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雪割草

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何も考えずにお光の手を掴んでいた男に思いっきり当身を食らわせた。
 そしてひるんだすきに、お光を連れて逃げた。

 必死に走り、男たちに見つかりそうもない場所まで来ると、早苗はお光の様子をうかがった。
二人とも息がかなり上がっていた。

「お怪我は、ないですか?」

「ありがとう、格さん。なんともありません」

 ほっと一息ついていると、何処からともなく男の声がした。

「…格さん、やりましたね。一人で十分仕事ができる」

 それは弥七だった。
影から早苗を見守り、万が一の為に待機していた。
 その彼に、早苗は指導を請うた。

「弥七。この後どうすればいい?」

 彼は簡潔明瞭に指示を出した。
 
「お光さんは責任もって安全な所へ匿ってくんで、格さんはご隠居のところへ報告に」

「わかった。では、お光さん、また」

「はい」

 早苗はお光を弥七に託すと宿へと戻った。


 助三郎の調べと、早苗の報告で胡散臭い出来事の全貌が明らかになった。
調べてそこでお仕舞い。そこで終わらないのが、光圀だった。

「せっかくじゃ。助さん、格さん。これからの旅の途中、悪事を懲らしめて行くのはどうじゃ?」

「どういうことですか?」

 二人は主の驚くべき提案に声を揃えた。

「困っている人をたすけるのじゃ」

 面白そうにそう言った光圀に、助三郎が味方した。

「良い考えですね。やりましょう!」

「格さんは?」

 二人に賛同を促す眼差しで見られた。
彼女の頭を『旅の日程』という言葉が流れたが、二人に負けた。

「…良いのではないですか? 本来の仕事に差し支えなければ」

 二人は喜んで一番初めの『人助け』となるこの事件の解決に取りかかることにした。
 すると、助三郎から意見が出た。

「御言葉ですが御隠居、悪人を懲らしめるとはいえこのような格好では我々はただの町人。怪しまれます。戯れ言と一蹴されてしまいかねません」

 もっともな意見に、早苗はうなづいた。

「…では我々の身分をわからせたほうがいいということかな?」

「そうです。御隠居が畏れ多くも徳川光圀公と解れば、悪い奴等はひれ伏します」

 再び的を射た意見を言う許婚に早苗はただただ感心するだけだった。
助三郎は主に打診した。

「…なにか、ご身分を示すことが出来るものをお持ちですか?」

「となると、家紋入りが良いのう。…ちょっと待っておれ」

 光圀は自分の持ち物を助三郎の前に出すと、彼はそれを物色し始めた。
その中には葵の家紋が入ったものがいくつか。
 刀の柄の家紋は小さい。懐紙入れはなんとなく貧弱。
 ああでもない、こうでもないと三人でワイワイやっているうちに、とうとう見つかった。

 印籠だった。

「格さん、これだ! 紋所も大きいし、格好がつく」

 嬉しそうに彼は早苗に印籠を見せた。
彼の言葉通り、印籠には大きく葵の紋が。

「そうだな。それにしよう。御隠居。これでお願い致します」

 早苗が主に頼んだが、彼からは意外な言葉が。

「…しかし、な」

「なんでしょう? 何かご不満な点でも?」

 早苗は印籠を片手に、少し渋り気味の光圀を見た。

「それをワシがほれ、と見せても。面白味が無かろう?」

「…へ?」
 
 おかしな言葉に、早苗は眼を点にした。

「お前さんたちが出して、何か印象に残る事を言ったほうが面白くないかの?」

 すると助三郎がすぐに反応した。

「御隠居。さすがです。なにか気の利いた、芝居の台詞みたいなのがよろしいのでは?」

「そうじゃそうじゃ。英雄気どりで面白そうじゃ」

 なぜか男二人は、盛り上がり初めた。
どんな言葉が良いの、どういう身ぶり手ぶりが良いの、ワイワイやる二人に早苗はついてはいけなかった。
 なぜそんなに盛り上がれるのか。
そんな大それたことをやる必要があるのか。
 疑問を感じた早苗は、二人をその場に残しそっと抜け出した。


作品名:雪割草 作家名:喜世