした矢先、雷が落ちた。

「昼間からいちゃつくでない!早く格さんに変わるのじゃ!」

「はい…。」

男二人に戻った後、文の内容は仕事の内容に移った。
国元での仕事の状況などがつらつらと書き連ねてあるだけで、おもしろくも何ともなかった。
聞かなければいけない助三郎はあくびを何度も噛み殺していた。

しかし、突然おもしろい情報が入ってきた。

「…おや、朗報じゃ。うちの部署に非常勤だが、新しい人間を入れたらしい。」

しかし、助三郎は乗り気ではなかった。

「私より年上でしょう?いつもそうだ…。」

「いや、若い、お前さんと同い年じゃ。」

以前、早苗は助三郎から職場がつまらないと聞いていた。
なのでこの人事が、助三郎に仕事を楽しくさせるのではと単純に思った。

「よかったな助さん、欲しかった同僚が出来たじゃないか。」

「お前が良かった…。」

とても残念そうに言う許嫁が少しかわいそうになった。
わたしは女だから仕事したくても、できない。

「何言ってる。俺は無理だ。」

「なんで?」

「なんでもだ。それで、どなたなんです?私も知ってる方ですか?」

「渥美格之進じゃ。」

「へぇ、私と同姓同名っているんですね。俺みたいに偽名じゃなくて本名だぞ。」

「早苗、何を言っておる?これはお前さんじゃ。」

光圀の言葉が信じられなかった。

「へ?うそでしょう?なんでですか!?」

「ほれ、ここを見てみなさい。」

見せてくれた文には、『橋野家、渥美格之進』とはっきり書いてあった。
一緒に覗いていた助三郎は大喜びし始めた。

「よっし!やった!格さんと同僚だ!嬉しいなぁ、一緒に仕事できる!」

その様子に、少しうれしくはなったが違和感はぬぐい切れなかった。

「…ご隠居、私は藩士などになれませんよ。この世にいない人間ですから。」

「おや?言っておらんかったか?お前さんは水戸藩の男じゃ。」

「へ?」

「たしか、渥美家三男、水戸藩橋野家養子次男となっておる。…ちなみに早苗の弟じゃ。」

「…へ?は?え?」

っていうことは、父上は義父?兄上が義理の兄上?
わけがわからない…。

「頭が混乱しておるか?出立する前、そう藩に申し出ておいた。なんでもない格さんがワシの供などできないからの。ハッハッハッハ。」


しばらく頭がこんがらがり、何も聞こえなかったが、隣からクスクス笑う声が聞こえてきた。

「…助さん、なにが面白いのじゃな?」

「…格さんって、三男だったんだ。養子に入っても、まだ次男。
嫁取りじゃなくて婿に行かないと!ハハハハ!
それと、格さんは早苗の弟…ようは俺の義理の弟!ハハハハ!」

早苗の混乱をよそに、腹を抱えて笑いだした。
光圀はあきれ返って、文を一人で読み進めた。
作品名:雪割草 作家名:喜世