雪割草
「へい。では、格さんはどうするんで?」
重要なことだった。
早苗が捕まったということは、助三郎の前に格之進は戻れない。
そこで、早苗は頭を働かせた。
「…格さんは、ご隠居さまの用事に時間がかかって、しばらく戻れないって事にしてくれますか?」
「へい。ではまた来ます。お気をつけて」
そう言うと、彼は音もなく立ち去った。
早苗は深呼吸すると、小屋の中の娘たちを元気づけるべく、穏やかに告げた。
「皆さん、大丈夫です。無事にここを出られますから」
お銀の話を聞いていた光圀と助三郎の所へ、ヒュッと風を切る音と同時に、何かが桟に刺さった。
それは赤い羽が風を受けてからからと回る、弥七の風車。
そこには文が結びつけてあった。
それを助三郎が慎重に外し、光圀に手渡した。
「…弥七は何と?」
「…お銀の聞いてきた噂は本当だったようだ」
「本当ですか?」
少しの間光圀は文を黙って眺め、二人に告げた。
「由紀が拐かされた」
「由紀さんが!?」
その文には、早苗がつかまった事も書いてあった。そして、それを助三郎には絶対に言うなと言う事も。
光圀は早苗の為に、一切彼女の事は言わなかった。
その代わり、大事な事だけは伝えた。
「…他にも娘が多く捕まっているらしい。それと、格さんはわしの遣いが長引いてしまったそうじゃ。しばらく帰って来ない」
お銀がいち早く立ちあがった。
「由紀さんにわたしがついていればこんなことには…。今すぐ助けに参ります!」
しかし、すぐに光圀に止められた。
「待ちなさい。由紀も武家の娘、しっかりしておる」
「しかし…」
渋るお銀だったが、光圀は彼女を行かせなかった。
「由紀だけ助ける気か?」
「それは…」
彼女は他の娘の事を忘れていた。
大事な妹のような由紀を助ける事が先に来て、周りが見えなくなっていた。
「残りの娘も助けねばならん。それに、裏に何かがある筈じゃ。入念に調べてからじゃ。よいな?」
お銀は素直に従った。
「…わかりました。では調べに行って参ります。…助さん、ご隠居さまの傍にちゃんといてね」
「おう。任せておけ」