雪割草
光圀は、本人の気持ちを確認すると、助三郎に頼まれていたことを実行することにした。
「ワシがお前さんの後見人になってあげよう。人に聞かれて、辛い過去を思い出さなくても良いようにな。」
「…ありがとうございます。あの、ご隠居さまはどのようなお方ですか?」
「一応、越後のちりめん問屋の隠居じゃ。」
しかし、こっそりと由紀が光圀の正体をお孝に素性を耳打ちした。
「え!?もったいのうございます。恐ろしゅうございます…。」
恐縮してひれ伏してしまった彼女を見て、由紀はバツの悪い顔をしたが、すぐに何かを思い立った。
「そうだ、歓迎の印に、女の子だけで何か食べに行きましょ!もちろん格さんの奢りで!」
「残念だな。俺は男だからいけないぞ。」
「…あっちでこっそり戻ればいいの!だから行くの!お銀さん。早く!」
「えぇ。格さんお財布お願いね。」
男扱いされた上、女たちのきんちゃく袋にされた早苗はがっかりしながら隣の助三郎を見た。
「…助さん。お前の気持ちがよくわかった。男って辛いな。」
「は?」
「じゃあ、ご隠居頼むな。…金足りるかな?」
そう言い残すと早苗は女たちの後を追った。
次の日、お孝をつれ江戸に向けて発った。
お孝の茶店は、知り合いの者に頼んで処分してもらった。
女の子が一人増え、華やかな道中となったうえ、光圀の機嫌が直っていたので気も、足取りも軽くなっていた。
しかし突然、光圀は早苗と助三郎に尋ねた。
「それで、お前さんらはどうするつもりじゃ?」
「何がです?」
「夜じゃ、夜。また二人で寝たら今度こそ…」
じろりと睨んだ主の眼が恐ろしく、助三郎は慌てて思いついた対策を提示した。
「ご隠居と新助を挟んで寝ます!それでいかがでしょう?」
あまりに単純な策だったが、すんなりと受け入れられた。
「わかった。だが、早苗江戸までは戻るでない。良いな?」
完全には許してくれなかったことに二人とも落胆した。
「…ごめん。助さん。」
「…別にいい。早苗に会える楽しみが増えるからな。」
江戸まで残りあとわずか…。