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雪割草

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「無駄な言い訳をするでない!早く離れるのじゃ!それと、今後風呂と厠以外で女に戻ることを禁ずる!」

「そんな…。ひどい…。ただでさえずっと男なのに…。」

「早苗は甘えすぎじゃ。たるんでおる!文句を言うと、風呂の護衛の仕事をさせるぞ!」

「それはイヤです!わたしは男ではありません!イヤ…」

早苗は非常な仕打ちにとうとう泣きだした。
その姿に居たたまれなくなった助三郎は必死に懇願した。

「ご隠居、どうかご勘弁ください。お願いいたします!一日中男で過ごせなどと…」

「黙れ!助三郎、主に逆らうつもりか!?」

恐ろしい表情で睨まれ、手も足も出なくなった。

「はっ。申し訳ございません。」


怒りのあまり、光衛門ではなく天下の副将軍に戻ってしまった光圀に刃向うことはだれ一人できなかった。




光圀の機嫌は一向に直らなかった。
一人で走るように歩き、友の追随を許さなかった。

「…ご隠居、もう少しゆっくり歩かれては?」

「お前さんらが遅いだけじゃ!ワシは先に行く!」

「ご隠居。さっきのことですが…。」

「言い訳は無用じゃ!聞かんぞ!」

誰の話も聞かず、頑固な光圀は厄介だった。

「…どうしよう。」

「機嫌が直るまでほかっておくしか無いだろ。…だが、格さん、何でお前になってたんだ?
俺はお前の姉貴と寝たはずだぞ。」

「悪い。どうも癖みたいなんだ。」

「癖?」

「…寝てる間は絶対に男じゃないとダメだろ?そのせいだ。」

「ふぅん。」

「…祝言までには絶対に治すから。」

「まぁ、がんばれよ。」


突然、お銀が二人に恐ろしいことを言い出した。

「…助さん、ご隠居さまの姿見えないわよ!」

「は?なんで?」

「早く探しなさい!」

「…あの、あれじゃないですか?」

新助が指さす方向を見ると、道から外れた所で転んでいる老人を若い女が介抱する光景が目に入った。

「あれか?」

「はい。そうですよ!ご隠居ですよ!」

「ヤバい!いくぞ!」

「あぁ!」


若い女は心配そうに光圀に手を貸し、助け起こそうと奮闘していた。

「大丈夫ですか?」

「なんのこれしき…。いたたたた…。」

「お腰を痛めましたか?…どうしましょう。」

不安そうに光圀の様子をうかがう彼女のもとへ早苗と助三郎は走り寄った。

「申し訳ありません!主が世話になったようで…。」

「フン。」

相変わらず主は不機嫌なままで、そっぽを向いてしまった。

「あの、わたしの家で休憩していきませんか?近くですので。」

「そうさせてもらおうかの。痛いの…。」

見かねた早苗は光圀の前に屈みこんだ。

「ご隠居、背にお乗りください。」

「イヤじゃ。歩ける。…うっ。」

「言わんこっちゃない、ご隠居、大人しく格さんに負ぶわれてください。」

「イヤじゃ。祝言前に男と寝るような不真面目な娘に背負われたくない。助さんも軟弱いの。早苗にやらせようとするなんてのぅ。弥七!どこじゃ?」

「……。」

手を握りしめ、唇を噛み締め、怒りを押し殺そうとする早苗の姿に助三郎は危機を感じた。
すぐさま、光圀に聞こえないよう忠告した。

「…格さん、我慢だ。お前は水戸藩士だ。主に逆らえば首が飛ぶ。堪えろ。」

「…あぁ。大丈夫だ。ありがとな。」

「…俺も、我慢ならんが、仕方がない。」



結局光圀は弥七に背負われ、女の家に行くことになった。

「お供が多いのですね?」

「無駄に多いじゃろ?はっはっは。」


わがままな光圀にしぶしぶ皆は付いていったが、
由紀は新助の様子の異変に気がついた。
どこかを見ながらぼんやりと歩いている。

「…あれ?新助さん、どうしたの?」

「…いえ、なんでもないです。」

「ふぅん。いいから行くわよ!」

「はい。」



新助は、光圀を助けた女の子に生まれて初めての一目ぼれをしていた。


作品名:雪割草 作家名:喜世