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雪割草

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光圀は、早苗可愛さで、あまり『格之進』には怒らなかった。

「…でも、なんでこうまでして俺と飲みに行きたい?」

 素朴な疑問だった。

「一人で行ったらつまらない。良いだろ?」

「ふぅん…」

「…お前はイヤか?」

 悲しそうな顔で、彼は早苗を見た。
その顔に申し訳なさを感じた早苗はすぐに弁明した。 

「…イヤじゃない!」

「よし! だったら飲むぞ!」


 早苗は先を行く助三郎の背を眺めながらぼんやり考えていた。

 男の姿で友達と歩くと、逢い引きに見られる。
しかし、許嫁の男と歩いても逢い引きには絶対にならない。
 
 早苗は助三郎と『逢引き』なる物をした事が無かった。
旅の途中で何度か町人の娘が同じ町人の男と逢引する姿を彼女は見た。
 皆嬉しそうな顔をしていた。
 好きな男と手をつないで、寄り添って…

 すぐ隣の許婚に手は届く。
しかし、それは許されない行為。
 彼女は道中、『格之進』であって、『早苗』ではないのだから…

「いいな、逢引き…」
 
 早苗は憧れを胸にしまいこむと、助三郎と酒を飲みに居酒屋へ入った。





 その頃宿では由紀が姿の見えない早苗を探していた。

「お銀さん、早苗どこ行きました?」

 彼女は由紀を座らせると、こそっと言った。

「逢い引き。助さんと」

「えっ? 逢い引き?」

 驚く由紀を笑い、お銀は彼女に茶を勧めた。

「うそ。飲みに行ったわ」

「なんだ。男同士ですもんね」

「でも、ほんと仲良いわねあの二人」

「…ですね。友達みたい」

 由紀は二人のちょっと変わった関係を思い笑った。

「…ところで、助さんって、まったく気付いて無いのよね?」

「…はい」

「…早苗さん、一緒に飲みに行けて、可哀想なのか、幸せなのか微妙な所ね」






 酒を頼み、肴が運ばれてくるのを待っていた二人だったが、助三郎が徐に口を開いた。

「最近どうだ?」

 抽象的な質問に早苗は首をかしげた。

「…どうって?」

「何か良いことあったみたいだが?」

 早苗はギクリとした。
たしかに、彼女にとって良い事はあった。
 目の前の彼に抱きしめてもらったこと。
しかし、それは絶対に言えない。

「…なんで?」

 目を見ず、ボソッと伺うと彼はニヤッとした。

「なんか、うれしそうだから」

 これ以上詮索されるのが怖くなった早苗はすぐにその話を打ち切ることにした。
 
「特にはない…」

 助三郎も、根掘り葉掘り聞くべきではないと思ったのか、それ以上突っ込むことはなかった。
そうこうするうちに酒と肴が運ばれ、二人の酒宴となった。
 酒が少し進むと、早苗は懐からあるものを取り出した。

「そういえば助さん、為替と一緒に入ってた」

 こっそり夜中に書いて隠し持っていた文を、助三郎に手渡した。
不思議そうに彼は受け取り、早苗に聞いた。

「誰からだ?」

「開けてみれば、わかるんじゃないか?」

 自分が書いた文。しかし、彼の反応が見てみたかった。
彼は文を丁寧に開けるや否や、驚いていた。

「…早苗だ」

 その反応に少しうれしくなった早苗は、身を乗り出して彼に聞いた。

「早苗さん、なんだって?」

 すると、助三郎は文を後ろに隠し、酒で赤らんだ顔をさらに少し赤らめて言った。

「恋文だから教えてやらない!」

 勝手に『恋文』と決めつけた彼を見て吹きそうになったがどうにか堪えた。

「はいはい。お一人で恋文を堪能してください」

 恋文など一度も貰ったことはない早苗は、憧れを抱いた。
目の前の男から、いつか恋文がほしいと… 
 しかし、その前に彼の本心が知りたかった。

 文を一心不乱に読む許婚を見ながら、早苗はちびちびと酒を口に運んだ。
文を読んだ後の感想に思いを馳せながら。
 すると、知らぬ間に彼女の隣に女が立っていた。 

「すみません…」

「どうしました?」

 いち早く気づいた早苗が彼女に応対した。
すると、女は礼儀正しく頭を下げて礼を述べた。

「貴方に助けていただいた者です。ありがとうございました」

「あ、いえ…。大丈夫でしたか?」

「はい」

 そこで助三郎はやっと女に気づいた。
文を畳んで懐に仕舞い、彼女を見た。

「あれ? 格さん、その子どうした?」
 
 女は助三郎にも頭を下げた。

「助けていただき、ありがとうございました」

 すると、彼も気づいたようだった。

「ああ、あの? 無事で何よりです。で、われわれにどのような?」

 女に興味津々の助三郎が早苗の目に付いた。
ムッとし始めた早苗だったが、それが表情に出ないよう努力した。
 女は助三郎の視線など気にも留めず、静かに用件を述べた。

「皆様にお礼がしたいと思いまして、明日お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「はい、もちろん!」

 彼の嬉しそうな顔を見た早苗は少し悲しくなった。
 結局彼は女好き。女であれば誰でも良い。
 そう思い込んだ早苗に、もう二人の会話は届いてこなかった。

 ぼんやり考え事をしているうちに、女は帰って行った。
それから二人は酒を楽しみ、宿に戻ることにした。

 ほろ酔い気分で並んで歩いていると、助三郎がニヤニヤしながら早苗に言った。

「格さん、あの子お前に気があるぞ」

「は? なんで?」

「鈍いな格さん」

 鈍いのはお前のほうだと、早苗は恨めしく彼を睨んだ。

「人の事いえるか…」

 しかし、彼は酔っていてそんなこと耳には入らない。

「ん? 何か言ったか?」

「…なんでもない。それはそうと、どうだった恋文?」

 楽しみにしていた感想を聞くときがようやくやって来た。
しかし、許婚は平然と呟いただけ。

「残念だな。恋文じゃない」

「へぇ。可愛そうに…」

 嫌味でそういったが、彼は少し面白そうに話を続けた。
 
「助けてやった礼と注意書きだった…。お前が俺に言うような事ばっかり」

「…え?」

 助三郎の言葉に、彼女ははっとした。
何も深く考えず、思ったことを書いた。
 それゆえ、いつも彼に面と向かって言うのと同じことを、ついつい書いてしまっていた。

「真面目に仕事しろ、浮気はするなって。性格似てるんだな二人とも」

「…そ、そうか?」

 助三郎がこの場で格之進の正体に気付くとは思えなかったが、早苗はギクギクしていた。
早く話が逸れればいいのにと、心の中で願った。
 しかし、その願いもむなしく助三郎はさらに早苗が困る質問をした。

「そういえば格さん、橋野様と親戚なんだよな?」

「…あぁ、そうだ」
 
 早苗は次にくるであろう質問に恐怖した。
しかし、彼はそれをした。

「だったら、早苗とはどういう関係になるんだ?」

 苗字は母方の伯父の物。
それゆえ、真っ当な答えは一つ。

「えっと…従兄弟、かな?」

 言い方がまずかった。
自信を持って言わなかったせいで、助三郎に突っ込まれた。

「かなって? 正確に解らないのか?」

 渥美格之進はこの世に出来て日が浅い。
しかも、社会的には存在しない。この道中限定の男。
 それゆえ、彼女は正直に言った。

「俺の存在、複雑だから…」
作品名:雪割草 作家名:喜世