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雪割草

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〈89〉再び江戸



数日後の朝、一向は江戸に到着した。

「江戸だぞ!着いた!」

「久しぶりの江戸だなぁ。」

「すごく賑やか。」

思ったことをそれぞれが口にしながら、江戸の町を歩いていた。
しかし、光圀は可哀想な命令を助三郎に突きつけた。

「助さん、悪いが早速使いじゃ。」

「え!?私ですか!?」

「まず、藩邸にワシらの荷物を置いてきて欲しい。それと、紀州殿、八嶋殿、由紀の父親の家にも使いじゃ。よいか?」

「……。」

主に言われ、イヤとは絶対に言えない。
しぶしぶ引き受けた。

「…ご隠居は、どちらへ?」

「新助の家に行く。父母が居るらしいからの挨拶じゃ。お孝を連れていく。」


本気で新助はお孝と結婚する気だった。
何時になるかは分からないが、叔母の宿を継ぐ際、若女将として連れて行くつもりで、父母に紹介する予定だった。

「新助、お孝ちゃん、頑張れよ!」

「ありがとうございます。」

幸せそうな二人は助三郎に笑顔で返した。



「さぁ、助さん仕事行ってこい。」

早苗に肩を叩かれ、はっぱをかけられた。

「なんだその笑みは?もうちょっと優しい言葉ないのか?…将来鬼嫁かな?」

「…なんか言ったか?」

「いいや。行ってくる!」

不満そうに歩きだした彼の背中にまたも非情な声がかかった。

「助さん、ちゃんと文渡してよ。わたしの結婚がかかってるんですからね。」

「寄り道するなよ!」

「夕方には屋敷に向かうと伝えてくれんかな?」

「はい。わかりました!…人使いが荒い。」

ぶつぶつ文句を言いながら、出かけていった。





一行は新助の家に向い、彼の父母に挨拶し、お孝を紹介した。
性格もよく、可愛い彼女を両親は気に入り、将来の結婚は許可された。
会話を楽しんでいると、昼ごろ客がやってきた。
新助の母が応対した。


「お武家さま、何の御用でございますか?」

「あの、お宅に光衛門と供の者が居りませんでしょうか?」

「はい。いらっしゃいますが…。」

町人の家に侍が来たことに不安げな母親をよそに、新助はいつもどおりの接し方をした。

「あ、助さんお疲れ様です。誰かと思っちゃいましたよ。」

「おっ。お前、『御武家恐怖症』治ったみたいだな。」

「なんですかそれ?」

「忘れたのか?紀州でひれ伏して泣き言言ってたくせに。」

「あぁ、あれ…。でも、お武家は助さん、格さん、与兵衛さんしかダメですね。」

その言葉に、身分が違うことを改めて実感させられ、助三郎はふと寂しさを覚えた。
しかしすぐ気を取り直し、主に報告を始めた。

「…ご隠居、返事を持ってまいりました。」

「御苦労。では、ワシらは迷惑にならぬようお暇をするかの。」



手短に挨拶を済ませ、新助とお孝を残し、家を出た。
しかし、しばらくすると、必死の形相で新助の父母が追いかけてきた。
光圀の前に回り込むと、地面にひれ伏した。

「御老公様とは存じ上げず、大変ご無礼いたしました。ふつつかな息子が大変ご迷惑をおかけしました。お許しください。」

「新助、それともお孝か?言ったのか?」

「申し訳ありません。」

二人そろって光圀に詫びた。

「まぁ、良い。偲びの旅じゃ。そう畏まらんでもよろしい。の?」

周りが、手を貸して立たせ、ようやく落ち着いた新助の父は、
「…ありがとうございます。また江戸にお立ち寄りの際はどうぞお顔をお見せくださいませ。」
と少し余裕を持って、光圀を見送った。

「では、失礼。皆達者でな。」




一行はまだ屋敷に行きたくなかったので、茶店に立ち寄った。
旅装の町人姿の中にただひとり侍がいる光景はよく見ると異様だったが、江戸は往来が激しく、気に留める者はほとんどいなかった。

せっかくの茶店なのに、会いたい許嫁は男のまま戻ることを許されない状況が助三郎を落胆させた。
しかし、そうもしていられず、使いの結果を主に渡し、下知を待った。

「まずは、由紀じゃ。急だが五日後に祝言をするそうじゃ。親元へ今すぐ帰れと。八嶋殿も待っておられるそうじゃ。」

「はい。」

うれしそうに返事を返した。

「紀州殿は、面と向かって話さぬとダメじゃと?おや、行かねばならん日が由紀の祝言と重なっておる…。すまんの由紀。」

さも残念だ、他藩の屋敷になど行きたくないと言わんばかりの顔をしていた。
しかし、重要な外交、おろそかにはできない。
それは由紀も重々承知。

「いいえ。とんでもございません。しかし、せっかくですので、この場にて挨拶させていただきます。…御老公さま、今までありがとうございました。水戸藩の名を汚さぬよう、嫁しても精一杯勤める所存にございます。」

「うむ。励みなさい。近況を知らせるのじゃよ。」

「はい。」

「では、弥七、送ってやってくれ。」

この場で一行は由紀と別れることになった。
しかし、彼女はこっそり早苗に伝言を残した。

「お孝ちゃん連れて明日か明後日泊りに来て。いい?」

「わかった。絶対行く。」

「じゃあね!」




旅の仲間が減り、水戸から出てきた時の構成にほぼ近くなった。
街をうろついてみても、熱いだけで意味がないので、屋敷に向かった。
屋敷に近くなるにつれて光圀の愚痴は増えていった。

「…明日は朝から城の上様に挨拶じゃ。めんどくさいの。」

「そうおっしゃらず。」

「そうじゃ、クロと一緒に行こうかの。のう?クロ。」

「ワンワン!」

早苗と助三郎は驚き、必死に飼い犬を守ろうとした。
生類憐みの令でただでさえ扱いに困る犬。
江戸に入ったとたん、道行く人々はほとんどがクロを見ると逃げ、近寄ろうとしなかった。
今までの光圀の言動からして、クロは生きて帰ってこられないかもしれないと恐怖を感じた。

「おやめください!クロに何する気ですか!?」

「皮をはぐおつもりですか?それとも肉を食べるおつもりですか!?」

「ん?ただ首輪に紐付けて城の中歩くだけじゃ。」

想像していたことより大人しめの内容だったが、安心はできなかった。

「なんの当て付けですか!?」

「『御犬さま』反対という無言の抗議じゃ。面白くないか?」

「面白くありません!」


飼い主二人は必死に仔犬を守ったが、
よくわかっていない当のクロは二人にかまってもらった事がうれしく尻尾を振っていた。





次の日、約束通り早苗はお孝を誘い由紀の家へお泊りしに行った。
バタバタしていたが、彼女の祝言の支度をしっかり手伝い、由紀が着るきれいな白無垢を見せてもらい、一緒にお風呂に入り、おおはしゃぎだった。

しかし、悪いこともあった。
女の子三人でおしゃべりしながら同じ部屋で寝たにもかかわらず、早苗の悪い癖が現れ、
朝、早苗は格之進に変わっていた。
気付いた由紀とお孝が後先考えず大声で叫んだので、危うく早苗は由紀を狙った侵入者にでっち上げられそうになってしまった。

そんなこんなで楽しい時を過ごした後、お孝は新助の家へ、早苗は与兵衛の家へと解散した。



早苗は弥七経由で、与兵衛から会いたい旨を格之進名義で受け取っていた。
早速屋敷に向かうと、奥に通され武家姿の与兵衛が出てきた。

「渥美殿。長旅お疲れさまです。」
作品名:雪割草 作家名:喜世