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雪割草

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〈16〉掛川の城下町



 一行は遠江は掛川に差しかかっていた。
助三郎は徐に早苗に言った。

「掛川といえば、土佐山内家の祖、山内一豊公が転封前に治めておられたところだな」

「あ、そういえばそうだな。ここか、掛川…」

 早苗は改めて感慨深げに、周囲の景色を眺めた。
由紀は少し考えた後、助三郎に聞いた。

「…一豊って、あの馬の?」

「そう。へそくり十両捻出して、馬買って、それで出世したっていうあれだ」

 由紀はうっとりとつぶやいた。

「内助の功の鏡ね。尊敬するわ…」

 しかし、助三郎は彼女の幻想を打ち砕く発言をした。

「俺はどうも嘘っぽい気がしてならん」

「なんで?」

「一豊公が出世した理由は、城の権利書を家康公に渡したからだろ?」

 その事実に、早苗もうなずいた。

「そういえば、それで土佐一国を貰ったよな…」

「そうだ。だから馬は関係ない」

「うん。助さんの言うとおりだ」

 史実に乗っ取って話をする二人に、由紀はムッとして突っかかった。

「助さんも格さんも、つまらないわね! 夢があるじゃない、夢が!」

「じゃあ、由紀さん真似すればいい」

 ニヤッと助三郎が言うと由紀は膨れた。

「えぇ、お手本にさせていただきます!」

 そしてお銀と一緒になって歩き始めた。

 助三郎は相変わらず早苗の横。
先に歩く女二人を見ながら、彼は呟いた。

「男はみんな、従順でおしとやかで内助の功が出来る女が良いって言う」

「…そうだよな」

 早苗は少し情けなさを感じていた。
従順でも、おしとやかでもない。
 溜息を付く彼女とは裏腹に、助三郎は楽しそう。
 
「だが俺はそこらの男とはちょっと趣味が違う」

 ニヤッとした彼を、半ばあきれた表情で早苗は見た。
女好きの話など聞きたくなった。

「…どう違うんだ?」

 そっぽを向きながらそう返した。

「お前、ほんと女嫌いみたいだな。まぁいい。俺が好きなのはな、可愛いだけじゃない。優しくて、賢い女だ。それでいて、強い」

 早苗は少し期待したが、自分にどれも当てはまらないと思い込みあきらめた。
そして適当に返した。

「へえ、いい趣味だな」

「なんだ、その棒読み!?」





 助三郎のどうでもいい女談義を聞き流し、早苗は一行と共に景色を楽しみながら歩いていた。
すると突然道の横から女が飛び出してきた。

「助けてください…」

 女はよろけ、地面にうずくまった。
それに驚いた早苗はすぐに駆け寄り、彼女を助け起こした。
 
「どうしました?」

 そう聞いたが、女は怯えている様子。
返事がなかった。
 そこへ、追っ手らしき人影が…

 侍だった。

 その姿を認めた女は、早苗に縋り付いた。

「…助けてください」

 緊急事態と判断した光圀が指示を出した。

「助さん、格さん! 娘さんを渡してはならんぞ!」


 早苗は女を由紀とお銀に預け、助三郎と共に追っ手に立ち向った。

「その女をこちらに渡せ!」

 追手の頭らしき侍が、二人に向かい怒鳴った。
しかし、そんなことでは動じない。

「なぜですか? 怯えているではありませんか」

 助三郎が穏やかにそう尋ねると、侍は背後に控える男たちに指示を出した。

「いい。面倒だ。こやつらもろとも捕まえろ!」

 しかし、武器は棒だけの男たち。
早苗と助三郎は難なく彼らを追い払ってしまった。
 
「くそ! 覚えてろ! ただじゃおかないからな!」

 暴言を吐きながら帰って行った。


 安全が確保できると、皆は女を心配し始めた。
大勢の侍に追いかけられる。
 普通のことではなかった。

「…大丈夫かな?」

 光圀が優しく彼女に声をかけると、礼儀正しく頭を下げた。

「はい。ありがとうございました」

「行くあては、あるのかの?」

「はい。これで、無事に行けます」


 女は一行に礼を言うと、足早に去って行った。
早苗は、歳が近そうな若い女が気になっていた。

「…あの追っ手は何だったんでしょうね?」

「気になるの…」
 
 早苗だけでなく、光圀も、何か引っかかるものを感じていた。





 一行は城下町に手頃な宿を取った。
旅装を解くなり、助三郎は早苗を鍛錬に誘った。
 剣術、柔術と一通り終えた後、助三郎は光圀に呼ばれ早苗を庭に残して一足先に去っていた。
 早苗は、井戸端で一人迷っていた。
 
 激しい鍛錬で、彼女は汗をかいていた。
風呂に入りたいが、まだ日が高い。
 
 助三郎はそんな時、片肌脱いで拭いていた。
しかし、女の早苗が真似できるわけがない。
 
 しかし、今、この場には誰もいない。
 脱いでしまえば、楽に汗をふき取れる。

「良いよな? ちょっとくらい…」

 早苗は思い切って、片肌だけ脱いだ。

「うわっ…」

 早苗は脱いだことを若干後悔した。

 毎日旅で歩き詰め歩く。
助三郎と激しい鍛錬を繰り返す。
 そのせいか鍛えられ、以前より筋肉が付いていた。

「…ぜんぜん違う」

 暫くぶりに見る男の肉体。
その本来の姿とはかけ離れた姿に、早苗は呆然としていた。


「格さん、やっぱり男ねぇ…。格好良いじゃない」

 早苗の耳に、突然声が聞こえた。
はっとして顔を上げ、辺りを見回した。

「あっ!」

 声の主は由紀。
廊下の障子に半分身を隠し、まじまじと早苗の姿を見ていた。

 あせった早苗はすさまじい勢いで着物を着込んだ。
女の子に、しかも一番の友達に男の身体を見られた。
 そのことが恥ずかしくて堪らなかった。

「あぁ…。もう着ちゃった」

 少し残念そうに言う由紀に、早苗は紅くなりながら怒鳴った。

「見るな! 恥ずかしいだろ!」

 しかし、由紀はまったく悪びれた様子がない。

「いいじゃない。減るものでもないし」

 面白そうに言う彼女に背を向け、早苗は言い返した。

「いい。二度と見せないから!」

 乱れた襟を、裾を直しピシッとした姿に戻した。
それを由紀は縁側に座って観察していた。

「格さん細いかなって思ってたけど、脱ぐと案外良い身体ね」

「へ?」

「それじゃあモテるのもわけないわ」

「は? 俺のどこがモテる?」

 勝手なことを言い始めた親友に早苗は惑わされ始めた。

「自覚ないの? だって、男前だし、背は高いし、いい身体してるし、頭良いし、強いじゃない!」

 女には絶対当てはまらない言葉の羅列に早苗は混乱し始めた。

「はぁ?」

 由紀の話は続いた。

「それに、控えめで、真面目で優しいじゃない。女の子にモテる要素全部あるじゃない! …中身が女の子っていう以外」

 少し残念そうに言う由紀に呆れながらも、少し寂しさを感じていた。
たとえ仮の姿が完璧だとしても、それは仮。本来の姿ではない。

「…嬉しくない。女の子にモテても」

 彼女が望むのは、ただ一人の男の心。
ただ一人、助三郎にモテたかった。
 それを知っているはずの由紀は軽口をたたいた。

「そうよね! 格さんは助さんが大好きだものね!」

 大きな声でそう行った彼女を前に早苗は焦った。

「…声が大きい!」

「なんで?」

「…正体隠してるって言ったろ!? 忘れたのか!?」」
作品名:雪割草 作家名:喜世