雪割草
「あぁ。女だ。世間にはいっぱい良い女が居る」
早苗はこの言葉に沈んだ。
要は、『許婚』の早苗以外にも花嫁候補はいっぱいいる。
「そうだな…」
暗くなった早苗に気付かず、助三郎は続けた。
「可愛いのや、綺麗なの、優しいの…。たくさんいる」
早苗は更に沈んだ。
どれも自分には当てはまらない。
絶望的になった彼女の足取りもいつしか重くなった。
「だな…」
しかし、次の助三郎の言葉に、早苗は顔を上げた。
「たくさんいる中から、一番を選ぶんだ。…たった一人の一番を」
「一番…」
早苗はささやかな望みを抱いた。
そして、目標を立てた。
彼の一番になりたいと。
少し気分が良くなったが、助三郎は妙な事を言い始めた。
羨望の眼差しで。
「…だが、お前みたいな良い男、女の方からウジャウジャ寄って来るよな?」
「は?」
やたらに自分事を『良い男』と言う彼が早苗には理解できなかった。
彼女にとっての『良い男』は助三郎のみ。
その男は、少し憐みの表情を浮かべ早苗の肩をポンと叩いた。
「選ぶのに相当苦労するだろうが、まぁ、がんばれ!」
許婚を『男の渥美格之進』と信じて疑わない助三郎だった。